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『エピソード 1』ー1
** エピソード 1 **
『ねぇ、いっくん。文化祭行ってもいい?』
『いいんじゃねぇの』
『ほんと?』
『俺には会いに来るなよ』
**
天野 七星 は、半年前卒業したT高校の門の前に立ち尽くしていた。
(たった半年なのに。何だかまったく知らない場所みたい)
今日は文化祭で、門から見える光景だけでもだいぶ賑やかだ。誰でもウェルカムな今日でなければ、もう二度とこの門をくぐることはできないような気がした。
「七星〜何やってんの? 早くおいでよ」
「ななちゃん、早く〜〜」
友人二人。日下部 大地 と金森 明 はもう既に門の中に入り、二メートルは先を行っていた。この二人は同じ大学に通う恋人同士だ。
自分と同じ男に恋をする七星にとってこの二人は羨ましい存在だ。
(僕なんて、いっくんに拒否られちゃったもんね〜)
いっくん――城河 樹 は七星の幼馴染みで同級生だが、諸事情により高校三年生をもう一度やり直している。そして、この樹こそ七星の恋する相手だった。
七星はよしっと小さく気合いを入れて一歩を踏みだした。
彼らはまず受付で食券を買い、中庭に集中している模擬店を巡る。人気メニューなどは午前中のうちにゲットしなければ、大行列の末売り切れなんてこともある。それは在学中に学んだこと。
早めに昼食を済ませ、次は校舎内を巡る。
「ねぇねぇ。樹のクラスに行ってみる〜?」
と悪戯っぽい顔で明が提案する。
「だなー」
樹に対してまだ距離を置いているようなところもある大地だが、揶揄ってやろうとでも思っているのか、珍しく同意する。
「何組だっけ?」
いっせいに七星を見た。
(何で僕が知ってると思うの?)
やや気恥ずかしい気持ちが湧いてくる。
「……三組……だけど」
「三組かー」
二人でパンフレットを覗き込む。
「『呪われた館』だって、ださっ。これ絶対お化け屋敷だよねぇ?」
あははと小馬鹿にしたように笑う。
「行ってみようぜ」
二人は嬉々として、春まで自分たちのいた三年の教室がある二階に向かおうとする。
「ねぇ!」
いつも控えめに話す七星だが、校内が騒がしい為珍しく声を張り上げた。
「なに? どうしたのー? ななちゃん」
「いっくんのとこに行くのは、ちょっと……」
七星は先日のラインのやり取りをずっと気にしていた。
『俺に会いにくるなよ』
もともとスタンプも絵文字も樹は使わない。それはわかっている。それなのにこの言葉にはいつも以上の素っ気なさを感じてしまった。
(ほんとに、僕に会いたくないのかも……)
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