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第十九話 聖羅、女と出会う そのニ
聖羅の腕から黒い蒸気が発生し、巻き付いた女の髪が鼻をつくような悪臭とともに消滅した。
「ぎゃーっ! くーさーいぃー!」
聖羅は欄干越しに女の胸ぐらを掴んだ。
「ははっ!そらは仕方ないだろ? おまえ、身も心も、魂さえも腐ってんだからな。それにしても、やっと会えたな。どんな美人さんに会えるかと、首を長くして待ってたんだぜ」
聖羅は掴んだ胸ぐらをさらに高く掲げた。
「あははっ! たかい、たかーい! ほら、おまえも子供の頃やってもらっただろう? 」
女の体は生きた人間のように実態を伴ってはいるが、そのくせ恐ろしく軽かった。
「うぅー! はーなーせー! 」
女は聖羅を見下ろした状態で、聖羅に掴みかかろうと両手を伸ばす。
側から見ると、女が聖羅を飲み込もうとしているようにも見える。
聖羅は女の体を高く掲げたまま言った。
「なんだよ、楽しくないのかよ。まぁ、俺もな、ちょっと残念だなぁって思ってたんだ。だって——おまえさぁ——口しかないじゃないか! 」
聖羅の目が怪しく揺らめいた。
「どんな美人か楽しみにしてたのに、口だけ美人かどうか、なんとも言えないな。おまえさぁ、ここで死んでいった女たちの寄せ集めなんだろ? どうせ、一つになっていく間に、女同士のちょっとしたいざこざがあって——」
聖羅はククッと小さく笑った。
「どうせ、私の顔が一番よ! いえ、私よ!いいえ、私よ! ——なんて争ってさ! そうやって互いに顔を食い尽くして——その結果、顔がなくなっちまったんだ」
「おーまーえーもー! くってーやーるー! 」
「おかぁーさぁーん! 」
「おっ、おまえの子供たちも来たな!」
聖羅がチラリと川面に視線を落とすと、たくさんの黒い塊がうごめいている。
「で、下にいるのは水子か? それとも道連れにした子、あるいは、川で溺れて死んだ子かな? そいつらを養うために、ここで人間にちょっかい出してたんだ。おまえ、いや、おまえたちって言えばいいのかな。死んでんのに、いまさらお母さん気取りなわけ? それとも、死んでから母心が芽生えたってわけ? 女って、死んでも女なのな、感心するよ! でも、なんで『女』を狙うわけ? 」
聖羅は笑いをかみ殺すように低い声で言った。
目は爛々と狂気に満ちて輝いている。
「しかも魔物って言うから、おおいに期待してたのにさ。実際はなんてことない、魔物のなりそこないの小物だし、顔はないし——俺、どうしたらいいと思う? 」
「はーなっーせぇっー!」
「おかぁーさーん! おなかぁーすいたよぉー!」
川面には無数の小さな黒い頭が上を見上げていた。
やはり女と同じく口以外、顔がなかった。
顔だけではない。
子供たちは、首から下の実態がないただの黒い塊で、川面にぷかぷかと浮いてるだけだった。
「はいはい、お母さんはいま俺と取り込み中だからね。静かにそこで待ってなさい。余計な口出すと、お姐さん、怒っちゃうよ! 」
聖羅は弾けるような笑顔で言ったかと思うと、次の瞬間には凄みを利かせて睨みつけた。
小さな黒い塊たちは聖羅の迫力に気圧されその場でピタリと動かなくなった。
「ふん、お母さんと違って随分と聞き分けがいいじゃないか。さぁ、そろそろ終わりにしようか。魔物じゃなかったのは残念だけど、それでもいいか」
再び満月が夜の闇を明るく照らした。
聖羅は片腕で女の胸ぐらを掴んだまま、片方の手で自分の胸元を開け広げた。
胸の中央には黒と白の小さな痣があった。
二つの異なる痣は互いを飲み込もうと絡み合っている。
聖羅の目がいよいよ烈火のごとく揺らめいた。
「おまえ——俺の女になれよ 」
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