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第二十話 出会い

「おーんーなぁぁぁー! 」 「ははっ、そうだよ。俺の女! 俺、商売柄こういう格好してるけど、れっきとした男なんだよ。どうだ、なかなかのもんだろ? 顔なしのおまえより、よっぽど見目麗しくって! 」 聖羅(せいら)は顔のない女に向かって片目を閉じた。 「ほら、俺様の女にしてやるってんだ。さっさと来いよ! 」 「ふーざーけーるーなぁぁー! 」 女は咆哮のような叫びを上げた。 それを合図に、いったんはおとなしくなった小さな黒い頭が次から次へと川から飛び出し、女を助けようとその体にしがみついた。 「おかぁーさーん! 」 「おーいーでぇー、ぼーやーたーちー! 」 女は子供たちを励ますと、しゅるりと口から舌を出した。 たちまち強烈な汚臭が聖羅の鼻をついた。 それは蛇のごとく聖羅の首に向かって伸びていくと、聖羅の首に巻きつき、締め始めた。  「ほぉーらー、ごーはーんーだーよぉー! おーたーべー!」 「おぇっ! おまえ、なんて臭いだ! おまえ、いい女だと思って期待してたのに、顔なしで、魔物のなり損ないで、それでもって反吐臭いなんて! つくづく残念な女、興ざめもいいところだよ! 」 聖羅は空いた手で自分の鼻をつまみながら言った。 「だからって、そんなもん首に巻きついたくらいで俺様が驚くとでも思ってんのか? お遊びはおしまいだよ。いい加減、諦めて俺の体に入りやがれ! 」  聖羅の目が烈火のごとく光った。 「さあ、来いっ! 」 「やーめーろー! 」 女の体からシュルシュルと黒い煙が立ちのぼる。 「そうだ、いい子にしてるんだ。俺の中でとびっきりの美人にしてやるから——」 一瞬、空気の流れが変わったような気がした。 肌を刺すような鋭い冷気—— 聖羅はすぐさま気配がした方へ視線を動かした。 東の方角から、それは新渓の町の方からで、一筋の閃光が聖羅と女に向かって飛んでくる—— (ん? なんだ? 光か! そう思った時には、すでに光は聖羅たちの眼前に到達し、音もなく爆ぜた。 「いやあぁぁぁっ——! 」 「おかーさー! 」 女と黒い小さな頭たちは、光に打ち砕かれ、残光とともに消えた。 一方の聖羅は、閃光が爆ぜる瞬間、誰かに腰を引き寄せられ、そのままふわりと体が宙に浮くのを感じた。 (何者? 俺の柳腰に気安く触りやがって! ) 聖羅は何者かによって、やはりふわりと橋の袂に降り立った。 すぐさま聖羅の腰に回された手は聖羅の腰から離れた。 その時だった。 「えっ? 」 聖羅の頭上から、男の呟くような低い声が聖羅の耳に届いた。 聖羅は思わず耳を疑った。 「怪我はないか?」 聖羅の頭上から、低音の落ち着きのある声が今度ははっきり聖羅の耳に届いた。 またも満月は顔を出した。 今宵の月は何度目かの気まぐれを起こし、二人の男が相まみえる、今この瞬間、狙い定めたように忽然とその姿を現した。 聖羅は月光に照らされる寸前、さりげなく、しかし手早く襟元を整えた。 男は聖羅を見下ろし、聖羅はその男を見上げていた。 聖羅は思わず息をのんだ。 二十歳そこそこ聖羅にとって、そう長い人生ではないが——少なくとも聖羅の知る限りでは、初めて出会ったといってもいいだろう、目の覚めるような美男子が聖羅を見つめていた。 (そうか、こいつか……宋閑が言ってた例の術師ってのは……。うん、確かに目が覚めるな。いい男だ、男の俺が見ても惚れ惚れするほどの美男子だ! ) 「失礼……、怪我はありませんか? 」 男は軽く咳払いをした後、先程より丁寧な口調で言った。 その表情はいまひとつ見極めきれず、どこか戸惑っているようにも見えた。 (この男、俺を助けた時、ぼそっと『男か? 』って言ったな。月明かりもない暗闇で、何を根拠にそう思ったんだ? 確かに俺は背は高いけど、出自は温蘭ってことで問題ないし、そもそも俺はボロは出してないはず。なんって、この格好してる時の俺は徹底的に『女』してるからな! ) 「はい……、あの……少し首と腕が痛みますが……でも、大丈夫です」 聖羅は男から顔を逸らすと、女に締め上げられた首を擦りながら言った。 聖羅を見下ろす男の視界には璧な曲線で描かれた聖羅の横顔と滑らかな首筋が見えるはずだ。 (まぁ、いいさ。いま、俺の姿を見て、それが『間違い』だって思って気まずいなら、そう思わせとけばいい! ) 「あの、公子様、危ないところを助けていただいて、ありがとうございました。公子様がいらっしゃらなかったら、私いまごろどうなっていたか」 聖羅は柳の腰を折って礼を述べた。  

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