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第十八話 聖羅、女と出会う
「それで、橋を渡る時は絶対にしゃべるなって言ってたな。んー、俺、黙ってるだなんてことできるかなぁ? 」
聖羅 は橋の袂までいくと、行灯を腰より低い位置で持ち直した。
その場でふぅと深呼吸をした。
(さぁ、頼むから、俺に話しかけてくれよ、美人の魔物ちゃん! )
聖羅は心躍る気持ちを胸に、そして女性らしく、優雅な足取りで橋を渡り始めた。
(ん? )
さほど大きな橋ではないためか、聖羅はあっという間に橋を渡りきってしまった。
聖羅は振り返って行灯を掲げ、いま渡ってきた橋とその周囲を照らした。
何の気配もせず、川のせせらぎ以外聞こえない。
(やっぱり術師って奴が退治したのか? それとも他の場所に行ったか? そうでなかったら――寝てんのか? )
「行灯の明かりがだめなのかな? 」と小さく呟くと、行灯の火を消し、その場に投げ捨てた。
行灯の明かりが消えたことで、聖羅は完全な闇に包まれた。
いっぱしの人間なら、男でも心細くなるところだが、聖羅は闇夜を恐れることはない。
むしろ、闇にいてこそ、誰の目にも触れず、自由気ままに、自分自身でいられるような気がする。
(もういっぺん、渡ってみるか)
聖羅は先程よりもゆっくり、ゆっくりと歩を進め、何も見逃すまい、聞き逃すまいと全神経を集中した。
しかし、またもや期待に終わった。
「あぁ、なんだよ、空振りかよ、おもしろくないな。せっかくここまで来たってのに! 」
夜目が利く聖羅は路傍の石を川に向かって蹴った。
石が川の中に落ちる音がしたが、魔物は本当に根城を移したのか、川面がわずかに動いただけで、再び静寂に包まれた。
「おーい、魔物ちゃん! 聖羅様が遠路はるばる会いに来てやったぞ! 恥ずかしがってないで、出てきなよ! 」
聖羅は懲りずに欄干の上にちょいと飛び乗ると、軽やかな足取りで橋を行ったり来たりし始める。
しばらく行ったり来たりを繰り返したが、さすがの聖羅も飽きてきた。
今宵は諦めて帰ろうと、欄干を降りたところで、川沿いの草地がかすかに揺れた。
「おかぁーさーん、どこにーいるーのぉー? 」
橋の下の方から、幼い子の声が聞こえてきた。
聖羅は片方の口角を軽く上げた。
気取られないように、静かに欄干から身を乗り出し、川面を覗き込んだ。
風もないのに川岸の草地がわずかに揺れ動いている。
「おかぁーさーん、どーこぉー? 」
一瞬の秋風が雲を追い払った。
満月の月明かりが聖羅の頭上に輝くと、聖羅の目に燃えるような赤い炎が宿っていた。
「坊や、どうしたの? お母さんとはぐれてしまったの? 」
聖羅は欄干から身を乗り出しながら柔らかな声で言った。
あくまで川岸の草地に視線を向けて声をかけたが、欄干の真下の川面にうごめく何かを、聖羅は視界の片隅に捉えていた。
「おかぁーさんはー、ここにーいるよぉー! 」
激しい水しぶきとともに女の上半身が聖羅めがけて飛び出した。
例のごとく、女の髪が聖羅を捉えようとシュルシュルと伸びていく。
(へっ! 待ってたかいがあったってもんだ! )
聖羅は自ら手を差し出すと、女の髪が蛇のごとく聖羅の腕に巻きついた。
「あら、大変! すごい力! 」
聖羅はあくまで「女」の声色で言うと、さして慌てる様子もなく、もう一方の手で女の髪を掴み、そのまま女の髪ごと体を引き上げた。
「でも、たいしたことねぇな——」
聖羅の目が赤く煌めいた。
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