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【プロローグ】蜘蛛の糸で編んだ毛布 byコウ
「あっく……」
「コウどしたァ?」
「あつい……」
「布団やめるゥ?」
「もうふ……がい」
湿り気の残る部屋に篤志のメンソールが薄く漂う。
咥え煙草のまま、布団を剥いで熱のこもった俺の身体にそうっと毛布をかけた。
手触りのいい毛布が素肌に触れて、身体の奥から高まりすぎた熱が抜けてゆく。
「ん……きもち」
「オレとのセックスよりィ?」
「なッ……ちが……」
「へェ?違うんだァ」
にやにやと笑いながら、篤志が細く煙を吐く。
ゆらゆらと広がってゆく白い筋が、棒に巻き付ける前のわたあめみたいで
口の中に渇きを感じた。
マイスリー、効いてきたのかな
身体が突然軽くなってふわふわする
今日はいいことあったかな
朝もちゃんと起きれたし、事務所の先にある弁当屋の冬季限定の豚汁がうまかった。
リリカは相変わらずうざかったけど、お茶引きがひとりもいなかった。
だけどなんでだろう
どうして手のひらだけが寒いんだろう。
ゴクリとつばを飲み込んで、乾いた口で息を吸い込んだ。
「なあ」
「なにィ?」
「俺……邪魔じゃねえの」
「なんでェ?」
「わかんね……けど」
そう呟いた瞬間、篤志がガバッと毛布ごと俺を抱き上げた。
赤くなった煙草の火先がゾクりと頬に熱を与える。
ちっぽけな暖かさなはずなのに、不思議と身体の力が緩んでいった。
「コウがオレの罠にかかっちゃったからねェ?」
「……蜘蛛みてえ」
小さく息を吐くように零れた言葉が、身体の隙間にほろりと落ちる。
床に落ちてしまわないように毛布の端をぎゅうっとにぎった。
段々と遠のいてゆく意識が、言葉の出口をふさいでしまう
言いたい
だけど、言葉の形になる前に全部どこかに消えてしまう。
篤志には伝わるかな
解ってくれるかな
すると、篤志の手が俺の頭をふわりとなでた。
柔らかい暖かさが、“考えるな”と言ってるみたいに
頭の中の靄を溶かしてゆく。
「そう考えるとさァ、これ蜘蛛の糸で編んだ毛布みてェだねェ」
「……なにそれ」
「あったかいけどォ、気づいた時には絡みついて抜け出せなくなる的なァ」
「……こわい」
「こわいねェ」
篤志が咥えたていた煙草を灰皿に押し付けながらふうっと深く息を吐いた。
目を覚ましてしまいそうなきついメンソールが鼻の奥をツンと刺激する。
そっか
俺はその蜘蛛の巣にかかってしまった獲物なのか
罠に気づかないで足を進めてしまった可哀想な奴なんだ
「だからみんな抜けらんねェの。コウもオレもねェ」
俺の頭を2回撫でながら、篤志が白くくすんだ声色で優しく呟いた。
気持ちいい
胸の奥がホットチョコレートみたいにあたたかい
こんな世界だからこんなに暖かく感じるのかな
もっと違う世界だったらどんなふうに感じるのかな
俺もそっちに行ってみたい
だけどその一歩が踏み出せなくて。
俺はどうしたらいい?
なにをしたらいいの?
教えて
解らないから教えてよ
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