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過去:彼が愛してくれるから
誓いを立てた士狼は、羊真を徹底的に守ろうと行動した。
まず、羊真にアルバイトを辞めさせた。
店長は事情をなんとなく察してくれたらしく、すんなりと辞めさせてくれた。
それから、防犯と防音に優れたマンションに引っ越した。
防犯面を優先したのは、もちろん羊真を守るため。
防音は……羊真の甘い声で、近隣の住民から苦情をよこされるかもしれないと思ったから。
次に、羊真に与える情報を制限した。
スマートフォンを解約させた。
固定電話を引いてもらい、士狼からの電話しかとらないように言いつけた。
テレビの視聴を禁止した。
性犯罪のニュースを見て、トラウマを呼び起こさないように。
羊真のための本は、性犯罪の表現がないかを調べてから買った。
もちろん、映画も同様に調べてから一緒に見るようにしている。
契約している映画のサブスクリプションは、羊真だけの時は見ないように伝えた。
さらに、自宅に小型のカメラをしかけた。
……これは羊真のためというより、士狼自身が安心できるようにするため。
これだけ徹底しても、羊真はひどく怯えて日々をすごしていた。
彼が言うには、『ドアの裏やベッドの下から、手が伸びてきそうで怖い』らしい。
トラウマを抱えた彼が、どうしたら安心して暮らせるか?
……調べた末にたどりついた答えが、「貞操帯」だった。
今はSMで使われるらしいこの道具は、もともと妻の貞操を守るためのものだったらしい。
……著説あるらしいので、なんとも言えないが。
悪趣味だ。と思った。
こんな鉄の塊を着けさせるのも可哀想だと思った。
……だが、これで羊真が安心してくれるなら。
どうやら、本格的なものは日本では造られていないらしい。
ひとまず、ネットで買ったものを「お守り」と称し羊真に渡した。
その後、外国語と戦いながら、本格的な貞操帯の購入に成功した。
本人が言うには、『ネットで買ってくれたやつより楽』らしい。
……俺が生涯守ってやらないと。
もう二度と、痛い思いなんかさせるものか。
ずっと二人だけでいれば大丈夫。
羊真さえいてくれれば。そばで笑ってくれれば。
……それ以上の幸せなんて、ないのだから。
***
平日の昼ごろ。
「はぁ……はぁ……」
寝室のなかで、羊真は火照った体をもてあましていた。
うつ伏せになり、マットレスにペニスチューブを擦りつける。
それでも射精に至れない。
お守りが快感を拒むからだ。
疲れ果てた羊真は、仰向けに寝転んだ。
体の熱を冷ましたい。
フラストレーションが、羊真を悩ませる。
だが……この苦しみが、士狼から与えられているものだと思えば、ほの暗い快感に変わるのだ。
羊真はお守りに触れて、静かに笑う。
どれだけ離れていても、士狼が魔の手から守ってくれる。
どれだけ遠くにいても、士狼の愛情を感じられる。
……あぁ、なんて幸せなんだろう。
***
会社の個室トイレの中で、士狼はスマートフォンを見て悶えていた。
画面には、寝室で無駄な自慰に耽る羊真の姿が映し出されていた。
士狼が仕掛けた小型カメラからの映像だ。
このカメラの存在を、羊真は知らない。
悪趣味だ。
唾棄したはずの小道具から見つけられた、羊真の可愛らしい一面。
それを士狼は夢中になって眺めていた。
やはり、この青年を外に出すわけにはいかない。
ずっと自分だけのものにしていたい。
軟禁生活。……それが、羊真を守るために考えた、ただひとつの方法だった。
***
その日の夜。
いつもどおり寝る支度を終えた二人は、夫婦としての甘い時間をすごしていた。
「士狼」
裸の愛しいひとに名前を呼ばれる。
下半身には貞操帯。上半身には士狼の噛み跡。
「どうした?」
「……幸せだなぁって。だって、ずっと士狼と一緒にいられるんだもん」
「これからもずっと一緒だよ。ずっと俺だけと一緒」
「うん、ずうぅっ……とね!」
胸に飛び込んできた羊真を、士狼はしっかりと受け止めた。
あぁ……幸せだなぁ。
(了)
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