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番外編 その罪は③(イル視点)

テオさんと噴水広場で話してから数日後。 僕はまた路地裏でテオさんに引っ張られることになった。 「おい、聞きたいことがある」 「ええと…とりあえず、急に引っ張るとビックリするので止めてほしいです」 苦笑しながらそう伝えると、「大っぴらに話しかけたら目立つだろ」と返されてしまった。 「テオさんって、結構執念深いですよね」 「どういう意味だよ」 「そのままですよ。テオさん、毎日毎日懲りずに屋敷に侵入しようとするじゃないですか」 「…っ、毎日見てたのか」 「まさか!見てませんよ。障壁を張ったのは僕なので、入ろうとすると分かるだけです」 「障壁?」 怪訝な顔をされて、そういえば説明をほとんどしていなかったことを思い出した。 「そもそも"契約の印"という魔法は、元々相手を守るために産み出されたものなんですよ」 「聞いたことはあるけど…そんな風に使ってる奴、ほとんどいないだろ。大体が隷属させるために使ってる」 「本当は隷属させる使い方がイレギュラーなんですけど…まぁ、確かに、奴隷にするには便利ですよね」 「…」 「あ、そうだ、さっきの話の続きを言いますね。…つまりテオさんは毎日屋敷に来ては侵入できず、跳ね返されていたわけですよね」 「そうだ。どういう仕組みだ? 」 「"契約の印"を交わした相手を守るために、危ないところに近付けないようにする、ということもできるんです。それを応用して、あの屋敷全体に障壁を張ってみました!触って魔力を込めるだけですし、透明なので見えないし分かりづらいですけど、実は張ってありますからね!」 「…、お前の使い方もイレギュラーだよな」 「僕もそう思います」 でも、大切な人を守るときに、これほど便利なものはない。それに、たぶんテオさんがまた屋敷に侵入したら、今度こそ旦那様に消し炭にされてしまいそうだし。 「聞きたいことは他にありますか?あ、奥方様に近付こうとしても無駄ですよ。奥方様自身にもこっそり障壁を張らせてもらっていますし、そもそもお出掛けになるときは旦那様も一緒ですし」 「…。今日は別に…ニィノのことを聞きにきたわけじゃない」 「え」 奥方様のことじゃない? え、でも他に何かあるのかな? ないよね? 「お前…体は平気なのか」 「体?ええと、元気ですよ?」 「…」 「…?」 「お前は俺の怪我を治しただろ」 「ああ、はい。そうですね」 「…それで…この前の話だと、魔法使ったら倒れるとか、血反吐はくって…」 「…え、あ…、あはは!」 思わず口元を押さえて笑うと、テオさんは眉間に皺を寄せてしまった。 「!!な、何で笑うんだよ」 「もしかして、気にしてくれていたんですか?ありがとうございます。はは、テオさんはやっぱり優しい人ですね」 「…」 「ふふ…笑ってしまってすいません。でも、今はきちんと魔法を制御できるようになったので大丈夫ですよ。たくさん使うと疲れますけど、倒れたりすることはありません」 「…それなら、いい」 テオさんは後ろを向いて、奥の方に歩き出した。え、もしかして聞きたかったことってそれ? それだけのために僕を引っ張ったってこと? …と、そんなことを考えている内に、テオさんは見えなくなってしまった。 「変な人だなぁ」 思い込みが激しいし、執念深さも持ってるけど…基本的に優しくて、相手を思いやることのできる人なんだって分かってきた。 「もっと色々知りたい…」 危ない人のはずなのに、どうしてこんなに気になるんだろう。 …でも、その答えを出す勇気はなくて、一瞬だけ浮かんだ気持ちに、蓋をした。

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