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 ずっと……嫌いだった。  恵まれた環境で産まれ、何不自由なく育ち、誰もがはっと目を瞠るような美しさを持った彼が。  何も持たない、何も望まない僕が初めて手に入れたいと思った(ひと)。  彼には絶対に渡したくないと思った。 * * 「なにを考えてるんだ? 秋穂(あきほ)」  僕の胸に(うず)めていた顔を上げ、冬馬(とうま)は言った。 「……詩雨くん、相変わらず……ううん、前以上に綺麗になったなぁって思って。最後に会ってから八年以上も経ってて、僕らももう四十に手が届きそうなくらいなのに。とても同い年に思えない」  柑奈(かんな)詩雨をずっと嫌いだったからといってけして嫌味を言っているわけではない。素直な感想だった。  歳を重ねても衰えない美貌。それに加えて、あの頃以上にきらきらと輝いて見えた。 (幸せ……だからだろうか)  一緒に連れてきた男性は、僕らよりも少し年下のはずだ。  冬馬が買ってきた雑誌に記事が掲載されていた。パリの出版社が発行したファッション雑誌だが、パリでもファッションショーに出たことのある、日本では有名な『ハル』というモデルらしい。  (たちばな)冬馬は、日本の服飾系大企業『タチバナ』の社長の長男で、自身でもアパレルショップ『Citrus(シトラス)』のオーナーをしていた。  その時に詩雨に紹介され、Citrusのショーモデルに抜擢したのだと、雑誌の記事を見ながら話してくれた。  冬馬は「初めてハルを見た時誰かに似ているって思ったんだが、誰だかわからなかったよ」と笑っていた。  でも僕はその写真を見てすぐに誰に似ているかわかった。  それは冬馬自身だ。 (詩雨は彼を冬馬の身代わりにしていたのかもしれない。でも……) 「アキ?」 「え……」  少し考えごとをしていた。 「お前も変わらず綺麗だよ。いや、昔以上に綺麗になった」  まるで、さっき自分が詩雨に対しての言った言葉をなぞっているようだ。ごろりと僕の上から離れ、横に寝そべる。ベッドに肘をつき、その上に頭を乗せて僕の顔を覗き込んでいる。 「な、何言ってんのっ」  ばしっと彼の腕を軽く叩いて、頬を膨らませた。顔は少し赤くなっているかもしれない。 「そういうところだよ」 「そういうところって?」 「そういう顔、昔はしなかっただろ。顔色も良くなって表情も豊かになった……それに、少し肉もついてきたかな」  そう言いながら、裸の腹を撫でる。 「えっち!」  今度は冬馬の腹にぼふっと拳をぶつけた。軽くではあるけど、跳ね返されるように筋肉がついていた。衰えないものを持っている者はここにもいた。 「なに、言ってんだ。俺たちえっちするところだろ」

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