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【 山神様の番 】〜生贄として捧げられた花嫁は、山神様に溺愛され本当の愛を知る〜 番外編 水月と氷雨 | 柚月なぎの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
【 山神様の番 】〜生贄と...
番外編 水月と氷雨
作者:
柚月なぎ
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番外編 水月と氷雨
水月
(
みなづき
)
はこの辺りを治める土地神である。もう六百年以上はこの地で崇められている意外とすごい神様なのだが、普段の素行からはそんな雰囲気はまったくなく、賑やかで時々お節介なお兄さんという印象が強い。 水月の社は
黒鴉
(
くろあ
)
や
氷雨
(
ひさめ
)
の社からだいぶ離れた場所にある。水月神社という名で人里の近くにあり、本殿には御神体として古い鏡が祀られていた。神社には多くの人々が訪れ、その信仰心が水月の力の源となる。そんな人々の平穏を守るのが水月の役目であり、この土地が豊かであることがなによりも誇らしかった。 穢れの元凶であったあの蠱毒の穴の中で肥えていた、蛭のバケモノは蛭子によってすべて喰われ、今は誰も入れないように洞穴ごと塞いである。山神の代替わりとして銀花の神気から生まれた氷雨も、日に日に力を増しているようだ。 春。 人里の家々の間に咲き乱れる薄桃色や黄色の花が色づいた木々。山の頂付近にある氷雨の社からは麓の景色もよく見えた。元々は
銀花
(
ぎんか
)
と
楪
(
ゆずりは
)
の三人で住んでいたが、ふたりは国を見てまわっている途中で、あれからすでに三年ほど月日が流れていた。 「水月様、さっき楪から文が届いたよ!」 寂しい思いをしているのではないかと、時々こうやって社に顔を出す。氷雨は時を重ねるごとに銀花によく似てきたが、性格はどちらかというと楪に似ている気がする。純粋で些細なことにも興味を持ち、くるくると表情を変えて感情が忙しい。 「そういえば定期便の頃だったね。どれどれ、今はどの辺りにいるのかな?」 「陸奥? って書いてあるけど、」 「おや、随分と上の方だね。まだ少し寒いんじゃないかな」 「うん、そう書いてあるよ。雪が残ってるって」 陸奥はかなり広いので、当分は留まることになりそう、と水月は心の中で呟く。ゆっくりのんびり国中を歩いてまわっているようで、定期的に送られてくる文が楽しみなのだ。顕現はなるべくせず、必要な時だけ人間と関わることもあるようだが、神狐とその花嫁であるのは変わらないので、基本的にはふたりだけの旅を楽しむようにしているようだ。 騒がしい戦国の世は終わり、江戸に幕府が開かれたとか。 田舎であるこの辺りも一時期戦に巻き込まれそうになったが、なんとか戦火は免れたようだ。土地が戦に向かない場所であったこともあり、軍勢が村を通り過ぎることはあれど巻き込まれることはなかったようだ。 「早く帰って来て欲しい?」 「それはそう。でもいいんだ。ふたりがやりたいこと、見たいもの、ぜんぶ見てきたらいいって思うよ。寂しいのは本音だけど、
黒兄
(
くろにい
)
や
蛭子
(
ヒルコ
)
、水月様もいるから平気」 「そっか。ならよかったよ」 ふっと口元をゆるめていつもの穏やかな笑みを浮かべ、水月はよしよしと氷雨のふわふわしている銀色の髪の毛を撫でた。毛先が少しくせっ毛なのが特徴で、銀花はさらさらした感じだったが氷雨は柔らかい感じなのがまた良い。 撫でられている時の氷雨の少し照れたような可愛さも水月に癒しを齎すので、撫で心地が上質な獣の毛みたいなこともあり、いつまでもこうしていたいと思ってしまうほどだ。 獣耳があった幼い頃もよくこうやって撫でていた気がする。昔のように獣耳も尻尾もないが、幻が見えることはよくある。今もまさにそうで。 「ふふ。君の頭を撫でている時が、一番の至福の時だよ〜」 「水月様の笑顔がこんなに近くで見られるなら、俺も至福だ。いくらでも撫でていいよ」 美人な水月の顔が幼い少年のように綻ぶ姿が至近距離で拝めるだけでなく、頭を撫でられている気持ち良さも、氷雨には同じく至福の時だった。 「そ、そう? じゃあお言葉に甘えて……って、ダメダメ! 君にもそろそろ番《つがい》を見つけてあげようかと思ってる身としては、この触れ合いはよくない! なんとかこの、小動物を撫でたくなるような衝動を抑えないようにしないとね!」 「……番?」 「そう。結婚して落ち着くのはいいことだよ。番と交われば力も増すしね。前のように生贄としての花嫁じゃなくて、君のことを本当に想ってくれる素敵な子が見つかるといいんだけれど。今回は同族がいいかなぁと思って何人か候補を、」 「いらない。別に、望んでないし」 氷雨は急にむすっとわかりやすく機嫌が悪くなった。水月は不思議そうに首を傾げ、その顔を覗き込むが、まるで我儘な子どもみたいに氷雨はふんと顔を背けた。 「え? そうなの? ユズちゃんみたいな可愛いくて優しい子がいいって前に言ってたのに」 「楪は理想のお嫁さんだけど、そういうんじゃなくて……、」 じゃあどういう子が好み? としつこく水月が訊いてくる。完全に他人事として面白がっているようだが、その理由を知ったらどういう反応をするのだろう、と氷雨は考える。 (人の気も知らないで……水月様はいつも他人のことばかり。自分が幸せになる選択肢はないってこと? 水月様がいいって言ったら、俺の花嫁さんになってくれるの?) いや、どうせ笑って誤魔化されてしまうに決まっている。そもそも、自分と水月では全然釣り合わない。山神として代替わりをしてまだ数年。 もっと時間をかけて、頼りになる存在にならないと。いつまでもひ孫くらいの扱いだろう。気持ちはきっと変わらない。時間もある。だから、今は言わない。 「もしかして、気になる子でもいるの? 教えてくれたら、私が上手く仲立ちをしてあげるよ。せっかくなら両思いの方がいいに決まってるからね」 「…………はあ、」 水月は盛大な勘違いをしていた。 (まあ、これはこれで可愛いからいいか。誰かのために一生懸命な水月様、好きだな) 大きなため息を吐き出した後、氷雨は答えを待っている水月をじっと見つめる。大きな翡翠の瞳に魅入られ顔を近づけそうになりながらも、寸前で理性をなんとか抑える。 「今はいい。やることがたくさんあるし。そういうのはやっぱり自分で伝えたいし。水月様は俺が山神として立派に役目が果たせるよう、傍で見ていて欲しい」 その手を取って、今言葉にできる精一杯の気持ちを伝える。 「わかった。君が立派な山神になれるよう、私もできることをしよう」 水月がくれた笑みと言葉で、氷雨は気持ちがすうっと落ち着いた。 春。 もう何度も繰り返したその季節に少しだけ変化が生まれる。いつかこの想いを伝える時が来たら。 あなたは、どんな表情《かお》をするのかな。
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柚月なぎ
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