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4月①
学生の下校の時間であるせいか、駅前は少し賑やかな時間だった。
背の高い金髪の男と、黒髪のラフな格好をした男が住宅街から逸れた方向へと歩いていく。
少し離れた場所で、グレーの髪の青年がその姿を見ていた。
眼鏡の下の瞳が、黒い服の方へと向く。
「……紡葵 ?」
距離があるせいか顔まではよくわからない。見えたのも一瞬の横顔と、後ろ姿だけだった。
見間違いかもしれないと思う心とは裏腹に、言葉が零れ落ちる。
隣にいる金髪の男となにやら楽しそうに話している雰囲気で、二人は駅前から遠ざかっていく。
青年は少しだけ考えてから視線を外し、そのまま人の流れに紛れていった。
*
*
*
いつもと同じようにガラス扉を押すと、年季の入った鈴が音を立てた。
店内に入った途端、さまざまな種類の花の香りが一気に鼻を通り抜けていく。
「瀬名?」
店内に人の姿はない。
でもガラス扉にはオープンの札がかかっていたし、明かりも点いている。
いないってことはないだろうと名前を呼ぶと、店の奥から瀬名が姿を見せた。
「永原くんか」
「客じゃなくてごめん。また来た」
「いらっしゃい」
慌てた様子もないが、花を求めてやってきた客じゃないとわかると少しだけ力の抜けたリアクションになる。
その手に珍しく軍手をしているのを見て、オレは首を傾ける。
「なにかしてたのか?」
「届いた花が多くてな。口切りしてたところだ」
「なんか手伝う?」
瀬名の店の奥には切り花じゃなくて観葉植物なんかのエリアがあって、搬入されたばかりの花なんかもそこに置かれている。
そこから出てきて、尚且つ軍手をしていたということは力作業なんじゃないかと思って声を掛けたら瀬名は「客に手伝わせるのはな」という顔を一瞬したがもう一度思案してから「なら運ぶのを手伝って欲しい」と言った。
そういや、初めてこの店に来た時も手伝ったの力仕事だったなぁと思いつつ口切りされた花の入った箱を瀬名のいる店内の作業台近くまで運ぶ。
「これで全部」
「ありがとう助かった」
「うん」
もうない、と報告しつつ借りた軍手を外して作業台へと置く。
瀬名は先に運んでいた分を台に広げて、作業を始めていた。
よくよく見ればそこにあるのはすべて同じ種類の花だ。色が違うだけ。
「多いな」
「注文」
ぽつりとオレが呟いた声に、瀬名はいつもと変わらず淡々と短く答える。
そして余分な葉を落としては長さを合わせて、終わった分を置いていく。
「こんだけあるのって、イベントかなんか?」
「教室。これはフラワーアレンジメント用のだが、華道の時もある」
「ふうん。そういうのもやってるんだな」
「うちは個人商店にしては多い方だな」
「へえ、そうなんだ」
気になってあれこれ質問をするオレにも、瀬名は作業中だというのに嫌な顔一つせず答えてくれた。
聞いたところでオレにはうまく想像できない世界の話なので、どうしても返事が適当っぽくなってしまう。
瀬名が今やっていることはさすがに手伝えないし、かと言って忙しそうにしているのに話しかけるのも躊躇われてオレは店内の花へと目を向ける。
来るたびに少しずつ花の種類が入れ替わっているのはわかるようになったが、どれがなくなってなにが増えているのかはわからない。
名前に関しては、覚えるのを諦めたといっても過言じゃない。
ただいつか、探している青い花の名前がわかれば。それは忘れないようにしたいけど。
そんなことを考えつつぼんやりと花を眺めていると、扉の鈴がもう一度鳴った。
「こんにちは」
「ああ、いらっしゃい」
入って来たのは落ち着いた声の若い女性だ。わかりやすく身なりを表現すると、ピシッとしたビジネススーツに身を包んだ仕事が出来る人って感じ。
瀬名はその人が入ってくると顔を上げて瞳を細めたが、声を聞くとすぐに和らげた。
明らかに「誰だ」って顔をしていたな。女性は慣れたことなのか笑っていたけれど。
そういえば初めて逢った時、顔を覚えるのが得意じゃないって言ってた。商売柄苦労しそうだと思ったけど、苦労してそうだ。
「今日もお願いできますか」
「なにかご希望の種類は」
「季節の花を多めに。忙しい日が続いてて疲れちゃった」
「なら少し明るい色を多めに入れます」
「お願いします」
客は店内を軽く見回してから、レジカウンターの前で足を止める。
二人はいかにも店主と常連の会話をして、瀬名は作業台を離れ店内に並んでいるものから数本の花を選び、片手にまとめる。
迷いもしないし、客もそれを止める様子もない。
花を持って作業台に戻ると、手際よく先程と同じように茎の長さを揃え、余分な葉を落としていく。
さっきまでと違うのは、形を整えられて束ねていく行程だろうか。
あっという間に瀬名の手で、バラバラの種類だった花が一本のブーケになった。
「これで」
「ありがとう。わたしの好きな元気が出る色ばっかり。やっぱり瀬名さんのチョイスに間違いはないわね」
「そうですか」
「謙遜も過信もしないところ信頼できるわ」
出来た花束を見せると、客は嬉しそうに笑顔を咲かせた。
さっきまで落ち着いた人という印象だったが、一瞬で明るい人という印象に書き換えられる。
それから会計を済ませると客は瀬名と、奥にいたオレにも軽く会釈をして満足そうに小さなブーケを抱えて店を出て行った。
扉の鈴の音が鳴り、それがなくなると店内は再び静かになる。
「この花って、この後どうすんの?」
「届ける」
「瀬名が?」
「そうだな」
「大変そう」
「普通だ」
作業台に戻ってきた瀬名が、作業途中の花へと手を伸ばし続きへと戻る。
その姿を眺めつつ、今後はどうするのかと問えばいつも通りの業務内容だと言いたげに落ち着いた声で返された。
特にすることもないが帰る理由もないなと思っていると瀬名が傍の椅子を指差し「座ったら」と言うのでオレはその言葉に甘えることにした。
*****
夜勤を終え、電車で最寄り駅まで向かい欠伸をしつつ改札を抜ける。
休憩時間に横になったらほんの三十分なのにぐっすりと寝入ってしまい、疲れているし眠気はあるのにどうにも目が冴えてしまっている。
朝食を買いがてら散歩してから帰るかとオレは駅近くにある小さな商店街へと向かった。
「えっ、あっ……やっぱ紡葵?」
パン屋へと向かう道中で、名前を呼ばれ慌てて振り返るとグレーの髪の青年がこちらを見ていた。
目元の印象や、纏う雰囲気は昔と変わらない。
「莉音 」
オレのことを下の名前で呼ぶのはかなり限られているので推測するのは難しくないが、そこにいたのは紛れもなく中学時代の同級生の桐ヶ谷莉音 だった。
「久しぶり」
「うわ、本当に紡葵だ」
莉音は自分のことをあの頃と同じように呼んだことでオレだという確信を得たのか、嬉しそうに目を開くとグレーの柔らかそうな髪を揺らしながら小走りで駆け寄ってきて抱き付いてくる。
小柄で華奢だったイメージが強かったが、今も変わっていない。
両腕を莉音の背に回した感じが、昔と同じだ。
莉音はすぐにパッと顔を上げるとちらりと一瞬視線をオレの耳へと向け、いくつも空いたピアス穴を見て、からかうように鼻を鳴らす。
「紡葵、ピアス無限に増えてね?」
その、斜に構える仕草と態度も一ミリも変わっていないようだ。
莉音がどうしてここにいるのだと問うので、仕事の都合で数ヶ月前に引っ越してきて今は夜勤明けだと答えたら口元を緩めながら「ふうん」と呟いた。
そして時間があるなら自分の家で話したいと言うので、再会ですっかり眠気が吹っ飛んだオレに躊躇いなどなく答えは一つだった。
本来の目的であったパン屋で朝食だけ買って、莉音について行く。
そして辿り着いたのは、商店街から少しだけ外れた場所に建つ古書店だった。
「本屋?」
「そ、二階が住居なんだよ」
建物自体には年季が入っているように見えるが、ボロボロだという印象は受けない。
中へどうぞという莉音の背を追って店の中に入ると、多種多様の本がぎっしりと並んでいて棚に収まりきらない分があちこちに積み上げられていた。
店内はなんというか、古本屋特有の少し埃っぽい感じがする。
「上な」
住居へは店を通り、奥に隠れた階段から上がるようだった。
下の本屋と違って、二階は普通に生活空間が広がっている。一人で住むには十二分……というか、少し広い。でも広すぎるという印象がゼロなのは、壁に張り巡らされた本棚のせいだろう。
「床が抜けそうな部屋」
「おれの城へようこそ。紡葵だから歓迎するぜ」
「ふはっ、お邪魔します」
想像通りではある、だが思わず零れ落ちた言葉を聞いて莉音はにやりと口元を歪めて笑ってオレを部屋の中に招き入れた。
靴を脱いで上がると、ローテーブルを使っていいからと言われオレは窓際近くにあるそのテーブルを前にして腰を下ろす。
「ペットボトルのお茶とかしかねんだけど。あるのはあとココアとカフェオレ」
「ならお茶で。ボトルのままでいいよ」
「助かる」
キッチンからお茶のペットボトルを二つ持って来た莉音が、小さなテーブルの角を挟む形で座った。
「仕事終わってこの辺うろついてたってことは、近くに住んでんの?」
「歩いて十分十五分じゃねえかな。あ、パン食う」
「さっき少し前からって言ってたけど」
「ああ、年末」
「うわまた面倒くさい時期に」
「まあな。でも引っ越しシーズンよりは全然楽」
話しつつ、買ってきたパンをかじるオレの横で莉音が自分の分と、オレの分とボトルのキャップを開ける。
莉音とは中学の三年間、同じ学校でクラスが一緒だったこともあったが高校への進学のタイミングでオレが引っ越してから逢っていない。
連絡しなかったというより出来なかったに近かったが、こうして数年振り……いや、ほぼほぼ十年振りだというのに空白の期間なんてなかったかのように話せるのは莉音だからだろうと思う。
「紡葵は仕事なにしてんの?」
「博物館の警備」
「ああー、もしかしてあのでかめのとこ」
「そう」
「近くていいな」
仕事はと聞かれて、隠すこともないから答えるが莉音との会話は本当に居心地がいい。
詳しく説明を求めないところもそうだし、返ってくる言葉に熱はないのに冷たくもないところも。
いつもオレの言葉を、少しだけ救い上げるように話す。
だからオレは中学時代ずっと莉音といた。
「下の店、もしかして莉音の?」
「そう。まあ元々は叔父のなんだけど今はおれがやってる。一人で悠々自適、本に囲まれて天職だわ」
「本の虫だもんな」
「ふっ、悪化してるって言われそう」
「まあこの状況見ればな」
莉音は、出逢った時から本の虫だった。常に鞄の中には三冊以上の本が入っていて、気付くと本を読んでいるようなやつで。
だから今、古書店をやっているというのが天職というのに納得しかない。
それに部屋のあちこちに点在している本を見れば、本と共に生活をしているのは目に見えて明らかだった。
あっちで読んでは置き、こっちで読んでは置いているんだろう。
「そういえば逢った時に『やっぱ』って言ってたよな」
「ああ、少し前に見たんだよ。半月くらい前か? 金髪の背の高い男といて、その時は一瞬だったし見間違いかと思ったけど」
「あーあの時か」
「知り合い?」
今日より以前にどこかで見たみたいな口振りだったから気になったんだと、逢った時のことを聞けばドンピシャリで思い当たる節がある。
と、いうかそれしかない。瀬名と仲卸と花見に行った日だ。
莉音が心配だって眼差しで見てくるので、深く頷いて返す。
「もう少し行ったところに坂があるだろ。その坂の上の方にある花屋の人」
「ああー、あの花屋の。どうりで」
「知り合いだった?」
「いや、人から話を聞いたことがあるくらいで。顔も逢ったっつーか、見たってくらい」
遠いわけじゃないから店の存在は知っているんじゃないかと思ったが、矢張り莉音も知っていた。ただ、まあ本当に花屋があるってくらいの温度だが。
「でもあの花屋、できたの結構前と思うんだけど一時期閉まってた気がするんだよな」
「そうなんだ」
「まあでも今は普通にやってんだな」
「多分」
「多分」
あんまり覚えてないけど、と言いたげに呟いては今の話の情報を合わせてやっているんだと聞いてきたが「普通に」がどのレベルなのかわからなくて、適当に返せば莉音は少しだけ呆れつつも「まあそうか」と肩を竦めた。
「どんなきっかけがあって? 紡葵が一緒に出かけるレベルなんだから仲いいんだろ」
「いやちょっと……仲いいっていうか」
「なに? あ、いや。言いたくねえなら言わなくていいけど」
「あーその、」
中学時代のオレを知っている莉音からすれば、それが特殊であることは知っているだろうから。
仲いいだろと、言われたがなんというかそれに「はいそうです」とは答えにくい。
どう説明したものかと濁したら、踏み込み過ぎたかと首を振るので違うと返してから記憶にある青い花を一緒に探してもらっていることを話す。
「へえ、またそりゃ特殊な。確かに仲いいってのは違う気がすんな」
「悪くはねえけどいいかって聞かれると。オレだけの話じゃねえしかといってオレは客でもねえから常連でもねえし」
「まあなぁ」
瀬名との関係を説明しろって言われると、かなり難易度が高い。どう答えても違う気がしてしまうと頭を抱えたら莉音は肩を揺らして笑いつつ、傍に置いてある本を手に取った。
当然みたいに本を読み出すけど莉音にとってこれは癖みたいなものだ。
人が話している時の癖で手を触ったり、髪を触ったり、鼻や耳をするのと同じ。
読み始めても聞いてることは知っている。
「どんな花? そんな珍しい花ってこと?」
莉音は本を持ったまま、少しだけ首を傾げた。
興味はあるけど、期待してるって感じでもない声だ。
「いや、青い」
「青な。形は」
「チューリップとかバラみてえに一本に一輪ついてるやつ」
次々と投げかけられる質問に答えながら、曖昧さだけが浮き彫りになってオレは自分の情けなさに両手で顔を覆う。
手の中でもごもご言い出したからか、莉音の視線が本からオレに向いた。
「なんでんなもん覚えてんの? 聞いたことねえけど」
子どもの頃の話なんだろと言いたげな口振りに、「瀬名の店に行ったらたまたま思い出した」と返せば納得したのか莉音の返事は「ああ」とひどく短い。
「他に覚えてることは、誰かにもらったってことくらいなんだよな」
「情報スッカスカ」
「だからその道のプロに探してもらってんだろ」
はっ、と鼻を鳴らしながら笑われるも事実なのでそれに対しては言い訳もしようがない。
でも自分だけの力じゃ探しようがないからこそ手伝ってもらってるんだと言えば莉音は真っ直ぐにオレを見ては肩を竦め小さく息を吐いた。
「よく付き合うよその花屋」
「お前なあ……」
「ま、気になってんなら紡葵の好きにしたら」
「んっとに」
労力に見合わないことをする意味がわからないとバッサリと切り捨てつつも、こいつ。オレがそうしたいってのは否定しないからそういうところだよ。と思ってしまう。
昔からそうだ。
理解できないことを、理解できないと。自分は同じようにはしないと当然のように振る舞いながら。
同じだけ当たり前のようにオレのことを否定しないでいてくれる。オレは莉音がそれだけオレのことを特別に想ってくれているのだと知っている。
変わらない言葉を返してくれたということは、過去のものではなくなったのだろう。それはオレも同じだ。
「で、手伝ってもらったら見つかりそうなのか?」
「わかんねえ。見たらわかると思ってるんだけどな」
「まああのスッカスカの情報量じゃな。おれも図鑑とか入ったら気にして探しておいてやるよ」
「もう少し言い方ってもんがあるだろ」
くり返される飴と鞭な会話に低い声で吐き捨てたが莉音は笑うだけだ。
そうやってハッキリ言うところが好きで一緒にいたのを知られているから無理なんだよな。文句も言いたいだけになる。
呆れるとすれば、そんな莉音を許してしまうオレ自身だろう。
「ま。十年振りにこうやって再会できたんだし、またおれとも遊んでよ」
パタン、と音を立てて今まで読んでいた本を閉じると莉音はそう出来たら嬉しいんだと無邪気な笑みを浮かべるので。
断る理由なんてひとつも浮かばないオレは「それはオレも同じだ」と返すしかできなかった。
*****
莉音に逢ってから数日後。
オレはまた花屋へと足を運ぶ。店内が前回よりスッキリして見えるのはあの大量に積まれた花がないせいだろう。
瀬名がいる作業台まで近付くと、そこには途中まで整えられた花が数本置かれていた。
「今週はあまり新しい種類は買い入れてないな」
「そっか」
「ああ」
店に入った時、こっちを見たけどすぐに声をかけてこなかったのはオレだとわかったからだろう。
傍に行ってから目的のものはないかもと教えてくれる。
それに頷いて、一応座っていいか確認して許可を得てからオレは傍の椅子に腰を下ろした。
「少し前にさ、友達に逢った」
「へえ」
「中学の同級生だったんだけど。それ以来だから十年振りくらいで」
「逢ってすぐわかるもんなんだな」
「なあ。オレもそういうのってわかるもんなのかなって思ってたけど。わかるもんなんだな。まあそいつだからわかったってのもあるかも」
「なるほど」
全然花に関係のない話だってのに、瀬名はいつも通りに聞いてくれた。
花を包むあの透明なフィルムで一本一本丁寧に包む作業をしながらだけど、時折オレの方を向いてくれるし相槌もちゃんと打ってくれる。
「なのに逢ってすぐ抱き付いてきてくれて」
嬉しくなって話を続けたら、瀬名はその手を止めた。
聞き間違いでないかと確認するようにオレを見て、一瞬だけ考えるように黙ってから首を傾ける。
「抱き付く?」
「うん。昔からそういう距離感の友達で」
「ああ」
言葉としては理解しているが意味として合ってるかみたいな言い方だ。
それに一応頷きつつ、そいつだから平気なんだと返すと瀬名も納得したのか深くゆっくりと首を縦に振って再び手を動かす。
「ピアスが増えすぎって笑われて」
「確かに多いな。その頃から開けてたのか?」
「まさか。開けすぎってことだと思う」
「そういうことか」
ハグしてそのまま笑われたことを思い出し、自分の耳を触りながらぽつりと零せば瀬名は耳を注視しつつ昔からかと聞いてくる。
流石に違うと首を振ったら、少しおかしそうに肩を揺らしてた。
あの後、莉音とこの花屋の話もして気になったこともあったけど今は聞くのは止めておく。
「また遊ぼうって言われた」
「そうか」
「オレ、近くの知り合い瀬名しかいなかったから。嬉しい」
言ってから、少し言いすぎた気がした。でも、オレと瀬名の関係を説明する言葉って難しい。
どんな反応するだろうかと視線を向けたが、瀬名は手元の花をまとめ、作業台を片付けている。
「近くに昔馴染みがいるのは、心強いからな」
「瀬名にもそういうことある?」
「さあ、どうだろう」
「意味深」
ふ、と吐息を零すような小さな笑みを零す瀬名に。
意味深、と言いながら、深く聞く気にはならなかった。
探している青い花もないのだからこれ以上ここにいる理由もないんだから帰ろうと思えば帰れるのに。
まだその気になれなくて。
オレは特にすることもないまま、しばらく店の中にいた。
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