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第1話 春(6)

 青葉寮のエントランスに入ると、玄関ホールはシンプルなつくりだが、ホテルのようないい香りがした。掃除が行き届いているようで、いい空気が流れていると緒田は感じた。  普通なら食堂で晩ご飯の時間だが、今日はそんな気分ではないだろうと、梶が気を使って2人を応接室に案内し、食事をそこに運んでくれた。応接室は玄関すぐ横の受付スペースから入った一室で、寮監が来客時に使う部屋のようだった。  梶も自分の食事を持ってきて、3人で晩ご飯を食べた。  寮の食堂で作られたというそのメニューは、品数が多く、どれも栄養満点で美味しそうなものばかりだった。 「スポーツは身体が資本、そして身体づくりはまず食事から。料理には結構力はいってるから、ウチ」 そう言いながら、梶は唐揚げをほおばった。緒田も早速食べてみた。サクッと衣が音を立て、中から熱々の肉汁が飛び出た。かなり美味しい。  牧瀬も恐る恐る、食事に手をつけ、やがてガツガツと食べ始めた。塞ぎこんでいた彼だが、少し元気を取り戻したようだ。  食事を終えると、梶は二人に寮生活の基本事項を説明した。消灯時間や、共用部の使用方法など、まあ細かいことはプリントに目を通しておいてくれや、とラフに言う。  次に、学園に存在する6つの寮の話になった。緒田と牧瀬が入寮するここ<青葉寮>は、6つの中で最も「安全な」寮だと梶は語る。寮監である梶がセクハラに対して厳しく目を光らせているため、そもそも性モラルの低い輩は、自主的にこの寮から他寮へ移るそうだ。  逆に、今日2人が情事を目撃した黒鉄(くろがね)寮は、いま学園で最も治安が悪い寮だそうだ。シャワーやトイレは個室完備だが、共用のトイレや大浴場なども残されており、今日のように職員から隠れて事を行いやすい造りになっている。黒鉄の寮監がそういったことへの統制にあまり積極的ではないことも、秩序が乱れている要因らしい。 「あと部活によっても治安がだいぶ変わってくるんだが、バド部は昔から風紀に厳しいから、【変な噂】も全く聞かない。そこは安心していいと思う」 梶に言われると、牧瀬は緊張が一気に解けて、ヨッシャーとおどけてみせた。緒田も、この寮とバド部近辺は、牧瀬が競技生活に集中できそうな環境だと、ホッと肩を撫でおろした。 ーーー  その後、緒田たちは今日から住む部屋に案内された。  扉が開くと、シンプルで使いやすそうな8畳ほどの部屋。シングルベッドが左右の壁に1つずつ引っ付いていて、その奥には勉強机と、服をかけるラックもある。部屋の中央には、長方形のローテーブルに座布団が二つ向かい合っている。  クリーニング後なのか、清潔な香りがした。 (こっ、ここが・・・) ここが、今日から、自分と牧瀬が一緒に暮らす部屋だ。 そう思うと、緒田は急に顔が熱くなった。恐る恐る、牧瀬のほうを見た。 牧瀬と、目が合った。 牧瀬はニコッと微笑んだ。 こうして、二人の共同生活が幕を開けたのであった。

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