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1、プロローグ① ※

「いいか、絶対に逆らうな。愛想を良くしろ。お前は感情に乏しくて、いつも決め手に欠けると言われているんだ」 「…」 俺はこくり、と頷き主人を見た。 ただ、愛想を良くしろと言われてもどうやればいいのか分からない。 「ああ、それと、今日はお前の『味見』もしたいそうだ。身なりを整えろ。風呂へ入ってこい」 「…」 ここは闇を抱える場所。人の売買が行われる陰の市場。俺に親は居たはず。でも、記憶にない。物心つく前に死んでしまって、それからは親戚をたらい回しにされ、挙げ句の果てにこんな場所に売られてしまった。 逃げようとしたこともある。でも、そうすると手酷い折檻を受ける。鞭で打たれたり、棒で殴られたり、火掻き棒を身体に押し付けられたこともある。 逆らうことも、逃げることも叶わず、客の機嫌を損ねると何日も食事を抜かれ、寒い場所に放置される。 そんな生活を続けていたら、いつしか俺は、自分で自分を管理するのを辞めていた。 言われたことを忠実にこなす自分は、自分じゃない。勝手に動かされている人形と同じ。 そうしないと、心を保つことができない。 精神的におかしくなったら、廃棄されてしまう。死ぬのは怖い。だから、今日も俺はお人形さんになるだけ。でも…感情を表に出すことだけは、上手くできなくて…よく客に「つまらない」と評され、買われることはない。 それは、幸せなんだろうか。不幸なんだろうか。 「ほら、もっと口を大きく開けろ」 「う…、ぁ、が…ぐ…」 俺の咥内を屹立したものが穿つ。不快で気持ち悪い。その行為も、匂いも、髪を強く引っ張られる感覚も嫌だ。 「こっちにも集中しろよ!」 「んぐ!ぁ、あぅ!…っ!」 後孔を貫いていた人物が尻を叩く。反射的に締めると、「この淫乱が」と心ない言葉でなじられた。痛みと熱で生理的な涙が溢れてくる。他の手は俺の昂りや乳首を痛いほどに擦ってきて、気持ちよさなんて欠片もない。それでも萎えないのは、行為の前に飲まされた薬のせいだろう。 なんて、汚い。 こんな薄汚れた人形を、誰が欲しがるというんだ。

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