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第1話
「うっわ…高ぁ…」
4月からずっと夢見てきた、都会での大学生活。
田舎から出てきたばかりの僕は、ようやく掴んだ一人暮らしの夢を、
家賃の高さに直撃されて、現実に戻された。
不動産屋の店頭に張り出された物件を眺めながら、
頭を抱えてため息をつく。
どれも予想の倍以上。
駅近でスーパー近くて日当たり良くて……って条件を少しでも満たそうとすると、
もう手の届かない数字が並んでいた。
「何かいい部屋、ありそう?」
不動産屋からスーツ姿の男が出てきた。
40代くらい、穏やかな笑顔の、不動産屋の社長らしい。
「君みたいな子にはオススメの物件があってね」
通された事務所の机の上に一枚の紙をそっと置く。
「え……?」
「築10年、駅・スーパー徒歩5分以内、日当たり良好、冷暖房完備、閑静な住宅街、1LDK……
家賃、なんと月5,000円。最高じゃない?」
「……事故物件、ですか?」
思わず口から出た言葉に、社長はくすっと笑って首を振った。
「まさかまさか。
私が個人的な趣味で建てたんだ。
若い子に頑張ってもらいたくてね。
ただ、人気があるからすぐ埋まっちゃうかもなんだよねぇ」
優しげな目。
柔らかい声。
穏やかな笑顔。
どこか胡散臭いとは思ったけど、
もう他に選択肢がなかった。
この家賃なら、バイトを増やさなくても生活できる。
夢の一人暮らしが、手の届くところにある。
契約書を渡されて、興奮と緊張で手が震えた。
細かい字がびっしり並んでいるのは目に入ったけど、
「まぁ、普通の契約書でしょ」
と流し読みして、勢いでサインした。
「これで君も、今日からうちのマンションの住人だね。 楽しみにしてるよ」
社長の言葉に、僕はただ笑って頷いた。
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