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番外編 ロナルドの新たな人生

番外編3話目です。 拉致犯の一人だったロナルド・コックスのその後を書いた短編です。 お楽しみ頂けたら幸いです。 ◆--------------------◇--------------------◆ 「ところでロナルド。お前さんらを追っていた連中だが――」  元々は仲間だったのだろう? と、ベッドサイドで(ジォウ)がそう訊いた。 「(ひょう)の話ではカジノへ向かう途中で連中に囲まれたということだったが、原因はやはり稼いだ金を巡ってのトラブルか?」 「はい、おっしゃる通りです……。俺たちがたった二晩で大金を手にしたようだっていう噂を聞きつけた連中が分け前を要求してきまして」  そもそも今回、(ひょう)を闇市に売り飛ばすという案件を引き受けたのは、ロナルドら三人だけだったそうだ。この話が回ってきた際、他の連中は大して金にもならない仕事だからと言って見向きもしなかったという。それというのも臓器を抜いて売り捌くなどという自体が厄介な上に、下手をすれば殺人でお縄を食らう可能性の高い、いわばリスクの大きな案件だからだそうだ。殆どの者が話を蹴った中、一応は海外からの依頼ということもあって、今後のことを考えた挙句にロナルドら三人で引き受けることにしたのだという。 「この香港の中で回ってきた話だったら手前たちも断っただろうと思います。ですが、他所(よそ)の国からの話をないがしろにすれば何かとまずいということになり、手前たちが引き受けることにしたんです」  こういった繋がりは一度邪険にすると次に旨い儲け話があっても回ってこないことが多いそうだ。ロナルドたちとて安い報酬でリスキーな仕事には関わりたくなかったに違いないが、後々のことを考えれば――と、致し方なく請け負ったといったところだったらしい。  そんなわけだから、思わぬ大金が手に入ったところで話を蹴った連中には分け前を与える必要はなかったのだという。ただ、問題は(ひょう)が稼ぎ出した金額だった。たった二晩で信じられないほどの大金を手にしたロナルドらの噂は瞬く間に広がっていったそうだ。そういうところだけは耳が早いというのもこの世界の常だ。 「話を蹴った奴らに金を分けてやる筋合いはねえというところから揉め事になりまして……」  まあ、当然の成り行きといえばそうなのだが、額が額だけに双方目の色が変わったということだろう。 「それにしても――お前さんらの組織ってのはいったいどの程度の規模なんだ。例の廃倉庫にいた連中だけでもかなりの人数だったが、それ以外にもまだ仲間はいるってわけだろう?」 「はぁ……それなんですが、正直に言って全部が全部顔見知りってわけじゃありやせんでした。手前たちはチンピラ集団ですから、組織化しているわけじゃありやせん。互いに仕事を回し合ったりして小銭を稼いできたわけですが、今回はあの子がカジノで見たこともねえ大金を稼ぎ出したことで、それを聞きつけた連中が金はもちろん――よもわくばあの子自体をよこせという勢いでしたから……」  つまり、金のなる木である(ひょう)そのものを取り合う動きに発展しそうになっていたらしい。 「手前は……金はともかくあの子を連中に渡すのだけは御免でした。あの子は二晩続けてカジノで大勝ちしましたが、仮にそれがまぐれだった場合です。あの子を手にしたはいいが、当てが外れた、金にならないと踏んだ時点で連中はあの子を始末するのが目に見えてましたから」  それこそすぐにでも臓器を売り飛ばすか、あるいはそこまでリスクを負いたくないとすれば、身体を売らせるようなことも考えたかも知れないというのだ。 「使いものにならなきゃすぐにも放り出す。リスクを避ける為に手っ取り早く身売りさせる。そんなことは屁でもねえ連中のことです。それだけは何がなんでも阻止しねえとと思いました」  元々は自分たちとてその(ひょう)を闇市で売るはずだったには違いないが、共に過ごす内にすっかり考えが変わったというわけだろう。特にロナルドにとっては亡くなった弟を思わせる(ひょう)を、情け容赦のかけらもない、汚い連中の手には渡したくないという思いが募っていったのだ。 「結局折り合いがつくはずもなく、手前たちは連中から追われる羽目になりやした。ただ、例の倉庫へ逃げ込んだ時には追手の数が増えていたんです」  それこそ元々付き合いのある仲間以外に、まったく知らない顔も多数混じっていたそうだ。つまり、ネズミ講方式で仲間がその仲間を呼び、そのまた仲間が儲け話目当てに集まってしまったということだろう。 「なるほどな。だがそれならば――お前さんの容態が回復してヤサに戻ったと同時に、性懲りのねえ連中から再びつけ回される可能性は高かろうな」 「……そうかも知れやせん。ですが――それも手前の身から出た錆として向き合う覚悟でおりやす。手前は――もう二度と半端な世界に戻るつもりはありやせん。あの子とも約束した通り、今度こそ胸を張って生きていけるよう努力をする所存です」  仮にまた命を狙われたとしても、それから逃げることなく生きていこうとするロナルドの強い意志が窺えた。 「そうか――。とにかく養生することだ。お前さんが(ひょう)の盾となって銃弾から命を救ってくれたこと、俺は絶対に忘れはせん。(ひょう)もお前さんの息災を願っていることだしな」  ロナルドの病室を後にしたその足で、(ジォウ)龍首(ロンシゥ)の本部へと向かった。父と兄に会う為であった。 ◇    ◇    ◇  それからひと月の後、ロナルドは龍首(ロンシゥ)が所有する鉱山で採掘工として新たな人生を歩み出していた。  怪我が完治した際、(ジォウ)の兄・(ファン)から今後の身の振りについて幾つかの提案を受けたからだ。それはロナルドにとって信じ難いような厚遇でもあった。なんと龍首(ロンシゥ)の一員となりこの香港で生きるか、山深い鉱山で採掘工として尽力するか、好きな方を選べと言われたのだ。しかも、これまでの仲間から再び命を狙われることのないよう龍首(ロンシゥ)が後ろ盾になるとまで約束してくれた。  普通ならば考えられない厚遇である。理由は病室を後にした周焔(ジォウ イェン)が父と兄にそう頼み込んだからだ。  (ジォウ)にとって、このロナルドが(ひょう)の盾になってくれたことは、それだけ大きな意味を持つということだったのだ。  ロナルドは恐れ多いことと恐縮しまくりであったが、せっかくの厚意を蹴ることも憚られ、であれば体力的にも一番きつかろうと思われる鉱山での仕事に携わらせて欲しいと願ったのだ。  これからは生まれ変わったつもりで精一杯働くことを固く誓って、生まれ育った香港を後にしたのだった。  いつか、いつかまた――再びあの子に会えることがあったなら、堂々と胸を張って生きている姿を見せられるよう。そして、こんな自分を赦し、この上ない温情を掛けてくれた龍首(ロンシゥ)に恥じぬよう、誠心誠意生きていく。  鉱山で懸命に働く彼の表情は清々しく、額に伝う汗がキラキラと初夏の日差しに輝いていた。 ロナルドの新たな人生 - FIN -

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