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本編 第一話

 切り立つ山が脈々と続くなか、頭一つも二つも突き出した山があった。  その山の名を竜仙山(りゅうせんざん)と言い、弧を描いて伸びていく山の稜線は天を突き刺すように切り立っている。 その山の中腹から上は常に天と人を隔てる境界線のように幾重にも重なる雲で覆われており、いつ何時も雲が晴れることはない。  下界から天を仰ぎ見ても山の全景を見ることはできず、その全貌を知る者はほとんどいない。   麓の森も人の出入りを拒むように常に深く濃い霧で覆われ、自然への畏怖もあってか、地元の民もむやみに竜仙山へ足を踏み入れることはなかった。  その神秘的な様相から、竜仙山は古代から霊峰として崇められ、恐れられ、そこから派生して竜仙山にまつわる数多の伝説、伝承が伝えられるようになっていった。 竜仙山の頂きにはこの地の守り神が住んでいる—— 雲が晴れ、竜仙山がその姿を現す時、白銀の光を纏った神が人界へ降りてくる—— —————— ここは竜仙山の山頂。 天界と人界の中間地点。 ここに『(あま)の離宮』という、天界に住む白神様の仮住まいがあった。 万年雪に覆われた過酷な環境にも関わらず、強力な結界のおかげで、山頂一帯は太陽の柔らかな日差しをうけ、春のような陽気に包まれている。 そこに白銀の万年雪の上に、静謐(せいひつ)な佇まいの離宮と庭があった。 緑の絨毯が生い茂る庭には竹林が微風が舞うたび乾いた音をたてていた。 そこから下に目を向けると、果てしなく広がる雲海。 その少し手前には、切り立つ崖に面してつくられた回廊といくつもの離れが点在している。 そして、その回廊の最果てには、断崖から突き出すようにして張り出ている巨大な一枚岩でできた吹き曝しの修練場があった。 そこは結界の外側にあり、太陽の日差しこそあれ人界から吹きつける強烈な影は万年雪すらも銀の塵へと帰すほどの、険しくも危険な場所の一つで、そこでは仙術(せんじゅつ)という、民を救うために魔を祓い、清めるありとあらゆる術を身につける場であった。 そこに一人の若者が立っていた———。 黒く長い髪。 すらりと伸びた体躯。 白銀の装束。 翡翠色の腰帯。 白雪の肌。 漆黒の瞳。 その若者は荒れ狂う風をものともせず、凛とした佇まいで眼下に広がる雲海を見つめている。 若者は目を閉じると、深呼吸を一つ。 若者はかっと目を見開いた。 漆黒の目に白銀の炎が静かに揺らめいている。 「はっ!」 気合いとともに白銀の剣を振り下ろすと、吹きつける風を真っ向から切り裂いた。 剣先から放たれる風圧は荒れ狂う風の軌道すらも変え、煽られた万年雪は太陽の光に照らされながら細氷となって宙を舞う。 銀色の閃光が空を斬るたび、天雷の如く鳴り響く轟音が巨岩の修練場を容赦なく揺らした。

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