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第19話 つまり、伸び代があるってことで!
「ほい四季ちゃん店長デュエット〜」
「はいよ。俺シゲの方ねー」
二軒目に入り、酒を頼むより早く寺田さんが四季さんにマイクを渡した。選曲はデュオの男性アイドルソングだ。四季さんはいつものことって調子でマイクを受け取り、寺田さんとデュエットで歌い始める。俺らは酒を注文して、寺田さんと四季さんも歌いつつに酒を注文した。
四季さんは歌も上手だ。よく通る綺麗な歌声に聞き惚れる。酒で薄っすら頬が赤くて、ほろ酔いって感じで可愛い。チラッと上条さんから気遣うような視線が向けられて、ウーロンハイを飲みながらへらっと笑い返した。
が、呑気に聞き惚れていられる心情でもない。二人が仲良いのはそりゃ知ってる。寺田さんの飲み会何度も行ってるし、上条さんのこと好きになってからは可能な限り参加してきたし、極力上条さんの隣陣取ってきたし。それでも少し、モヤっとしたりはするわけで。
客は俺らの他にカウンターに二人連れが一組。上条さんが奥に座って、俺が隣取りたかったのに寺田さんに取られてしまった。ということで寺田さんの隣に已む無く座り、二人のデュエットを聞いている今である。
「ヒューッ四季ちゃんイケメーン! 四季ちゃんの声好きだわぁ、今からでもアイドル目指してみーひん? 大学生の頃スカウトしてきた事務所にアポ取ってさぁ。そしたら営業所内のライバル減るやーん」
「もーそれ擦んないでくださいよ、何回聞いたかわかんねー。十年越しに連絡するやついねーだろ」
「へぇーっ、上条さんスカウトされたことあるんすか? すご! 流石東京営業所内イチのイケメン!」
一曲目が終わったあと寺田さんが軽口を叩き、四季さんはべーっと舌を出して顔を顰めた。四季さんがうげーって時によくする顔。渡邉は初耳だったらしく目を丸くして驚いている。俺は知ってたけど、四季さんの口からじゃなくて、同じように寺田さんが言ってたのをいつぞやかに聞いた覚えがある。俺が知らんことまで色々知ってるからついつい妬ける。
「俺の昔話はいーから。ほれ、お前らも曲入れろー。篤希ソロリサイタルになっちゃうだろ」
「ヒューッATSUKI〜!」
四季さんがカラオケのナビを福田たちに渡しながら言うと、一同ヒュウヒュウ寺田さんを盛り上げる。
「みんなー! 今日は俺の破局記念ソロリサイタルに来てくれてありがとーう! はっ、ソロって独り身っちゅーことか? 四季ちゃん上手いこと言うやーん! つい最近までソロだったくせにホンマいけずなやっちゃなぁ〜、ソロんなって沢山遊び付き合ってくれて喜んどったのにぃ」
寺田さんはマイクを握って楽しげに笑い、四季さんを巻き込んで漫才してる。
寺田さんのことは全然嫌いじゃない。同じ展示場になったことはないけど、たまに東展示場にも来てたし、中央展示場になってからは遊びでもよく顔合わせるようになったし、普通に好きな先輩だ。けど、それはそれ。羨ましいし、妬きもする。
「寺田さんは彼女居る間も遊びすぎっしょ。だから毎度破局になるんすよもー。彼女大丈夫なんすかって俺ちゃんと確認してたのに」
「だーって四季ちゃんと遊んだり会社のやつらと飲み行く方が楽しいんやもーん」
「あー、その気持ちはめっちゃ分かります。俺もそうだったし。彼女と過ごすより楽しいからしゃーないすよね」
四季さんは呆れ顔で肩を竦めて、寺田さんは口唇を尖らせてかわいこぶる。寺田さんの言うこともよく分かるから、その点は同意した。俺もこれまではずっとそうだったから。
「下瀬クンええこと言うやーん! 俺と同じタイプやな! 独身貴族クリパにおいでませ〜ほんで西展示場の男になったって〜」
「さーせん、西には行けないっす! 俺は上条さんに忠誠誓ってるんで! 残念すけど、クリスマスは予定あってクリパも行けねンすよー」
「おん⁉ 下瀬も裏切りか⁉ クリスマス前に色気付きおってからにぃ〜彼女出来たのん?」
寺田さんにがしっと肩を抱かれて聞かれ、まあこの人誰に対しても基本この距離感なんだよなぁと苦笑する。四季さんも苦笑いだ。福田はなんか俺が知らん曲を入れて歌ってて、中谷は合いの手入れて盛り上げて、渡邉は店員さんから酒を受け取ってはちょこまかと運んでる。
「彼女ではないっすけど、心に決めた好きな人が居ます! めっちゃ好きです!」
「ほーん、心に決めた好きな人ねぇ。そんなん出来たことねーから眩しいわ。美女? 写真ないのん?」
「俺も長らく寺田さん側だったんで、こんなん初っす。写真はねーけどめーっちゃ可愛いっすよ。そういや一緒に居る時写真撮らねーなー」
「下瀬クンそれ大丈夫? 遊ばれてへん? 人妻とかじゃないやろな。キミみたいなイケメンに好かれて彼女になってくれへんくて、この大SNS承認欲求時代に写真撮って自慢しないとかある? もしくはどこぞの箱入りお嬢様か何か?」
寺田さんから眉を下げた若干心配そうな顔を向けられ思わず笑う。人妻もしくは箱入りお嬢様疑惑を掛けられた四季さんは気まずそうな顔でゴクゴクとジントニックを呷っている。
「人妻でも箱入りお嬢様でもねっすよ。自立してて尊敬出来るオトナな年上で、だけどめっちゃかわいーって感じっす!」
「ほぉー年上なぁ。お姉様に手のひらで転がされんのもええかもなぁ、ほんなら俺も夢中になれっかも。しっかし俺より年上の良い女って自由恋愛市場にどんくらい残ってんのやろ」
寺田さんはマドラーでクルクルとレモンハイを掻き混ぜながら片眉を上げた。自由奔放な寺田さんには実際しっかり手綱を握れる年上が合いそうだ。
「いーじゃん、寺田さん年上似合いそ。まあ仕事に夢中とかで結婚してねーバリキャリ美女とか残ってんじゃねっすか? 尻に敷かれた方が上手くいくんじゃね」
「俺プライド高い強気のネーチャン好きじゃないねーん、俺んことアホやなぁって呆れつつ笑って許してくれる包容力のある美人がえーなぁ、ほんで料理が上手くて一緒に酒飲んでくれてスノボとか遊びにも付き合ってくれるような……せや!」
四季さんは口付けたグラスを傾けながら、揶揄う調子で目を細めて同意する。悪戯っぽい顔が可愛い。寺田さんは口角を下げて不満を垂れたけど、何か思いついたらしく満面の笑みを浮かべた。
「四季ちゃん、俺と結婚しよ!」
四季さんは「んぐっ!」と呻いて、ゲホゲホと咳き込んだ。寺田さんの言葉が冗談だってことくらい、俺もちゃんとわかってる。が、眉がぴくついた。
「寺田さーん、上条さんのこと口説いちゃダメっすよ。上条さんには出来立てホヤホヤのめっちゃかわいー恋人が居るんすから」
「知っとるけどぉ、四季ちゃん理想的やーん。アホやなぁって笑って許してくれるしぃ、料理むっちゃ上手いしぃ、飲みも付き合ってくれるしぃ、スノボとかも行けるしぃ〜」
四季さん曰くめっちゃかわいー恋人。それ俺なんで。とは流石に言えないけど、肩を竦めて呆れ顔で軽く牽制しとく。寺田さんが四季さんの理想ポイントを指折り数えて上げていくのを眺めつつ、ホント理想的っすよね分かりますよまあ俺が恋人ですけどね、とか内心思う。と共に『料理むっちゃ上手い』が引っ掛かったり。俺は付き合うまでそれ知らなかったのに。
「もー、寺田さんのせいで気管に酒入ったじゃないすかぁ。くだらねーこと言ってないで、寂しいなら寺田さんも恋人作りゃいーじゃん」
「マッ! 四季ちゃんったら生意気になっちゃってもう! 昔は素直なイイコでヨチヨチ俺の後着いてきてたのにぃ。出来立てホヤホヤの恋人よりながぁい付き合いの俺の方が四季ちゃんのこと分かっとるよ〜? 俺と付き合ったらえーやん、幸せにしたるで」
「百歩譲って恋人出来る前なら一ミクロンくらい考えてやったけど、今はもうぜってぇ〜ないから」
四季さんは手をシッシッと振って、顎に手を当ててキリッとした顔でのたまう寺田さんを適当にあしらった。タチの悪い冗談だとしても、目の前で恋人口説かれんのめっちゃヤダ。
「寺田さん、他人の恋人を口説くのは冗談でもコンプラ違反っす。寺田さんには寺田さんにピッタリ合う運命の人が別に居ますって。上条さんはウチのなんで西に引っ張ろうとすんのやめてくださーい。俺らが路頭に迷うじゃねっすか」
「四季ちゃん元々は西の男やしぃ〜ガチチューもした仲やしぃ〜」
「げぇ、誤解招く言い方やめろって。下瀬、寺田さんの言うこと真に受けんなよ。俺が西展の時の罰ゲームだからな」
「照れちゃってカワイーんだからモ〜、んチュー……んあ⁉」
顔を顰めた四季さんの肩を寺田さんがガシッと抱き、ふざけてキスしようとした瞬間。俺が寺田さんの肩をガシッと掴んで引っぺがし、俺の方に引き寄せた。いい加減ピキッときて、勝手に身体が動く。目を丸くしている寺田さんの頬を両手でガッと掴んで、真正面から満面の笑顔を向けた。
「ねっ、寺田さん。あんまり上条さんのこと困らせちゃダメっすよ。以降のチューは俺が引き受けます!」
「ヤダ! 怖い! ケツ掘られそう! キミんとこの部下目がパキッてるよぉ、助けて四季ちゃん!」
寺田さんは俺から抜け出して四季さんに抱き付いた。そこまで圧をかけたつもりじゃなかったが、どうも俺の目が笑ってなかったらしい。まーた四季さんの方に行きやがって、と余計にカチンとくる。四季さんは「あははっ!」と声を上げて笑った。
「自業自得っすよー、人にしたことは回り回って自分に返ってくるっつーこと。もうチュー禁止なー」
四季さんは自分に抱き付く寺田さんをカラッと笑い飛ばして意地悪っぽく目を細める。
「四季ちゃん俺に優しくしてよぉ! んあーっ席替え席替え! 中谷チェンジ! 俺福田と渡邉の真ん中ーっ!」
「うぃっす、俺そっち行きまーす」
「下瀬やべー、寺田さんが狼狽えてんのレアでおもろい」
寺田さんが立ち上がり、代わりに中谷を呼び寄せる。寺田さんが立ち上がったことで俺が席を四季さんの右隣に詰めて、俺の右隣に中谷が座った。福田はゲラゲラ笑い、渡邉は笑いを堪えてる。
「寺田さん自分から行く分には良いけど来られるのはダメなんすねー、ホントにチューしときますー?」
「ちゃうねん! 四季ちゃんならええの! 下瀬はちゃうの! おもろとか言ってへんで俺を守れ福田! 福田ガード!」
テーブルに身を乗り出して寺田さんに笑みを向けると、寺田さんは福田の背中を押してその後ろに隠れた。四季ちゃんならええの、はやっぱり頭にピキピキくるが、口角を上げて笑みを作る。
「先に上条さん付き合わせて漫才してたのは寺田さんっすからね? 自分がやられたくねーことは人にしちゃダメっすよ。上条さんのかわいー恋人だって、相手が誰であれ他人とキスしてほしくないかもしんないし。ね〜、上条さん」
寺田さん相手に説教は出来んけど、きっちり釘を刺してから四季さんの顔を覗き込んだ。
「まーそりゃ、他人にキスされたって聞いたら良い気分じゃねーだろうな。俺の恋人、かなり嫉妬深そうだから。まだ出会ってない寺田さんの恋人も嫌がるかもしんねーし、キスすんのは恋人だけにしといた方がいっすよ」
四季さんはふっと目を細めて軽く笑った。そうそう俺ってかなり嫉妬深いんすよ、と心の中で同意する。わりかしすぐにそこから話が逸れて、歌って飲んで。渡邉が潰れたから三次会は無しに、二次会でお開きとなった。
「ほなまたね〜おやすみ〜」
店真ん前の歩道で渡邉に肩を貸しながら、寺田さんがひらひら手を振った。
四季さんが「んじゃまた〜ご馳走様っした〜」と手を振り返し、西展示場メンツが乗り合いでタクシーへと乗り込んだ。中谷も西メンツが住んでる方向住みだから一緒に乗っていく。まだ終電あるけど、渡邉が潰れたからタクシーで送っていくらしい。俺は近くのコインパーキングに車置いて参加したから、さっき代行呼んだとこ。
というわけで、四季さんと二人きりになる。四人を乗せたタクシーが遠ざかっていくのをひらひら手を振って見送って、ふっと四季さんに顔を向けた。ぱちっと視線が交じる。
「車どこ置いてんの?」
「そこの角曲がってまっすぐ行った右手側んとこです」
四季さんのノリはまだちょっと職場モードっぽい感じ。喋るとお互い吐く息が白く曇った。俺はボア素材の白いブルゾン羽織ってるけど、それでも夜はやっぱちょい寒ぃ。四季さんの方は昨日買ったばっかのダークグレーのチェスターコート着てる上、マフラー巻いててあったかそうだ。だけど空気に触れてる耳と頬は薄っすら赤い。酒のせいもあるだろうけど。
「オッケ。じゃー行こ。代行すぐ来んだろうけど、そっちまで見送るわ」
「あざす。四季さんやさしー。ちょっとでも一緒に居れんのうれしーっす」
「やさしーとかじゃなくて、俺がそうしたいだけー。俺も一緒に居てえの」
職場モードから恋人モードがオンになって、目を細めた笑顔が向けられた。胸がキューンとして堪んない。コインパーキングに向けて並んで歩き始めると、肩とか手がちょこちょこ触れる。手ぇ繋ぎたいけど、ここじゃ嫌かなー、とか思うと繋げない。もう零時回ってるけど、駅近くの繁華街は普通に人が多い。
「今日、すんません。なんか出しゃばっちゃって」
「飲み会来たこと? 寺田さんに思っきし牽制かけたこと?」
歩きながら頭の中で今日を振り返って謝ると、揶揄う調子で薄く笑われて肩を竦めた。
「どっちも。ガキっすよね。嫉妬深くて、自分でキモッて思うし。水差しちゃったかなとか」
「いーよ。寺田さんはあーいう人で、悪気があるわけでも本気なわけでもねーから俺は気にしてねーけど、乃亜からしたら嫌に決まってるよな。って分かってたのに、配慮出来なくて悪かった」
四季さんはさらっと流すみたいに言いのけて俺に謝る。大人の対応って感じで、余計に自分のガキさを思い知る。
「四季さんは何も悪くないっす。俺だって、寺田さんがそういう人だって分かってますもん。でも、俺の知らねーこと色々知ってたりして、やっぱ妬く。あー、世間的に見りゃもう良い歳なのに本当ガキっぽいなぁ、俺。すんません」
「独占欲出してくれんのうれしーよ。俺は。乃亜の自分で悪かったかもなーとかすぐ反省できるとこも好き。それに、嫌なことは嫌だってはっきり言うし、なんでも全部いーよって言うわけじゃねーから。気にしてねーから気にすんな」
目を細めた優しい笑みが眩しくて、胸がきゅーっとした。アホやなぁって笑って許してくれる、つってた寺田さんの言葉が頭に過ぎる。
話しながら歩いているうちあっという間にコインパーキングに着いていて、愛車の側に近づいた。まだ運転代行は着いてない。車と車の間に向かい合って立ち止まる。
「……じゃあ、寺田さんのノリは嫌じゃないってこと? ガチチューってどういうのっすか」
「満更でもないとかじゃなくて、アホだなーって流せるだけ。チュー禁止って言っといたし、多分もうしねーだろ。今後は上手いこと躱すようにする。ごめんな?」
四季さんは俺の頬を両手で包んで、宥めるみたくちゅっと軽く俺に口付けた。頬を包む手はひんやり冷たい。
「ガチチューは、まあ舌入れるやつだったけど、乃亜が入社するより前の話で何の色気もねーおふざけだし、その一回きりだから気にせんで――」
四季さんが言い終えるより早く、四季さんの腰を抱き寄せて口唇で口唇を塞いだ。薄く開いた口唇の隙間から舌を捩じ込んで、舌を絡め取る。酒臭さはなかったけど、四季さんの舌はライムの味がした。俺の体温が四季さんの手に伝わって、頬がじんわりあったかい。
「んっ……んぅ……っはぁ……ン……ッ」
手で腰をグッと掴んで、もっと俺の方に引き寄せる。四季さんの口唇から漏れる艶っぽい吐息に耳がゾクゾクした。寒いからじゃなく、芯から震える。四季さんは『もっと』って強請るみたく舌を絡め返してくれる。
「ぷはっ……はぁっ……乃亜……」
口唇を離して、四季さんの首筋に顔を埋めた。速攻ヤキモチ妬く自分に呆れる。寺田さん如きでいちいち妬いてたら、元カレの話なんか聞いちゃった時どうなんのかわかんねー。
「――ワガママでガキで嫉妬深くてすんません。こっから四季さんの理想の彼氏になるから、もーちょい目ぇ瞑ってください。宅建取って店長なって、契約バンバン上げて年収上げて、四季さんのこと世界で一番甘やかして、メロメロにしてみせっから」
そこまで言って顔上げて、ぽかんとしている四季さんの目を真っ直ぐ見つめる。
「つまり、伸び代があるってことで!」
最後にそう付け足すと、四季さんは「ふはっ!」と吹き出した。暗がりのコインパーキングの中で、くしゃっとした笑顔はピカピカ光って見えるくらい眩しい。
「現時点でもーメロメロだよ。あばたもえくぼ……んー、恋は盲目っつーだろ」
髪をわしゃわしゃ撫でられて、もう一度口唇にチュッと軽くキスされた。多分俺に『あばたもえくぼ』じゃ伝わらねーだろうと思って『恋は盲目』に言い直したんだろうなあと思う。実際知らねーけど、恋は盲目なら分かる。
「背伸びしなくたって、そのまんまの乃亜が好きだよ。ま、伸び代は楽しみにしとくわ」
四季さんはポンと軽く俺の頭を叩いて悪戯っぽく笑った。胸がぎゅーっとして、目端が熱くなる。付き合える前から超好きだった。なのに付き合ってから、毎日もっと好きになる。
「俺も、そのまんまの四季さんが大好きです」
そう返して、口唇に軽く口付けた。きっと俺は頬が緩んだ締まりのない顔をしていることだろう。
「あんがと。甘えついでに、もいっこ甘えて良い?」
「なーんでも言ってください! なんすか?」
小首を傾げて問われ、前のめりに返事する。良いとこ見せるチャンスだし。
「代行の行き先、俺の家にして。シャワーして寝るだけだけど、予備のスーツも持参してきてんだから準備万端だろ? 朝メシ、一緒に食べよ」
「やった! 逆にいーんすか⁉ えー、まだ一緒に居れんのめっちゃうれし〜……」
「さっきも言ったろ。俺がそうしたいし、俺も一緒に居てぇの」
パッと笑った笑顔は花みたいで可愛い。ずーっと笑顔で居てほしいし、泣かせたりとかしたくない。でも、もし泣きたいことがあったら、俺の前で泣いてほしいな。とか思ってたら、コインパーキング前の道から車のドアを開け閉めする音がした。代行が到着したらしい。
「んじゃ、早く帰りましょ!」
「おー、行こっか」
代行業者に車の鍵渡して、俺の車の後部座席に二人で乗り込む。時々ぽつぽつ喋って、その間手を繋いでた。車窓から見える夜道は真っ暗い。街灯の明かりが四季さんの顔を横から照らして輪郭を縁取ってる。
四季さん家まで約十五分。ほろ酔いの夢見心地の中、俺は四季さんの顔をずっと眺めてた。
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