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第1話 俺のヒーロー
「ここがおまえの帰る場所だ。死ぬなよ。」
くるっと背中を向けて歩き出す。
「ここにいるのはおまえの家族だ。必ず帰って来いよ。」
鴎の声がする。海鳴りが聞こえる。
完
カメラがフェードアウトして行く。エンドロールが流れる。
スクリーンが暗くなり部屋が明るくなった。
「鷹尾さん、いつもカッコいいです。」
伸ばした髪を後ろでまとめて、鋭い眼光に口髭がセクシーだ。いかにも、なメガネをかける。
映画の極道の役がものすごく似合っている。
「中々役が抜けねえ。」
どさっと抱き付いてくる。ソファに倒れ込んで受け止める。
試写を見ていた。撮影を思い出して役が戻って来ている。強面で真っ直ぐな男の役。
抱きしめられて困っている俺を見つめて笑っている。頬にチュッとキスされた。
「鷹尾さん、からかわないでくださいよ。」
「正樹は可愛いなぁ。」
俺は山下正樹。俳優、萩原鷹尾の付き人だ。変なキッカケで付き人になった。
小学生の頃見た特撮ヒーローもののテレビ番組。そのヒーローが萩原鷹尾だった。
子供たちのあこがれ。そのヒーローは番組の中で闇落ちして敵側になってしまう。
子供心につらかったのを覚えている。ガキの俺はヒーローが男でも、好きになってしまった。
俺の初恋だ。
彼は強い。逞しい身体で悪と戦う。特撮の装備を脱ぐと生身のヒーローはシャイで魅力的だった。
ストーリーの中で悩み多く葛藤している姿が切なく、子供心にも放っておけない気持ちになった。カバンにマスコットをぶら下げた。ランドセルにシールを貼った。
大人たちに叱られても、俺はいつかヒーローと一緒に地球を救う、と決めていた。
彼は悪者に改造されて超人となったが心優しい人だった。逞しい腕でやっつける。画面の中の彼の暴力は正義だった。
このヒーローの名前は萩原鷹尾。それ以来、俺にとって忘れえぬ人になった。
ジャンガリオン。ハムスターみたいな名前のヒーローだった。改造されたヒーローは洗脳されて敵の言いなりに味方を攻撃する。それでも俺は彼を信じた。いつか縛りが解けて、また、味方と一緒に悪者をやっつけてくれるはずだと。
でもその番組の中で彼は酷くやられて死んでしまう。味方の腕の中で洗脳が解けた彼は最後に
「ごめんな。」と言うのだ。
俺は痺れた。夢中になった。多分このとき俺は
恋に落ちた。
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