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第1話 とんだ出会いだ─お風呂から恋ははじまる─

 一目見て、やっちまったと背中を向けた。 萬巳保(よろずみたもつ)はもくもくと湯気の上がる浴室で顔を真っ赤にさせてちらちらと後ろに目をやる。身体中の血液がサァッと引いていくのを感じて立ちくらみを起こす。  なんで! 男湯に! 女の人がいるんだよっ!  慌てて出て行こうにも、気まずくて体は硬直している。当の本人は気づいていないのか鼻歌まじりに体を洗っているらしい。なんて言おう。 すみません、間違えました?  すみません、ここ男湯なんですけど?  どれも間違った回答のようで頭の中が永遠にぐるぐると回っていく。 「あ、すみません。お掃除の時間ですか?」  後ろから声をかけられてぎくっと肩を跳ねさせて、保は声だけハキハキとさせて喋る。目は決して開けない。閉じたまま応じる。 「あ、いえ……ごゆっくりドーゾ」  最後の方はカタコトだ。もういいやと馬鹿らしくなってズカズカと浴室から出て行こうとすると、なぜか足元に転がっている石鹸に足を滑らせてゴンっと音が鳴るほど膝を打った。じいんと痺れるような熱い痛みが膝を襲う。  なぜそこにお前がいるんだ! 馬油石鹸! やば。赤くなってる。打ち身か? 内出血ぅ……!  痛む膝をさすって立とうとするも、石鹸がぬるぬると足元を這うので無様に滑ることしかできない。一人で慌てているのが恥ずかしくなって、ムキーっと声にならない叫びを心の中で上げているとすぐ後ろに人の気配がした。  嘘だろ。おい。  女性の体を見ないように「すみません。すぐに出て行きますんで」と繰り返すが、一人では立てそうにない。さすが地元の最高級の馬油石鹸。なんて考えてる余裕はなくて──。 「お手をお貸ししましょうか?」  柔らかい口調でそう言われると、振り返ってしまうじゃないか。俺は悪くありませんよ。あなたが悪いんですよ。そう一人ごちりながらゆっくりと後ろを振り返った。 「その石鹸、滑りやすいですもんね」  腰にバスタオルを巻きつけた長身のお姉さんが、そこには立っていた。あれ? と想像よりも薄い胸にぼんやりとしていると、とんとんと肩を叩かれた。よいしょっとその手を掴むと、つるっと床を二人で滑ってしまう。  なんだこれラブコメのエロシーンかよ。  保の心の中のツッコミも今は虚しく焦りで鼻先までびっしょりと冷たい汗を噴き出している。お客様に失礼なことをするなど言語道断。オーナーからゲンコツを食らう一寸先の未来が鮮明に頭の中をよぎった。 「うわっ」 「ひゃっ」  ずてん、と二人で床に倒れると手のひらに見覚えのある感覚が……。なんかもちもちしてて、柔らかくて、手のひらにおさまるちょうどいいフィット感のこれは──。 「や、やめてください!」  女性の股間に保の手が挟まってしまった。上から手を押さえつけられて、保は白目を剥いてくらりと脳味噌が逆立ちする。 「お、おとこー!?」  その絶叫は女湯にも響き渡っていた。途端にキャーッと女湯の客が至るところで悲鳴を上げて湯船から上がっていく。男湯から聞こえた絶叫は何事かと皆一様に戸惑っていた。

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