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最終話
パレードに参列出来るのは功績を挙げたことがある兵士が優先的に選出される習わしがある。
どうやらロダンの友人と言うアルバトフはかなりの強者のようだ。
しかも姓のない平民出身なら相当なものだと思う。
「うん、分かった。因みに王室所属の兵士はどんな環境でも耐え抜くために厳しい訓練が待ってる。その覚悟はロダンにはあるんだね」
「はい。友人を守れる距離と強さが得られるのなら、覚悟の上です」
「分かった。団長と話してみるよ」
ロダンは努力家だ。試験に合格するための実力はギリギリだけど既に身についている。
不合格でも何度も受けられるものだし、いつかは入団出来るだろう。
その間は見習い騎士の予備軍に入れておけばいい。
滅多にないことだが、兵団から騎士団に成り上がる者は歴史上で僅かにいる。
ロダンと同い年で、王室所属の組織に入団する勇者なら、今でも出世を夢に見ているかもしれない。
それにお節介だろうけど、せっかく今が騎士なんだから、わざわざ兵士に身分を落とすよりも騎士団に入らせたい。
入る隊によっては基本の仕事が王城内の警備だし、戦争も馬に乗った指示役で逃げて来られる立場だし。
(……ロダンは身代わりで生き延びようとするほどずる賢くないか)
いろんな考えごとで黙っていたロレティカは、カナが戻って来たことで考えるのをやめる。
差し出された紙に離職届を製作していると、お茶を入れてくれたアルとカナが先にロレティカとルーシーの分を入れてくれた。
それから客である騎士と、身内の分を作ってアル、ルカ、カナをソファに座らせる。
座って前のめりになっている体勢に、どんな返事が返ってくるのか予想が出来た。
それでも誠意を込めて誘う。
「王城は危険なこともあるだろうけど、一緒に付いて来てほしい」
「もちろんです! ロレティカ様が行く場所がどこだろうと一緒にいます」
「そうですよ! ロレティカ様の隣が私たちの居場所ですから、危険が有ろうと無かろうと付いて行きます!」
「ロレティカ様が私たちを誘ってくれたことが何よりも嬉しいんですから。それだけで十分、後悔するなんてあり得ません!」
なんとも頼もしい返答だ。少し声は大きいが……。
それでも受け入れてくれた言葉になんだかくすぐったくなって頬が緩んでしまった。
三人には行かせたい場所があるけれど、しばらくは側にいてもらおう。
そうして三人分の離職届も書き、今度は執事の二人に視線を向けると、向かいのソファの後ろから背凭れに寄りかかりながらリュダが片手をあげた。
「俺はまぁ可愛い女性がいる所なら拒否するつもりはありませんよ。ロレティカ様の執事として働けるなら色々とおこぼれもらえそうですし、願ったり叶ったりスわ」
「僕もクビになって職に困りたくないから、付いていきたいかな」
リュダはその自由な性格が羨ましいほどだ。メロは自己評価が低いけど、真面目に与えられた仕事はどんなに時間が掛かろうとこなすのだから今後もいてほしい人材だったし、そこに忠義がなくても有り難い。
二人の離職届を書いて一つに束ねる。
本人からの意思も確認したので届出を執事長に渡して、荷物を運べば用件はあと一つになる。
(最後は──)
ロレティカは宝箱の中身を確認すると、騎士に運ばせてから最後の目的にローラの姿を探した。
他のメイドと一緒に洗濯物を干す姿を外で見つけて、名前を呼ぶ。
「ロレティカ様、おかえりなさいませ。顔色がよろしいようで安心しました」
「ありがとう。僕、これから王宮で暮らすんだ。もう聞いてる?」
「はい。侯爵様が話していましたから。私もそれが良いと思います」
「そっか。ローラに渡したい物があるんだ。これ、あげる」
「ありがとうございます」
干されたシーツとルーシーの影になっている位置で渡したのは手紙だった。
ローラは手紙を開くと、中身を見て目を見開いた。
メイド長のローラは、ロレティカの専属じゃない。だから王宮には連れては行けない。
その代わり、ロレティカはいい物を作って渡した。
「無茶はしなくて良いから。ダメそうなら直ぐに帰って来て」
「──はい。本当にありがとうございます。私はロレティカ様に会えて勇気をもらいました。だから一人でも上手くやってみせます。安心して王城で暮らしていてください」
中にはお守りが入ってる。
ラムラス領の子爵家へ宛てたものだ。
タヴィは好奇心が旺盛で、ロレティカでも心を開いてくれたから、ラムラス家ならきっとローラを受け入れてくれるだろう。
差出人の名前にはちゃんと家門ではなくロレティカの名前を使っている。
タヴィの目に留まれば雇うことに協力してくれるだろうし、ラムラス家は近く娘が生まれる。一度追い返されたとしても、前世とは違ってローラの今の人柄なら呼び戻してくれるはずだ。
「これからもお仕事頑張ってね」
「はい。ロレティカ様、お幸せになってくださいね」
「ローラもね!」
最後に笑って手を振り別れる。
執事長に六人分の離職届を渡して屋敷を後にすると、先にアルたちは女性と男性に分かれて馬車に乗っていた。
宝箱はロレティカとルーシーが乗ってきた場所の荷台にロープでしっかりと括り付けている。
「忘れ物はございませんか」
「うん。大丈夫だよ! 帰ろうか」
「はい」
馬車に乗って開いた窓から屋敷を見上げる。
ここに来ることが二度とないように、運命に抗い続けて王宮の暮らしを生き抜いていく。
(険しいだろうけど、家族に虐げられる毎日よりはマシだ。王妃とバレック王子からの干渉も王城の陛下の宮殿にいたほうが避けられる)
開いた窓から優しい風が頬を撫でた。同時にどこかの家から漂うスープの匂いが仄かに香って過ぎていく。
目を閉じれば馬車の車輪が石畳の道を回る振動と音が楽しく感じられた。
ふと、ルーシーから名前を呼ばれる声で目が覚めた。
どうやらいつの間にか寝ていたらしい。
目を閉じて音に聞き入っていたので、いつ寝てしまったのか記憶が曖昧だった。
「そろそろ宮殿前に着きますよ」
「うぅん……」
目を擦って腕を前に伸ばしながら伸びをすると欠伸が溢れて、慌てて大きく開いた口元を両手で隠した。
人前で大きな欠伸なんて、どうにも気が緩んでいる。
けれどロレティカの行動をルーシーは咎めたりはしないで、軽く笑い飛ばしてくれた。
「疲れてしまいましたね。荷解きはやっておきますから、陛下とお茶を飲んだらお昼寝をしましょうか」
「うん」
馬車が止まると騎士の手を借りて下りたロレティカは、離れた所で出迎えてくれていた陛下を見つめ上げた。
後ろには専属となった使用人たちも一列に並んで迎えてくれている。
ロレティカは一歩ずつ数段の階段を踏み締めて上り、陛下の側に来ると手を後ろにして歯を見せて笑った。
「ただいま」
「おかえり、ロレティカ。忘れ物はしてないかい?」
「はい! 大切なものは全部持ってこれました」
地下書斎から出たときに良くしてくれたメイドの三人。
話したことは少ないけど雑用やどんな環境でも嫌がらずに監視と警護をしてくれた騎士に、個性的な新しい執事の二人。
そして宝箱に隠した昔の硬貨と、いつか細身の体格に合いそうな剣と剣術の本。
必要そうなものは全部持ってこられた。
「ではお茶を飲んで休もうか。私も書類処理で集中力が切れてしまってな」
陛下の提案に胸が高鳴って背筋が伸びた。
「陛下とお茶会、する!」
「では、庭園に行こう」
差し出された陛下の大きなに、ロレティカは小さな手をその指にに引っ掛けた。
そして弾む足取りで、玄関ホールへと歩みを進めた。
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