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第2話 乗馬
俺は中学生になっても彼のファンだった。
彼は多彩な役者で、意外な役も引き受ける。
源氏物語をアレンジした新作ドラマで平安時代の貴族を演じた。光源氏の親友の役で、影に日向に源氏を支える頭中将(とうのちゅうじょう)役。凛々しい彼に魅了された。
キツい性格を思わせる意志の強い顔。美しい平安絵巻の中で彼の演技が際立つ。
奔放な恋多き光源氏を陰で支えながら、彼を愛しているのが伝わってくる,と言うストーリー。
夕月を取り合った恋のライバルとされているが、頭中将が愛していたのは光源氏ではなかったか?と思ってしまうほど、その目が愛を感じさせる。鷹尾さんは目で語る役者だ。
ドラマの中で光源氏と二人で過ごす時の烏帽子を被った照れたようなその顔が慈愛に満ちている。口元に皺を刻んで歯を食いしばる,耐えているツラい顔。禁断の愛を隠している。
フィクションのこの物語は、頭中将と光源氏が惹かれ合うという BL的な設定だった。
光源氏役のイケメンは今をときめくアイドルから俳優になった、青木侑(あおきゆう)。
二人の焦ったいラブシーンにファンは大騒ぎだ。青木侑の綺麗な甘いマスクと、引き締まった目力のある萩原鷹尾の精悍な顔が、互いに惹かれ合う時・・見ているファンを魅了する瞬間だった。
「すてき!こんな源氏物語もアリだわ。」
二人とも平安時代の衣装が似合っている。
平安貴族のおしゃれな色合わせが話題のドラマだった。
「衣装がいいのは青木侑と萩原鷹尾が素敵だからね。」
狩衣(かりぎぬ)で馬に乗るシーン。萩原鷹尾は乗馬が趣味だと週刊誌に載っていた。
源氏を抱き上げて頭中将が馬に乗る。後ろから抱かれて幸せそうな青木侑だった。
ファンから抗議が殺到した。
「侑と萩原が、本当にカップルに見えるの、やめて!侑はホモじゃないわ。」
迫真の演技が不安を煽ってしまった。
共同会見で
「僕たちはホモではありません。
ファンの皆様に御心配をおかけしてしまいました。申し訳ありませんでした。」
現に、萩原鷹尾は結婚して子供もいるようだった。俺は気が気じゃない。アイドルの青木侑よりも、萩原鷹尾の私生活が気になる。
(あーあ、結婚してたのか。子供もいるんだ。
だからなんだよ俺。俺はバカだ。
こんな、遠くで見てるだけの中学生が心配する事じゃないな。
あんなふうに鷹尾さんに抱き上げられて、
後ろから抱かれて馬に乗りたい。
馬には乗ったことないけど。
乗馬って、カッコいいなぁ。)
いつも妄想が膨らむ、自分の部屋の等身大のポスターに頬を擦り付けた。
「あの目つきが色っぽいなぁ。」
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