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第1話 プロローグ

 うちの学園はαとΩが多く在籍するのが特徴の、幼稚園から大学までエスカレーター式の私立校だ。もちろんβも多くいるが、名家の子息令嬢ばかり。  そんな学園を束ねるのは小学校ではαのリーダーシップに溢れる生徒ばかりを招集する『お茶会』、中学・高校は生徒会。  俺はαに生まれていながらお茶会にも生徒会にも縁がなく、αのカーストの中じゃ中くらいの部類。  αの人口は少ないが、それでも数多くいるαの中じゃ普通のα。平々凡々、βやΩに恐れられるようなオーラも身に纏ってはいない。どこにでもいるαの一人。  だったのだが、中学後半、俺のα性が大きく開花した。  今まで中くらいだった成績は少し勉強すればトップ層に食い込めるようになり、運動もスポーツ推薦入学や運動部のエースには敵わないまでも、体育で良い成績を残せるくらいに俺のステータスは一気に伸びた。身長もいきなり高くなって、成長痛に悩まされた。  うちの学園では上から家柄・成績順にSクラス、Aクラス、Bクラス……と続くクラスだが、中学の頃はBクラスだった俺は高校に入ると同時に能力の高さでSクラスになった。  そして1学期、生徒会役員の入れ替わりがあると知った時、大きく成長を遂げた俺は自推で生徒会役員に立候補したのだった。  これからα連中は皆α性が開花して、α同士の競争は激しくなる。  中学後半で成長期が来た俺は、今は頭一つ分抜きん出ていても、これからどんどん他の奴に抜かされていくだろうことを予期していた。  だから今しかないと思ったのだ。  というのも、俺には憧れの先輩がいた。  俺が中学1年の頃、騒ぎが起こった。  それはαの男しか入れないはずの生徒会に、βが所属していたというものだった。  それも生徒会長が、βだったのだという。  学園内は荒れに荒れた。  αを優遇するようなシステム上、その恩恵に乗っかっているのがβなのが許せないという人間は一定数いたし、生徒たち、果ては外の世界でも民衆の上に立つ者はαであるべきだとか、そもそもαしか所属できない決まりの生徒会にβが紛れ込んでいるということは規則違反だと、かなりの騒ぎになったのだ。  生徒会長は、3年だった。 「ほらあの人だよ。例の生徒会長」 「うわあ。周りの人間騙して会長なんてやって、恥ずかしくないのかな」  友達と一緒に通りがかった体育館で、生徒会長――志波(しば) 朱雀(すざく)先輩は、αであろう友人たちとバスケをしていた。  その身を取り巻く陰口や非難の視線たちをものともせず、クルクルと動き回る先輩。キュッキュッとシューズの音が鳴る中、スッと跳んでシュートを決め……αであろう友人たちと笑顔で肩を叩き合う。  圧倒的な光。  そう感じた。  俺達の世界の暗い部分を一切そぎ落としたような、学園内の騒ぎなど一切気にしていないかのような態度。  俺の目は吸い付くように先輩だけを映した。  その場で笑い合っているαの、先輩の友人たちに対して、その場所に居るのが彼らの代わりに、俺だったら。などと嫉妬を覚えて――俺は一瞬で恋に落ちて、そして失恋した。  生徒会長である先輩と一介の普遍的なαだった俺の間には何の関わりも無かったし、学年だって違う。  先輩への想いは胸に秘めたまま、時間だけが過ぎていき。  俺が中3、先輩が高2の頃、人づてに聞いたのだ。  先輩は高校でも生徒会に所属していると。  勿論、俺はその情報を疑った。  なぜなら一度βであったことがバレて騒ぎを起こした人間が、万が一にでも生徒会に入れるわけがないと思ったからだ。  しかし、この学園は一貫校であることもあって、兄や姉といった兄弟を上の学年に持つ人間も少なくはない。  うちの学園の高校に兄がいるというそいつの情報は、確かなものであるらしかった。  だから、今。今しかないこのチャンスに、俺は生徒会に立候補し、見事に広報の座をもぎ取ったのだった。

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