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プロローグ
「おかえりなさい」
扉を開けて、緒田は笑顔で牧瀬を出迎えた。
「ただいま」
牧瀬は答えて、部屋に入った。部活帰りのジャージ姿の彼は、汗ばんだ前髪がおでこに張り付いていて、少しだけ呼吸が荒かった。
「今日は遅かったね」
「うん。練習が、結構ハード。まだ入部1週間だぜ?やっぱレベル高けえわー」
牧瀬はそう言いながら、荷物を床に置いたあと、ジャージの上着をサッと脱ぎ、近くの棚へ適当に掛けた。そしてシャツを脱ぎ、親友の緒田に向けて、躊躇いなく自分の上裸を晒した。
彼の白く美しい肌が、汗ばんでテラテラと、健康的に輝いていた。
小田は少し目を伏せながら、そっかと答えた。
牧瀬は、先に風呂もらうな?、と脱衣所へ入っていった。
バタン、と扉が閉まる。
しばらくして、シャワーの音と、牧瀬の鼻歌が聞こえ始めてきた。
ドクン。
緒田は、自分の心臓の音が大きくなるのを聞いた。
緒田巧は、高校1年生。
この春、全寮制の男子校「星室学園高校」に入学したばかりだ。
そして、寮のルームメイトは、牧瀬想太。
緒田にとって、小学校時代からの親友。何でも話せる幼馴染。そして・・・緒田の初恋の人。
(練習終わりの想太、かっこよすぎるよ・・・)
緒田は目を閉じて、先ほどの牧瀬の上裸姿を、もう一度脳内で上映した。
目を見開く。
眼前に、牧瀬の脱ぎたてのジャージが乱雑に置かれていて、それが緒田を誘惑した。
まるで、ほかほかと湯気を立てて、色香を振舞っているように見えた。
ドクン、ドクン。
緒田は思わずそれを手に取り、そっと自分の顔に近づけようとした。
緊張と後ろめたさと興奮が入り混じって、手が震える。
そして、スーッと、息を吸おうとした瞬間、バッと脱衣所の扉が開いた。
寝巻姿の牧瀬が出てきて、緒田は思わずジャージを棚に戻した。
「ん、どした?」
慌てた様子の緒田に、尋ねる牧瀬。
「ううん、何でもない・・・」
「あ、そう?」
「えへへ・・・」
その後、ドライヤーで髪を乾かす牧瀬を横目に、緒田は気持ちを落ち着けたくて、一人ベランダに出た。
山合いに位置するこの学園では、星があまりにも綺麗に瞬いていた。
緒田は、牧瀬への気持ちを隠したまま、親友を続けている。
また、牧瀬は緒田の気持ちに全く気が付いていなかった。
(切ないなあ・・・)
緒田は一人、ため息をついた。
二人の親友としての同居生活は、このように始まっていたのであった。
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