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第7話
先日、イーサンの右腕を縫合した診察台で、俺は下半身を顕にし彼の膝の上に乗っていた。
「ココが苦しいのか? ……パンパンになってる」
そう言って自分よりひと回り大きな身体が俺を後ろから抱き締め、勃ち上がった局部をゴツゴツした手がギュッと握った。
長い指が上下に動かされると堪らず腰が跳ねる。じわっと、身体中に広がった甘い熱が……快楽へと変化を遂げ始めた。
「…ゃっ、……ん、っ……くるし、けど…、ひぁっ……」
イーサンが俺の、触ってる……気持ち悪くないのかな。
ただでさえ熱でまともに動かない思考は、彼の手の動きに寄って更に鈍っていく。
グチュグチュ音を立てながらソレが扱かれると、宙を舞う爪先にキュッと力が入った。
何だよこれ、気持ち良すぎる……
「大丈夫、出せば落ち着くはずだ」
そう囁かれると共に吐息が耳を掠めると、ピュッと先漏れの液が飛び出した。
「あっ、…やぁ、……はずかし、…っんふ…ぁっあっ、ぁあっ」
「そうか?随分気持ち良さそうだけど」
彼の言葉通り、手の中のソレはイーサンから受ける刺激を悦び、もう限界寸前まで猛っている。人差し指の腹で先端の穴をグリグリ擦られ、そのままそれが裏筋をなぞるように動くと、ビクビクッと腰が震えた。
「ぁっ、あっ…だめ、それ……っんんぁ」
喉の奥から出る、甘い声が止まらない。
知らないこんな声、こんな自分俺は、知らない。
「すげー唆るな、アオの声。……俺もおかしくなりそう」
ぴちゃぴちゃ音を立てて耳孔を這う熱い舌が漸く離れたかと思うと、カプっと耳朶を噛まれる。
「っっっ…んんんっぁ、ぁああ……だめ、だめ…イーサンっ……も、イっちゃ、ぅ……んぁあっ」
「イきそうか? なら…俺の手の中に全部出せよ」
低くて良い声が直接鼓膜を震わせると、俺の身体がビクッとそれまで以上に大きく跳ね上がる。
「っぁあ…ぁっ、あっぁっあ……イっっ、ク…ふぁぁっっ」
ヌチヌチ音を立てて全体が強く扱かれ、ぎゅっと先端を覆う様に握られれば、堪らず俺の局部は大きく脈打ち、勢いよく白い液を吐き出した。
荒い息のまま、ふと顔を上げれば……満足そうな笑顔が、涙で歪む俺の視界に映る。
高まった意識が、そこでプツッと途切れてしまった。
◇◇◇
「……っ、……ん?」
心地の良いシーツの肌触りに包まれ、目を覚ました。
……身体が怠い。
たしか俺、魔法の練習をしていたはず。
ズキッと痛む頭で、どうにか数刻前に記憶を巡らせる。
そうだ、なんだか急に身体が熱くなって……そしたら、イーサンが居て……
イーサンが、居て!!
全てを思い出し、いてもたってもいられず飛び起きた。
「……っ、て……」
「動くとまだ頭が痛むと思うぞ」
信じられない程の頭痛に思わず頭を抑えると、ドアの方から件 の彼の声が飛んできた。
「っ……イー…サン……」
とてもじゃないが、あんな痴態をお披露目した後で顔を見る事なんて出来ない。バツが悪そうに俯く俺の目の前に、水の入った真新しい瓶が差し出された。
「飲めるか」
「えっ、……ぁ、うん。…ありが、と」
「ん。飲めるだけしっかり飲んでおけ」
顔は逸らしたまま瓶を受け取り、喉へと流し込む。
「美味しい……」
心地よい冷たさが身体中へ広がり、火照りをみるみるうちに潤していく。
「全く、一体どれだけ魔法使ったんだ。魔力は枯渇状態、オマケに催淫系の魔法まで自分に掛けて」
イーサンが呆れながら零した言葉に、俺は耳を疑った。
「へっ!?」
あの本、治癒魔法の本じゃなかったんかい! なんだよそのエロ魔法!!
赤い顔でアタフタしていると、ギシッとベッドの軋む音が耳に入る。反射で音のする方に顔をやると、俺が普段使っているベッドの縁にイーサンが笑顔を携え腰掛けていた。「そういえば」と周りを見回すと、見慣れた居住空間の中が広がっている。身体には丁寧に毛布が掛けられ、汚れた筈の下半身はそこにはなく、替えの服まできっちり着た状態。
……あの後、ここまで俺を運んでくれたのか。
「……あ、あの、……ありが、と……」
まだちゃんと顔は見る事が出来ない……でも、なんだか胸の奥がキュッと締め付けらながら蚊の鳴くような声で呟くと、伏したままになっていた俺の頭が、ふわっと優しく撫でられた。
「気にするな……それよりアオ。お前まだ身体が本調子じゃないだろ。今日は俺、ここに泊まるから」
「……え?」
思いもよらない申し出に、萎 れていたはずの俺は勢いよく顔を上げてしまい、再び頭に激痛が走る。
「ほらな。魔力不足を甘く見るなよ、下手すると命に関わるんだからな」
「い、いやでも急だし。それにこんな部屋に、公爵家の方を泊めるなんてそんなんできる訳……」
何より、俺の心 が持たん。ただでさえ、あんな醜態見せた後だぞ!? まともに顔を見る事さえ出来ない状態で1晩共に過ごせ、と。
しかも相手はあのイーサン・ガイ・クライヴ。
途端に活性化した俺の脳みそが絶叫を始める。
――無理だろ。
「病人 に決定権はない。じゃ、1回本部 に戻ってまた後で来るからな。大人しくしてろよ」
「あ、ちょっと」
制止も虚しく、彼は1度俺の頭をグリっと撫でると、そのまま部屋を出ていってしまった。
「何も気に、しないのかよ……」
扉に向かい、呆然とした口から出た言葉が、誰に聞かれるでもなく静かに宙へと舞った。
「……イーサンを、求めた……」
誰もいなくなった部屋で唇をそっと指で撫でてみる。この口は、確かに彼を欲しがった。
「いや、彼は……かっこよくて、時々見惚れるけど、その……友人、だよね……?」
指先に伝わる熱の意味を、この時まだ俺は理解し切れていなかった。
◇◇◇
ドアを閉じるなり、思わずそこにしゃがみ込む。
「はぁぁぁ……」
出るのは大きな溜め息。まさか自分が、同じ男のアレを扱く日が来ようとは。
確かに、女に異常な程拒否反応を示す自分は男色だ。
今までは適当にその辺で引っ掛けた男に性処理をさせていたが、自分からソイツらのモノに触るなんて死んでもお断りだった。手でされようが口でされようが、そいつが自分の尻拡げてナカにぶち込もうが、俺がイければそれでいい。なんなら触りたくもない。俺は何もしない、それ以外有り得なかった。
「……っ、仕方ないだろ」
あんな顔見せられたら。
ギルバートに残りの仕事を押し付けた俺の足は、自然とアオの元へと向かっていた。入口から入るやいなや、もの凄い音が奥の診療室から聞こえ、慌てて駆けつけたそこには……アオが荒い息で倒れていた。
『……たすけ、て……イーサン……』
あの時、真っ赤な顔で瞳を潤ませたままそう告げるアオの姿に、頭の中で何かがブチっと音を立てた。
自分からキスをするなんて初めてだった。自分から誰かの身体に触るなんて。
アオの甘い声と息遣いが、もうずっと耳から離れない。
あの顔と身体を思い出すと、どういう訳か鼓動が跳ね上がる。
初めて見た彼 の笑顔、次に見た乱れた顔。……今度は何がある? もっともっと、お前の色々な顔を見てみたい。
――……お前を知りたい。
「友情」か「恋」か。それはソイツを抱けるかどうかで分けられる。
つい先日、ギルバートの奴がそんな事を言っていたな。
「はっ……まさかこんなにも自分が単純だったとはな」
だがしかし、この気持ちを名前を決め付けるのはまだ早い。……色々なお前を見て判断するべきだ。
「そうして恋だと自覚しても、遅くはないだろ?」
絶えず悲鳴を上げ続ける心臓を、分厚い服の上からグシャッと掴んだ。
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