4 / 4
第4話 知らない感情
カイは、自分だけになったベッドで膝を抱えて目を瞑っていた。
ヴァルとの二度目の行為は、予想外だった。
肌を合わせると、こちらのことは、どんどん暴かれていくのにヴァルのことは外側しかわからない。
(怖い)
心が追い付かない。
(怖い)
ヴァルが言っていることは、わかるのに。すごく遠くにいるみたいだ。
(怖い)
ヴァルから与えられるものが、【自分】に向けてじゃないとわかるから。
(もし、こどもできなかったら)
どうなるんだろう。契約がうまくいかなかったときのことを聞いてなかった。
(きっと、ここには、いれない。追い出される)
そうしたら、また
ーー独り。
「これは、仕事。仕事なんだぞ俺」
誰にも必要とされない劣等オメガができる仕事。当面の宿ができてよかったじゃないか。
それなのに、不安は、普段思い出すこともなかった記憶が甦らせる。
いつだったか。
『お金がないなら男娼でもやればいい』
オメガは、どんな時でも生きていく術があるよね。そうやって笑ったオメガがいた。
彼は、美しい容姿で、その容姿に相応しく伯爵家のオメガとして嫁いでいった。
(オメガだからって、誰でも人に求められるわけじゃない)
代替オメガとして抱いてもらえる降って湧いた機会。劣等オメガである自分が選ばれることなんてこの先あるはずがない。
秘処から漏れる体液を中指と薬指でぬるりと掻き出す。
「ん、ふ…」
(悪いことだと、わかっている)
瞼はあけれななかった。
でも、すぐに妊娠したら、ここを出ていかなくてはならない。
「ひゃ、ぁ、ぅ、うくっん」
股を伝って敷布へ染みていく残滓。
少しでも出して、確率を下げたかった。
自身の不安と行動が相反することは、わかっていても、カイは、肌に触れた温もりを手放したくなくなっていた。
下女エレナが|夕《・》|食《・》を持ってきたのは、朝だった。ヴァルからどのように伝え聞いているのか恐ろしい。カイは、空腹を抱えて朝食を睨むしかなかった。
食事を終えたカイは、現在の修学状況についてエレナから質問される。
「大体で結構ですので。学院でどこまで学ばれたか教えていただけますか?」
(修学状況?)
愕然とする。
カイは、学院等行っていない。
仕事で不便のない程度の読み書きは、地元の老教師から習ったがそれだけだ。
それを伝えるとエレナは、口元に手を当てて暫し黙した。
「ヴァルディス様からは、わからないことを教えるよう伺って来ましたが、これはーー」
「ごめん。俺、北の田舎出身で。|ヴァラン《首都》では皆、学院へ行くのか?」
確かに、元仕事先の息子は、学院へ通っていた気がする。
「いえ、それは流石に。しかし、ヴァルディス様にお仕えする邸の者は、全て学院出身でして……。家格は、男爵以上ですので」
「……」
「まずは、行儀作法の確認からですね」
エレナは、失礼しますと席を離れる。すぐに戻ってきたエレナが15センチは、あろうかという誰某の行儀作法書を出したのでカイは思わず天井を仰いだ。
昨晩飛ばされた夕食を、今日はヴァルの執務室でするというので、終わりのない行儀作法の授業を終え、すっかり日が陰ったあと訪れた。
執務室に入れば、苛立っているのか前髪を掻き上げながら、ヴァルが書類を捲る音が響く。
応接用の椅子に座らされたまま、ヒュッテから待つよう言われたカイは、鋭い空気に肩を強張らせながら、声をかけられるのを待っている。
「スパーニャから書簡が届いています」
「今回も気候と王妃の様子を書いて送っておけ」
執務机の周りは書類が山積みにされ、忙しなく羽根ペンが動く。ヒュッテの腕から新しい紙が渡されたかと思えば、回収されを何往復もしていた。
「それでは、私はこれで」
「ああ」
机の上がすっかり綺麗になり、ヒュッテは、台車へ書類を乗せ部屋を出ていった。待ち構えでもしていたのか、入れ替わるように下女が料理を乗せた台車を押して来る。
(やっと終わった)
カイは、こっそり息を吐いた。
応接テーブルに並べられていく食事に、安心感がわいてくる。
(緊張した。国家の大切な?ことっぽいし)
スパーニャという隣国名が出ていたから、外交関係かな、などと推測してみたが、ただの市民にわかるはずもない。
さて、料理だ。と口角を上げようとした時。
ヴァルに手招かれる。
カイは、小首を傾げる。呼ばれたままに、執務机の前にいるヴァルの所へ行けば手首をとられ、腰を寄せられ。
ヴァルの膝の上に乗せられていた。
「ぁ…っ」
何をされるか見当がついたカイは、さっと顔を青ざめるが、ヴァルの手は既に不穏な動きをしている。
後ろでは、下女が何事もなくカトラリーを並べていく音がしていて、そのあまりの背徳から気絶しそうだ。
だが、カイの腹がその場を救う。
高く細長い空腹を訴えるカイの腹の音に、ヴァルは、手を止め「食事にするか」と言ったのだ。
胸を撫で下ろして、ヴァルから逃げるようにテーブルへ向かった。
「エレナから行儀作法を学んでいるらしいな」
「はい。その、俺全然わからなくて……」
「公の場に連れていくことはないだろうから気負わなくていいぞ」
「……ありがとうございます」
「ああ」
(何を話したらいいかわからない。それに、やっぱり俺、ここから出れない感じなんだな)
閉塞感よりも安堵が勝つ。
皿に盛り付けられた蒸した魚と葉物を教えられたことを思い出しながら、口に運んでいく。
デザートに出た柑橘のような果物が美味しくて、これは何だろうとヴァルを見たが、既に食後の茶を飲んでいた。置いていかれたような寂しさが胸に来たが、カイはお茶と一緒に、飲み込んだ。
「そろそろいいだろう」
「え?」
気付けば、ヴァルの顔が間近にあった。
唇が押し付けられ、角度を変えて舌が口の中に入ってくる。
「んぅ」
ソファの背凭れとヴァルに挟まれてカイは、身動きが満足に取れないまま口付けに夢中になっていく。
(あったかい……)
目を瞑り荒々しいのにすぐ消えてしまいそうな温もりを
享受する。
ヴァルの指がカイの上衣へ侵入し、連夜弄られ過ぎてぽってりとした胸の飾りを摘まんだ。
「ーーっぁあッ」
親指と人差し指の間に挟まれ擦り合わせられれば、カイは何度も体を跳ねさせる。
「ヴァルさまぁ…っそこ、ばっかり…ゃ」
潤んだ瞳で諌めるが、ヴァルは体を傾けると、更にカイの乳首を口に含んだ。
「だめだっだめぇっ」
舌が直接そこを責めるせいで、快感が稲妻のように体へ走る。空いたヴァルの手が体中を這い回り、カイはすぐに達してしまった。
「は……っは…っぅ、」
大きく傾いたカイを抱き止めるが、ヴァルはそのまま首筋に口付ける。
番の契印に使われる首は、オメガにとって特に敏感で、カイは首を窄めて逃れようとする。
「ゃあ…っも、や…っ」
「嫌だ嫌だというが、これは契約のはずだが」
「あ……」
不快そうに眉をひそめるヴァルに、カイは乱れた上衣を握りしめながら、涙を溜めた。
「も、申し訳ありません……」
「オメガと言えども一度で妊娠できるわけではないだろう。回数を重ねるのは当たり前だと思うが」
「は、い」
「不服か?」
ヴァルは、ただ事実を並べているだけだ。しかし、それはカイに棘となって刺さっていく。
「いえっいえ……慣れないため、無作法をしました。お許しください」
カイは、どうすればこの虚しさを露にせずに済むか考えを巡らした。
そして考え付いたのは、自らヴァルに奉仕することだった。
濡れる後孔に、恐る恐る指を差し込んで拡げる。冷たい空気が入ってくる気がしてカイは、挫けそうになるが、気を振り絞る。ソファに座るヴァルの猛り立つ幹に腰を落としていく。
「んあっ、ひゃ、あぅ」
下穿きだけ脱いで、行為をすることの破廉恥さに頭が沸騰しそうだ。
「もう少し腰を下げれないか」
「は、い…んっ、ゃって、みま……ッ」
自ら脚を拡げ、よりヴァルに密着しようとするが、カイの体を支えていた膝は、緊張に耐えかねて滑ってしまう。
「き、ゃううううっ!!!」
ずるる、と腰を落としてしまって、腹に全てが収まった。行為を重ねるごとに女のような悲鳴に変わる声が嫌でたまらなく、カイは両手で口を覆う。
「ふーーっんーーッんぶぅうう」
しかし、その手を、眉をしかめたヴァルが剥ぎ取ってしまう。
「ひっ?!あっあっあっ、ぁっアッぁ、うんっんっ」
腰を掴まれ、軽く揺らされるたけで、カイは涙を流しながら達しそうになる。
「はぁ」
焦らされた故か、時折ヴァルが漏らす溜め息がカイには見捨てられたようで怖かった。
ゆっくりと体を上下させる。抜けるぎりぎりまで腰を上げ、勢いよく下げる。
「んあっあっ、は、あっあうっうっひゃああ」
繰り返していく内に、自分のいい場所に押し当ててしまいがくがくと内腿を震わせながら、精を放った。痙攣を起こす蜜壺に搾られ、ヴァルも中へ精を吐き出す。
終わりを予兆させず、次を促される。
「っうぁ、も、しわけありま、せ。うごけな」
しかし、太股が痙攣し腰に力が入らない。カイは、ヴァルの肩へ頭を伏せて息を整えようとするが、先にヴァルが動いてしまう。
「ならもういい」
くるりと体の向きを変えられる。
仰向けになり、ソファへ背中を沈められ、挿入されたままの臀部を高く天井へ向けられた。
「っっ、?!やーーッひゃらっだめで、す!ぃま、いっててっ、まだつら……つらぃい」
「舌を噛むなよ」
腰を厚い掌で固定され、逃げれなくされると激しい抽送が始まった。
「やらぁっ!!やっ!ゔぁるさま、あうっんっんっんっきゃ、あ、お、うんっうんっんっは、あ、ぅ、ーーッや、ヴァルさまあ、あぇっや、ら、ぁ!!!や、らあああ!!!」
ヴァルの全体重をかけられ抉るように腰を打たれれば、腹を狂暴な矛が掻き乱す。
「んっんっんあっやぁっやらあっも、ゆるし、ひぃっあっやっやめっやらっ!くるし、くるしい…っもぅ、いって、いってぇっっヴァルさまってえええ!!!」
屹立した小さな花芯から、蜜を垂らしたまま、カイは中でイき、矯声で絶え間なく唄う。
「…っく!」
煽られ触発されたヴァルは、呻き声と共に薄い内膜へ精を放った。
「ーーッーッ」
全身を大きく痙攣させ、カイは仰け反ると脱力した。
ヴァルが萎えた怒張を引き抜くと、口を開いた後孔から体液が流れ出た。
けれど、そのまま自身の身だけ清め、静かに立ち上がり仕事へ戻ろうとするヴァルにカイは、感情が決壊してしまう。
「……っひぅ、っひっ……」
あまりのことに堪えきれずカイは、ヴァルの前だというのに肩を震わせ泣き始める。
(ばか、泣くなよ……なんで、俺泣いてんの、止まんねえ…)
「ひ、ぐ、すみませ、ごめんなさ」
嗚咽混じりに謝る。用は終えられているから早く部屋を出なくてはいけないのに、カイはまだ起き上がれもしない。
ヴァルは、目の前で泣き続けるカイに近づきかけて止まり、口を開いた。
「何故泣く」
無表情で、淡々とした問に、カイは、答えられず瞼を落としていった。
ともだちにシェアしよう!

