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第16話 絵師

 あの憧れの人が抱いてくれた。知らなかった。男同士はどうするのか、信じられない思いだった。心は完全に鷹尾さんのものだ。こんなに全部が好きだなんて。  タバコを待つ指先。グラスを飲み干す口元。 俺を触るその指。全部に感動する。  そして毎日、鷹尾さんに抱かれている夢のような日々。同じベッドに入って抱き合って眠る。  そんな毎日に慣れて来たのに、またしばらくは抱き合えない。今夜は最後の日だ。もう寂しくなっている。こんな女々しい俺は早晩捨てられる⁈  フェイクタトゥーは数日は落ちないそうだけど、激しい接触は止められている。専用のアルコールインクは落ちにくいが,とれたところを書き直すのはたいへんなのだ、と言われた。  本物の刺青じゃないけどあの見事な絵を描くのだ。大切にしなければ。  次の日現場についていった。 彫り師じゃないけど絵師の人が鷹尾さんに下絵を描く。鷹尾さんは裸になってうつ伏せに寝ていた。綺麗な背中に和彫りの下絵を描いていく。  そこに着物がはだけて半裸の女性が入って来た。 「今日は隣のセットで乱暴される売春婦の役なの。綺麗に描いてね。明日は鷹尾と私のカラミだから。」  相手役の女優さん、北山修子だ。馴れ馴れしくて嫌いな女優だ。勝手に入って来て横に添い寝してしまった。 「素敵だわ、この刺青。鷹尾がすごくセクシー。 明日の撮影は本気でやるわ。 前貼りなんかしないでやるわよ。あたし濡れちゃうわ。」 「修子、役に入りすぎだ。」 「終わったらアタシたち電撃結婚とかしたりして。」 「あーないない。絶対ないから心配すんなよ。」 「命がけで勝司に惚れる役なのに。 ロマンがないわね。」 「おまえ役者だろ。切り替えが大事だよ。」 「鷹尾さん、下絵が乾いたようなので続きを描きますね。」  綺麗な女の人が画材を持って入って来た。 下絵の人と交代なのか。 「和彫り絵描きの小松です。」 「この子は一番弟子だから任せられるんだよ。 鷹尾さんよろしくね。」 「なんだよ、弟子に丸投げか。」  その人は鷹尾さんを見つめて視線を離さない。 さっきの女優さんとは大違いだった。 「俺の裸を見られるんだな。よろしく。」

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