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序章 寿安

庭の花々が咲き乱れる季節。 寿安(じゅあん)は庭に面した回廊に立ち、雲ひとつない空を眺めていた。 彼の心は晴れ渡る空の如く、清々しい気持ちで満ちあふれていた。 寿安が戦乱の世をくぐり抜け、友安国(ゆうあんこく)の初代国王となって十年。 念願かなってこの年、二人の男児が生まれたのである。 一人は正室、もう一人は側室の子である。 「王様、茶にございます」 「うむ」 近侍が国王の私室である奥殿に戻ると近侍の淹れた茶を口に含んだ。 ここに至るまでの過程を思うと寿安は感慨深いものがあった。 長く続いた敵国との戦に終止符が打たれた後、寿安は敵国の皇女を正室に迎えた。 皇女は人の目を十分に惹きつけるほどには美しかったが、その美しさは氷のような冷気を伴い、なんとも近寄り難い印象を与えた。 それは生まれながらに人の上に立つ者にありがちな気位の高さと相まって、どうにも鼻持ちならない女性でもあった。 皇女は国王に一通りの礼節を保ち、それは国王も同様であったが、二人の間には見えない境界線があった。 父母を殺され、人質のように友安国に連れてこられた皇女にしてみれば、すげない態度も当然のことだ。 当初から二人はうまくいくはずがない。 ただ、寿安には一国の支配者として、皇女には正室として果たさなければならないことがあった。 世継ぎをつくること、世継ぎを産むことである。 敵国を併合し領土を拡大したところで、一代で終わっては意味がない。 二人は子をつくり、産まねばならないのだ。 さらに正室にしてみれば、友安国で王妃としてその場を盤石なものにするためには、絶対に世継ぎを産まなければならない。 盛大な婚姻の儀がつつがなく済むと、二人は初夜を迎えた。 皇女は体を清めた後、白い薄衣を身に纏うと一人寝所で国王を待っていた。 程なくして国王が現れたが、半刻程すると国王は寝所をあとにした。 それ以降、国王はなにかと理由をつけては正室となった皇女の元へ赴くことを拒んだ。 もともと反りが合わないことは周囲の者たちも分かっていた。 国王はその日何があったのか誰にも言わなかったが、何も言わなくても、明らかに正室の寝所で何かあったのだ。 正室はその日以来、床に伏せることが多くなった。 そこで側近の一人が国王に側室を置くよう進言すると、国王はその進言を受け入れた。 その女性は進言した側近の娘で、国王が幼い頃からの既知であった。 美しさにおいては正室に及ばなかったが、正室にはない春の木漏れ日の、包み込むような温かさがあった。 国王は自然と側室の住まいに足を運ぶようになった。 これで世継ぎさえ生まれてくれれば–––– 側近たちは心ならずも期待した。 この側室となら、遅かれ早かれ世継ぎが生まれるだろう—— しかし、国王と側室の間に子が生まれることはなかった。 国王には決定的な問題があった。 国王は——男色だったのだ。 時は寿安が皇太子だった頃に遡る。 ある時、皇太子の前に新しい近侍が来た。 その男は皇太子より少し年上の美しい若者だった。 皇太子はその若者を見た途端、運命を感じた。 若者を手に入れたいと思った。 皇太子の熱意は若者の心に届き、二人は人目を忍んで情を交わすようになった。 近侍の逞しい腕に抱かれるたび、何度も何度も突かれるたび、皇太子は歓喜に打ち震えた。 二人の愛欲の日々は正室を迎えてからもなんら変わることはなかった。 しかし、二人の関係にある変化が訪れる。 それはまさに成婚の儀の前日、側近の一人が内密にこう進言したのだ。 「王様、種を蒔くだけでよいのです——」 「種? なんの話だ? 」 「王様、王様は私の申し上げたいことをすでにご理解なさっているものと存じます。しかしながら、あえて申し上げます。 このまま子が生まれなければ王としての沽券こけんに関わります。 王様、子をなすのに情など必要ございません。 ただ、女性の体に王様の種を蒔くだけでよろしいのです。どうか、この国の将来のため、王様がなさるべきことをなさいませ」 側近は知っていたのだ。 側近だけではない、皆知っていた。 国王が男色だということを—— 二人を見れば気づくはずだ。 近侍を見つめる国王の目は熱を帯び、それに応える近侍の目も潤んでいる。 「そうか……。そなたの言いたいことは分かった。だが、案ずるな。私は国王としての務めを果たすつもりだ」 「……御意」 そして迎えた初夜。 国王は正室が待つ寝所へいった。 薄明かりの中、正室は寝台の前で国王を待っていた。 「妃よ、横になるがいい」 「はい、王様」 正室は緊張の面持ちで寝台に横たわった。 正室は目を閉じ、じっとその時を待った。 国王は衣を脱ぎ全裸になると、寝台の縁に腰をおろした。 国王はふぅと息を吐いた。 わずかな静寂の後、正室は寝台の縁が小刻みに揺れるのを感じた。 国王は、何をしているのだろう? そのうち国王から小さな息遣いが聞こえてきた。 次第にその声は熱を帯び、荒々しい息遣いへと変化し、国王のあけすけな喘ぎ声が静かに響き渡る。 「えっ? 」 正室は恐る恐る目を開いた。 国王は正室に背を向けたまま、背を丸め、自分の一物をしごいていたのだ。 意を決して正室との初夜を迎えたが体は正直で、正室と交わると考えただけで国王のそれは萎えてしまった。 しかし国王としての務めは果たさねばならない。 種を蒔くだけでいい。 種さえ蒔いておけばいいのだ。 国王の手の動きは速くなっていく。 愛する近侍のことだけを考えよう。 これが終わったら、あの男の前にひれ伏して懇願するのだ。 許しを乞うのだ。 あの男の、熱くて、固くて、大きな肉の棒—— いつも私の尻を激しく突いて、かき回して、ぐちゃぐちゃにする—— あぁ、堪らない—— 国王は身を反らして喘ぎに喘いだ。 さぁ、時間だ—— 国王は肩越しに振り向いた。 潤んだ目には恍惚感と狂気が宿っている。 「早く! 」 「えっ? 」 「早く! 股を開け! 」 国王の言葉を理解する余裕はなかった。 正室が動かないとみると国王は正室の体に勢いよく跨った。 正室の下衣を引き裂くと強引に足を開き、固く張り詰めた肉の塊を正室の乾いた秘部に突っ込んだ。 「痛いっ! 」 「ふん、産みの苦しみに比べたらたいしたことはない! さぁ、妃よ! 子をなせ! 子を産め! 務めを果たせ——! 」 こうして、正室の絶叫とともに初夜は終わった。

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