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1話 はじまりは再会から
『いえーい、オタクくん見てるー?』
トークアプリに送られてきた動画を再生すると、明るい声とともに笑顔のイケメンがどアップで映し出される。画面の中の彼は軽く手を振ると、自分の体も映るように後ろに下がった。ベッドの上に座る彼はTシャツにジャージ姿なのにまるで写真集の1ページのようにかっこいい。
『じゃあ今日もしっかり見ててね、オタクくん』
縦画面で撮られた動画の中のイケメンは、興奮した顔でゆっくりと自身の下穿きを下ろしていく。下着も脱ぎ捨てると、ゆるく勃ち上がったちんぽが画面に映し出された。
彼はベッドに転がしてあったローションを手に垂らし、カメラに向かって見せつけるように自身を扱き始める。彼の手の中で少しずつちんぽが大きくなっていくと、粘度の高い水音や彼の吐息もイヤホンを通じて耳に届く。
『ん……っ♡ オタクくん、今日のオレのチンポも立派でしょ? は、ふぅ……っ』
ギラギラとした目つきで画面の向こうの僕を見つめる彼がにやりと微笑む。スマホ画面から彼の熱が伝わってくるようで、ゴクリと喉が鳴った。
完全に天を仰いだちんぽは彼の言うとおりすごく立派で、僕のモノなんかとは比べものにならない。彼の長い指が竿を包んでぬちゅぬちゅと扱くと、とろりと鈴口からカウパーがあふれてきて目が離せなくなる。
次第に彼の手の動きが速くなっていき、荒い息づかいが耳に届く。彼のちんぽがさらに大きくなっていき、絶頂が近いことがわかる。
『はぁ……ッ、オタクくんっ、出る……っ! 俺が射精するとこっ、ちゃんと見ててね……っ、んんっ!』
頬を上気させ彼は色っぽい笑みで微笑んだあと、きゅっと眉をひそめる。同時に、彼のちんぽからびゅるびゅると精液が吹き上がり、彼の指や竿を伝って下に落ちていく。しっかりとタオルが敷いてあったためシーツやベッドに被害はほとんどなさそうだ。
動画の中ではしばらく彼の荒い息づかいのみが流れる。しばらくして、彼はザーメンまみれの手をカメラに近づけた。
『へへ……オタクくん、こんなに出ちゃった♡ ちゃんと見ててくれた? じゃあ、返信待ってるねー♡』
まだ少し赤い顔で微笑む彼がそう言うと、動画の再生が終了する。しばらくスマホ画面をぼんやりと見つめたあと、僕は返信をするべくベッドから立ち上がった。
今日で何度目になるだろうか。彼とのトーク履歴は人に見せられないほど、オナニー動画で埋めつくされていた。
*
それは、今年の正月休みのこと。地元に帰省していた僕は、夜に近所のコンビニへ酒とつまみを買いに行っていた。家族が集まるからと親父が高い日本酒を開けたので一緒に飲んでいたが、さすがに三が日ずっとは飽きてくる。ビールかチューハイどちらにしようかと、ドリンクコーナーの前で眺めているときだった。
「あれ、もしかしてオタクくん?」
「ん?」
背後から聞き覚えのある声が聞こえ振り返ると、僕より背が高くダークブラウンの髪をしたイケメンが立っていた。にこにこと笑う顔を少しの間見つめ、先ほど僕を呼んだ声と呼び名を思い返す。
「もしかして……鹿内 ?」
「えー、俺のこと忘れてた? ひどいなーオタクくん」
けらけらと笑う姿に高校時代の彼が重なって見え、ようやく目の前の青年が高校のクラスメイトだった鹿内光希 だということをはっきりと思い出す。
「いや、ごめん。髪型とか変わってるからすぐわかんなかった」
「あー、そっか。成人式んときも結構派手めだったもんね」
校則が緩かったため、高校時代の鹿内は肩まで伸ばした明るい色の髪をハーフアップにしていた。成人式のときも似たような感じだったから、今の落ち着いた色と少し襟足が長いくらいの髪型と彼が結びつかなかったのだ。卒業後2回ほど開催された同窓会も都合がつかず僕は参加できなかったため、彼とは成人式以来の再会だった。
「もう立派な社会人ですから。オタクくんは相変わらずって感じでいいね」
「どうも。相変わらずの地味オタクだろ?」
「あはは、そこまでは言ってないって。まあ……素朴、ってとこ?」
あまり意味合いは変わらない気もするが、彼なりに気を遣った言葉選びをしたんだろう。思わず吹き出すと、鹿内は柔らかく微笑んだ。
「オタクくんはこのあとなんか用事ある?」
「とくに。酒飲んで寝るくらい」
「ほんと? じゃあ久々だしちょっと話さない?」
断る理由もないのですぐに頷くと、鹿内はさらに破顔した。このまぶしい笑顔が特に女子に人気だったなと懐かしくなる。
コンビニには冷やかしになってしまって申し訳ないが、僕と鹿内はなにも買わずに外に出るとカラオケに向かった。この時間に入れるのがラブホかカラオケくらいだったから。
カラオケルームに入り椅子に腰掛け、互いに近況を話し始める。久しぶりに会ったけど、鹿内が話題を引き出してくれるおかげで高校のときのように自然に話すことができた。
高校時代は属しているグループが違った僕らだけど、クラスの中では結構話していた方だったと思う。教室で座席が隣同士だったのと、日直当番が一緒だったからだ。彼は率先して日直の仕事をやってくれていたから面倒でも毎回楽しくやれたことを思い出す。
ちなみに鹿内が僕のことをオタクくんと呼ぶのは、僕がいわゆるオタクグループに属していたから――ではなく、僕の名字が小宅 だからだ。ネットミームのように聞こえてしまうのは、ただ彼の口調がゆるいから。特に悪意があるわけでもないし、僕がオタクなのは一応事実だから呼び名を不快に思うことはない。
「オタクくんはSNSやってる? トークアプリとか」
「まあ一応」
「じゃあID交換しよー」
流れるようにスマホを取り出す鹿内に、これがモテる男のテクニックかと感心してしまった。家族や友人、それから企業の公式アプリくらいしか入っていないトークアプリに彼の名前が加わると、さっそくスタンプが送られてくる。
交換はするがめったに会話することなんてないだろうなと思いながらスタンプを返すと、隣に座っていた鹿内がさらに近づいてきた。
「ねえ、オタクくんはさ……」
鹿内が内緒話のように耳元で囁いた言葉に僕は驚いた。まさか彼からこの話が出るなんて。驚きと嬉しさで、少しだけ頭が混乱してしまった。あの日のことを、鹿内はとっくに忘れていると思っていたから。
その後、鹿内からさらに驚く話をされ――そして、今の関係が始まった。
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