50 / 50

番外編 旅路の果て

 (ゆずりは)銀花(ぎんか)の旅は、北の最果ての場所で終わりを迎えた。  辿り着いた時、楪の心はなんだか妙に落ち着いていて、これで終わりなのだなと納得するような気持ちが強かった。なぜなら、目の前に広がるのは海で。そこから先の道がなかったから。道がないということはその先に続くものはないという事実。  つまり、自分たちの長い旅は終わったのだと確信できたというのが正しいだろう。冷たい風が頬を撫でる。この広い国をふたり、旅した日々。  三年半ほどではあったが、気の向くまま目的地など決めずに歩いてきた。なにもない日々も新しい発見も、すべてが楪の中では輝かしく、なによりも銀花と共に共有できたことが嬉しかった。 「銀花様、付き合っていただいてありがとうございました」 「礼を言われるようなことはしていないよ。そもそもは俺の我儘に付き合わせてしまったのが始まりだ。この国を見てまわりたいという好奇心。三年半以上も皆と離れることになって寂しかったろう?」 「はい、少しだけ。でも、銀花様と一緒だったので平気でした」  それに正直、楪の中で年月の感覚がずれており、いつの間にか三年半経っていたという不思議な状態でもある。あの領域で百年以上過ごしていた影響なのかもしれない。銀花が生きている限り、楪は死なない。この身に流れる神気が死という概念をなくしてしまっている。  ただの人間であったはずの身体は、もはやそれとは別の物になっているのかもしれない。それでも怖いとか気持ち悪いとか。そんなふうによくない方に思うことがないのは、銀花をなによりも信頼しているからだろう。 「では、そうだな。皆のところへ帰ろうか」 「はい。帰りましょう、皆さんのところへ」  手を繋いで。  視線を合わせて。  小さく頷いた。  最果ての地で、ふたり。遠き地を想う。  あの優しい場所で。  待っていてくれている、大切なひとたち。 「あとは、あのことを水月(みなづき)様に相談しないとね」 「……そうです、ね。悲しいことですが、これも時の流れというものなのでしょうか」 「だが、俺たちはなにも変わらない。変わらないからこそ、選択が必要だということをこの旅で学んだ。水月様がどうするか。どう思っているか。俺はあのひとが選んだ道を共に歩むだろう。楪、お前もついて来てくれるか?」  時代は、神という存在に対して都合のよいものしか求めていない。そこに確かに存在しているのに、そうは思っていないのだと。人間は人間だけで生きる。見えないモノや信じられないモノは、必要ない。神様仏様と唱えていても、それはただの願いを吐き出すための行為。存在しないが言うだけはタダという、軽いものだった。 「私は、銀花様がいる場所が自分の居場所だと思っていますので、なにを選ばれようともついて行きます。それがたとえ、この現世(うつしよ)でなくとも」  銀花が水月に提案しようとしているのは、あの地を、人の世を離れて、別の領域で最期を迎えようというもの。その最期がいつになるかはわからないけれど、人々の信仰が薄れている今、留まっても良いことはないという気持ちからだった。  穢れが生まれる気配もなく、あの地が再び災厄に見舞われる心配はないだろう。ならば、これを機に離れるという選択肢はありだと銀花は考えていた。それを土地神である水月が受け入れてくれるかどうかで、自分たちの今後の行く末を見極めようということらしい。 「この旅で、色んな場所を巡りましたが、神社に神様がいないという悲しい現実を知りました。もちろん、人間が好きで見守っていくとおっしゃっている方もいましたが、それはほとんどが大勢の人間たちの信仰の集まる大きな神社がほとんどで……、」 「水月様の力も年々弱まってきている。俺たちや山の者たちがいるから辛うじて留まっていられるが、いつ消えてしまってもおかしくないだろう」  繋がりを失ってしまえば、あやふやな存在となって神としてカタチを成さなくなる。それはつまり、死と同じ。神が死ぬのは、人間に忘れ去られた時。 「私は、皆さんとずっと一緒がいいです。銀花様と一緒じゃないと、寂しいです」  きゅっと袖を指先でつかみ、楪は俯いたままそう呟いた。離れるなんて考えられない。生きるのも死ぬのも一緒だと、遠い昔に誓い合った。神狐とその番として、共に生きていくと。そう、決めたあの日から。 「銀花様を、ずっとずっと、愛し続けます」 「俺も、永遠に楪を愛し続ける」  何度も。  何度も、交わした言葉。  その尊さを知っているからこそ。 「愛している」  隙間なく抱きしめて。そのぬくもりを分け合う。  皆で選んだ道の先が、たとえ消えゆく未来であったとしても。  終わりのその瞬間まで。  ふたり、手を繋いで笑っていよう。 番外編 雪月花の時、君を想う 〜了〜 ❀❀❀ こちらの作品はコンテスト参加中のため、気に入っていただけたらで構いませんので、投票ボタンを押していただけたら幸いですm(_ _)m 最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました! 柚月なぎ ❀❀❀

ともだちにシェアしよう!