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第1話 プロローグ
αの世界で生き抜くには、多少汚いことに手を染めることも時には必要だ。
この世界における上位種の遺伝子を持つ俺達は、日々過酷な競争社会で生きている。
その中で埋もれないように、置いて行かれないように、常に周りを見ることを怠らない。でも引きずりおろせる奴がいれば絶対にそれは見逃さないでそいつが地に落ちるまで徹底的に叩きのめす。
俺は自室のPCを操作すると『教師』のフォルダにデータを保存した。
『生徒』のフォルダには、今年の1年の……俺と同い年の生徒の情報がぎっしりと詰まっていて、親の会社が脱税をしている奴だとか、親が政治家と手を組んで汚職に手を染めている奴だとか、親は関係なくとも未成年にしてタバコや飲酒をしてしまった奴の監視カメラの証拠データだとか、そういうものを詰め込んでいた。
この学園は幼稚舎から大学までのエスカレーター式の一貫校だ。外部入学組を除けば毎年メンツは変わらないが、年を重ねるごとに不正は増えていた。
ネットの海を自由に泳ぎ回り証拠を手に入れて他人を貶める……俺は所詮ハッカーと呼ばれる人間だ。
『教師』のフォルダに新しく保存した動画をクリックする。
動画を再生すると、そこには多数の男たちと髪の長い少女……のように見えるがイチモツが付いている、ワンピースを捲られ下着を降ろされた子供が映し出される。
少女……いや少年は、まさしく少女のような端正で美しい顔をしていた。人形のように目元を縁取る睫毛。どこにもゴツさを感じられない整った骨格。スッと通った高い鼻筋。まるで高級娼婦のような顔をしている。
『痛い……痛い、怖い、ごめんなさい、やめてっ』
少年が動画の中で叫ぶ。
泣き叫ぶその声は透き通っていて、やはり少女だと言われても信じてしまうほどのものだ。
勿論動画の中の男たちは少年にいたずらする手を辞めてはやらない。
挿れるものを幾度も挿れられ、体をまさぐられ、犯される様子をカメラは画質の悪い中で、それでも確実に記録する。
検索エンジンに引っかからないうえに招待制の会員登録とパスワードが必要な動画とはいえ、ネットの海に流されている時点で、この動画を完全に消去することはもう不可能だろう。
「えげつねー」
まあ俺はハッキングで動画を手に入れたので招待制だのパスワードだのそんなことは関係ないのだが。
『教師』のフォルダに保存されたその動画は、生物の教師、東雲 桔梗 のものだった。
実際に普段眺めている顔なので本人で間違いない。
その美しさは、健在。
高級娼婦のような子供が育ち28歳となる今では鬼のような美しさを放っている。
これは動画を手に入れた俺だけが知る事実だ。
嬢のような姿だけでなく、名前まで源氏名のような男だ。
普段涼しい顔をして俺たち子供に授業を施しているこの男に、こんな過去があったとは。
もし東雲がΩだったら、俺はこの動画をネタに東雲を脅して性的関係を迫ったりしていたんじゃないかと思う。
そのくらいこの動画はショッキングで、人を脅すには十分な材料で、社会的な立場を剥奪することも可能な最悪のネタだった。
もしΩだったら、というのは、東雲はΩではないということだ。
東雲は、αだった。
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