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第12話 聖域の残響、あるいは「特別調整」の代償

1. 夜明けのオーバーホール:甘い侵食と確信犯 官舎の寝室に、 薄らと白んだ冬の光が差し込み始めていた。 カーテンの隙間から漏れる朝の気配とは裏腹に、 室内にはまだ、一晩中かき回された濃厚な熱と、汗の匂いが重く沈殿している。 レオンがようやく直人を解放した頃には 、時計の針は午前5時を回っていた。 「……はぁ、……はぁ、……っ」 枕に顔を埋めたまま、直人は壊れた機械のように浅い呼吸を繰り返している。 全身の関節が外れたのではないかと思うほど体が重く、 指先一つ動かす気力さえ残っていない。 対照的に、隣に横たわるレオンは、 恐ろしいほどに「機嫌」が良かった。 端正な顔立ちには、獲物を心ゆくまで食い尽くした獣のような、 残酷なまでに美しい充足感が漂っている。 その碧い瞳は、熱に浮かされ、ぐったりと横たわる直人の背中を、 慈しむように、そして独占的に見つめていた。 「直人さん。……お疲れ様です。少し、綺麗にしましょうか」 レオンの甘い声が鼓膜を揺らす。 直人は返事をする代わりに、掠れた声で小さく「……っ、うん……」と呻いた。 当たり前だが、 自分の体の管理は自分でするのが信条だ。 本当はレオンの手を借りず、 這ってでもバスルームへ向かい、自力で清掃を済ませたかった。 だが、現実には腰に力が入らず、寝返りを打つことすらままならない。 「……自分で、やる……」 「無理をしないでください。今のあなたは、指一本動かすのも一苦労のはずですから」 レオンはクスクスと喉を鳴らし、拒絶を優しく封じ込めた。 「お任せください。……あなたを一番いい状態に保つのも、僕の役目ですから」 それは、甘い「最終調整(オーバーホール)」の始まりだった。 レオンは手慣れた様子で直人の腰を抱き寄せ、 少しぬかるんだままの「可愛い場所」に、自身の指を忍び込ませた。 「っ、……ぁ、……やめ……ろ……」 昨夜、散々注ぎ込まれた自分自身のものを、 一滴も残さず、丁寧に掻き出していく作業。 だが、その手つきは単なる清掃の域を遥かに超えていた。 レオンは直人の内側の「熱い場所」を熟知している。 わざと、最も敏感な粘膜を指先で愛撫するように、ねっとりと、そして執拗に。 「……は、ぁ……っ、……レオン、お前……っ!」 精根尽き果てたはずの直人の身体が、無慈悲な快楽にビクンと跳ね上がる。 「お掃除ですよ、直人さん。……でも、そんなに締められると、また汚したくなってしまいます」 確信犯だ。 直人は、逃げ場のない快楽に再び翻弄され、 情けなさと悦びで「もうひと泣き」させられる羽目になった。 「……っ、ふざけんな……っ、本気で、……怒るぞ……!」 涙に濡れた瞳で睨みつける直人に、 レオンは一瞬だけ大型犬のような無邪気な笑みを見せ、 「すみません、あまりに可愛くて」 と、悪びれる様子もなくその額に口づけを落とした。 2. 献身の鎖:薬という名のマーキング 執拗な「掃除」が終わった後も、レオンの甲斐甲斐しいケアは続いた。 熱を持って腫れぼったくなった縁に、 レオンは用意していた薬を指ですくい取る。 「少し冷たいですよ」 ひんやりとした薬指が、火照った皮膚に触れる。 その手つきは驚くほど優しく、まるで宝石の傷を修復するかのように丁寧だ。 直人は羞恥に顔を焼きながらも、されるがままになっているしかない。 「明後日は入学式ですからね。……無理をさせた分、僕が責任を持ってケアします」 レオンの献身は、本物の「紳士」のそれだった。 だが、直人には分かっていた。 この丁寧すぎるケアすら、 レオンにとっては「自分だけのもの」を慈しむ行為に過ぎないのだと。 薬を塗り終えたレオンは、そのまま大きな体で直人を背後から抱き込んだ。 「……もう朝ですけど。少しだけでも眠りましょう」 太い腕が、直人の細くなった腰をがっちりとホールドし、 文字通り「離さない」態勢を作る。 「……明日、……移動、なんだぞ……」 「大丈夫です。僕が起こしますから。おやすみなさい、直人さん」 レオンの心臓の鼓動が背中に伝わり、 直人は深い安堵と、抗いがたい疲労の波に飲まれていった。 3. 予定外の「延長戦」:狂ったスケジュール 「……おい、レオン。……何時だ、今……」 次に直人が意識を取り戻した時、 窓から差し込む光は夕刻のオレンジ色へと変わりかけていた。 ミツキの入学式に備えた前日入り。 本来なら早朝に出発し、 昼過ぎには現地で観光地特有の浮き足立った空気を楽しみながら、 地酒の一杯でも引っかけているはずだった。 「……15時過ぎですね。可愛い顔で、よく眠っていましたよ、直人さん」 隣で涼しい顔をして読書をしていたレオンが、事もなげに言った。 「15時……!? お前、何で起こさねえんだよ! 観光はどうすんだ!」 慌てて飛び起きようとした直人だったが、 次の瞬間、**「……っ、ぁ……」**と声にならない吐息を漏らしてベッドに沈んだ。 痛みがあるわけではない。 むしろ、数日間かけてレオンに「鳴らされた」身体は、驚くほどしなやかに、 奥の奥まで熱を孕んで解けきっていた。 だが、その**「解けすぎた」身体**に、どうしても力が入らないのだ。 腰から下が、まるで自分のものではないように甘く痺れている。 股関節の筋の一本一本までがレオンの指の感触を覚えていて、 動かそうとするたびに、昨夜の甘美な記憶が神経を逆なでする。 「……っ、力が入らねえ……。お前、……やりすぎだろ……」 「数日かけて準備した甲斐がありました。おかげで、どこも傷ついていませんよ。……ただ、あなたの神経が僕を覚えすぎて、お休みモードになっているだけです」 全てはレオンの計算通りだった。 立ち上がろうとすると、物理的なものは掻き出したはずなのに、 内側にはまだレオンの熱が居座っているような、濃厚な「満たされた感」が重く残っている。 4. 騎士道精神の仮面:一つの荷物とエスコート 結局、予定を大幅に遅れて夕方に家を出ることになった。 駅へと向かう道中、レオンは完璧な「騎士」に変貌していた。 二人の荷物は、中型の一つのスーツケースにまとめられている。 中身は、明日着るための折り目の正しいスーツと、最低限の下着。 それから、レオン宛に届いていた「来賓への招待状」は、 彼の判断でスーツケースの底へと静かに沈められた。 「直人さん、荷物は僕が持ちます。あなたは、僕の肩に掴まっていてください」 片手でスーツケースを引き、もう片方の手でしっかりと直人の腰を抱き寄せる。 一歩踏み出すたびに、内腿の奥にレオンの存在感が蘇り、直人の膝が僅かに震える。 (変な歩き方になってないか、俺……。いや、痛くねえのが逆におかしいだろ……) 「……おい、レオン。支えるのはいいけど、……手が、その……腰すぎる。もう少し上だ……」 「いいえ、ここが一番安定します。……僕がいないと歩けない身体にしたのは、僕ですから」 優雅な微笑みに隠された「独占欲」を、直人は大きなため息で受け流した。 数日間の準備があったからこそ、これだけの猛攻を受けても「歩ける」状態にあるのだ。 「……いいよ。やらせておく。……お前のプラン通りなんだろ、これ……」 5. ホテルの夜:届かなかった酒、届いた温もり 目的地に着いた頃には、すっかり夜になっていた。 駅を一歩出ると、観光地特有の、どこか浮き足立った華やかな空気が流れている。 春の夜風に混じって、地元の居酒屋から流れてくる出汁の匂いや、 観光客たちの楽しげな笑い声。 「……あーあ。本当なら今頃、この雰囲気の中で一杯ひっかけてたはずなんだけどな」 直人は、赤提灯が並ぶ小路を、未練がましく見つめた。 少し観光をして、地中から湧き出す熱気のような喧騒の中で飲む。 そんな密かな楽しみを、レオンの猛攻が奪い去ったのだ。 「お気持ちは分かりますが、今のあなたの体力では、アルコールが回る前に倒れてしまいますよ。……お酒なら、ホテルのルームサービスで頼みましょうか?」 「そういうことじゃねえんだよ……。外で、あのザワザワした中で飲むのがいいんじゃねえか……」 悔しげに呟くが、膝は笑い、立っているだけでも精一杯だ。 結局、居酒屋を横目に、二人はそのままホテルへ直行することになった。 ホテルの部屋に入り、レオンが一つだけのスーツケースを開ける。 中には、二人のスーツが重なり合うように収まっている。 「……なあレオン。お前、本当にいいのかよ。来賓席の辞退なんて。……卒業生代表だろ?」 ベッドに腰を下ろした直人が、ふと思い出したように尋ねた。 レオンは迷いのない手つきでスーツを取り出し、ハンガーにかける。 「ええ。代表としてのスピーチより、あなたの隣で、あの子の成長を見届けることの方が、僕には何倍も価値があります。……それに」 レオンが音もなく背後に忍び寄り、直人の首筋に顔を埋めた。 「……あんな遠い席からでは、あなたが誰かに見染められないか、気が気ではありませんから。……僕の目の届く範囲に、あなたを置いておきたいんです」 「……お前、本当に……救えねえな」 「はい。一生、あなたに救ってもらうつもりです」 挿入こそないものの、レオンの指先は直人の服の中に潜り込み、 熱を持った肌をねっとりと愛撫し始める。 観光地の喧騒から切り離された密室。 一つの荷物、一つのベッド。 地酒を飲む代わりに、レオンの熱い吐息に酔わされる夜。 直人は、心地よい疲労と、 首筋に感じるレオンの熱に身を委ねながら、静かな夜に沈んでいった。 (……クソ。帰りには、絶対にあいつに高い地酒を買わせてやる……) そんなささやかな報復を夢想しながら、直人の意識は微睡みの中へと溶けていく。 自分を「解きほぐした」男の腕の中で、直人はようやく、深い眠りへと落ちていった。

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