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2.生徒会に入るきっかけ②
その後、土星は案外約束は守るタイプだったようで
申請書を事前にきちんと提出していた。
そして使用している曜日はバラバラだが、
部活動以外では週1ペースなのも分かった。
そもそも家庭部は頻繁に活動しないようだったので
活動自体、土星が物足りなさも感じていたのかもしれない。
私は週1回、風紀委員の見回りを問題なく終えた後、
自分の教室に一度寄り、自身の通学カバンを持つと、
寮の帰り際に家庭科室へ行くのが習慣になっていた。
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「こんにちは、今日もいい匂いがしますね」
「木星、見回りお疲れ様。
もう出来てるよ、食べる?」
「はい、いただきます!」
2回目会ったときは、お互いぎこちない感じだったものの、
会う回数を重ねていくうちに、
段々と土星も話してくれるようになった。
「今日は、シフォンケーキですか…!
いつも美味しそうですが、今回も美味しそうです」
「ありがとう。
今日は2種類あるけど、どっちも食べる?」
「いいですね…!どちらも食べたいです。
あ、そうそう。今日はこれ、良かったら一緒に飲みませんか?」
私が土星に見せたのは、
有名なブランドの紅茶の茶葉缶だった。
「いいね、俺もこのブランドの、たまに飲むよ。
いつも気を遣ってくれてありがとう」
「いえいえ!ケーキいただいた後に何か飲めるものが欲しいな、
と思って半分は自分のためでもあるので…」
実は、以前土星にコーヒー派か紅茶派か
聞いたのはこの為だった。
実家にいた時、母親は私に食後に何かしら飲み物を淹れてくれていて、
自然と食後に飲み物を飲むのが習慣になっていた。
また特に私は、紅茶が好きで普段から
茶葉缶を購入して飲んでいたほどだった。
そのため土星が、お菓子作りを家庭科室でするとわかると、
事前に購入していた茶葉缶を持ってきていたのだった。
そして私が毎回持ってくるものだから、
土星も2回目以降覚えていてくれて、ティーセットと
保温できるケトルにお湯を沸かしてくれて待ってくれるようになった。
お菓子作りした後に、ティーセットとお湯まで
用意してくれる手間を考えたら
正直それこそ気を遣わせているのは、私自身だと思う。
しかしそんな勝手なことをしても何も言わず、
むしろ感謝の言葉を言ってくれる土星に、私は甘えている。
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「そういえば、材料はいつ持ってきているのですか?」
食べ終わり、私が持ってきた紅茶を淹れてくれた土星に尋ねる。
(前から私が淹れると言っているのだが、
洗い物するときのついでだから、と毎回土星が淹れてくれる)
「新鮮なものは、授業始まる前に置かせてもらって、
常温でも大丈夫なものは基本的に放課後かな?
よく使うものは置きっぱなしだったりするけど、
あんまり使い回しにもしたくないから、自分で持ってきてることが多いかも。」
紅茶が入ったティーカップを私の目の前に
丁寧に置きつつ、質問に答えてくれる。
「そうなのですね。やっぱり材料にもこだわりあるんですか?」
「そうだね…俺は、結構こだわってるほうかも。
実際そんなに使用しなかったものは、無駄にならないよう実家に送っているし、
実家の近くに色んな材料仕入れできる知り合いがいるから
使いたい材料あれば取り寄せてもらってる。」
私は話を聞きながら、ふと何となく疑問に思ったことがあり、
目の前に座って、自身が淹れた紅茶を飲んだ土星に聞いてみる。
「へえ~、それはいいですね。部活動のときもですか?」
「いや、部活動の時は部が用意したものしか使わないし、
自分で持ってくることもあんまりないよ」
「え?そうなのですか?」
驚く木星に、一息した土星は続ける。
「うん、部費で使える範囲内で材料も決めていると思うしね」
「そうなのですか…そしたらあまり、自由に作れないですよね?」
「まあ、本来は数少ない材料でも、
美味しいものを作るのがいいんだと思うけどね」
確かに制限がある中で調理することも悪くはないが
授業とかではなく、あくまでも部活動でやっているのであれば
もう少し自由でもいいのではないか、私は思った。
「それに、自分だけこだわって材料持ってきたとしても
皆がそれを必要だと感じなくて使わないかもだし、
他の人が『自分も材料持ってこないと』って
重荷になっちゃうのは何か違うと思うんだよね」
淡々と話す土星に、言っていることは確かに間違いはないと思いつつも、
いろんな材料で料理できた方が楽しいのではないか?
とも思ったので、私はそれを率直な意見として伝えてみた。
すると土星は「それもそうだね」と賛同してくれたものの、
「でも現状どうすることもできないしな…」とボソッと呟いた。
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その夜―――。
寮の部屋で上段のベットでルームメイトがスヤスヤと寝ている中、
下段のベットで木星は考えていた。
おそらく部活動の頻度が少ないのも、部費の予算的なものだろう。
この学園は比較的裕福な家庭で育っている子もいるが、
部費以外で材料調達を強制することは、多分違う。
そもそも予算がそんなにないのか?とも考える。
運動部にお金をかけるのは大会や遠征などもあるからだとしても
文化部の部費を減らす理由にはならない。
文化部だって、将来的に活躍する人間が出てくる可能性だって考えれば
お金をかけるところはもっとかけてもいいはずだ。
「部費の予算…を、最終的に決めるのは…」
―――生徒会。
私は、この出来事をきっかけに生徒会入りを決意し、
この日を境に立候補に向けて、準備を進めることにしたのだった。
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「俺でいいの?」
生徒会の立候補にあたり、候補者は演説を行う前に、
立会人が候補者の人柄などを紹介をするのだが、
木星はそれを土星にしてほしいとお願いをした。
「土星にお願いしたいです」
「別に人前で話すの嫌いではないから、まあいいけど…」
土星は期待に応えられるかどうか、といった感じだったが
強めにお願いしたところ、本気度が伝わったようで引き受けてくれることになった。
「ありがとうございます。助かります」
「いや、むしろ俺で良かったのかなと」
「土星だからお願いしています。
あとそれと、もう一個。
提案があるのですが、聞いてくれますか?」
もう一方は聞き入れてくれなさそうだと思ったが、
土星に尋ねてみる。
「うん?提案?」
「これは、提案といいますか、勧誘に近いです」
「ん?」
不思議そうに見つめる土星に、はっきりと告げる。
「土星にも生徒会に入ってほしいです」
普段あまり表情を変えない土星が、
珍しく目を丸くして驚いた表情をした。
「え…?俺も?」
そう聞き返す土星は明らかに動揺していたが、
私は躊躇いもなく答える。
「はい。返事は今すぐじゃなくてもいいです。
ただ、断る理由も特にないのであれば入ってほしいです」
「え、なんで?」
土星は、勧誘する理由が知りたいようだったので、
あの日の夜、部費のことで考えていたことをすべて土星に話した。
色々話を聞いて、土星は深く溜息をついた。
「なるほどね…」
「私は他の部などもそう思っている人がいるのではないか、
と個人的に思っていますし、貴方のような素敵な技術や才能があるのに
部費の予算内を理由に自由に活動できていない環境があるとするならば、
それは残念なことだと思います」
余計なお世話かもしれない、そう考えたこともあった。
しかし、これは自分がやり遂げたいと思う、
きっかけになるのには十分な理由だった。
「それで、俺に入ってほしいの?」
「はい。仮に私が生徒会に入れたとしても
私の考えに賛同しないものが多ければ、入る意味がないです」
そして、まだ知り合って日も浅いが、
自分の意見に賛同してくれるとするならば
当事者の土星が適任だと考えたのだ。
「とりあえず、考えて返事ください」
立会人は受け入れてくれたものの、
自分が入るとなると面倒くさそうにしている土星を見て、
やはり、そう簡単には承諾してくれないだろうなと思った。
なので、考えてもらう猶予を設けた。
それだけ私は、土星に生徒会に入ってもらいたかったのだ。
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それから家庭科室を利用しない日は、ほぼ毎日のように、
木星は土星のクラスに行くようになった。
メインは自分の演説の内容の確認と、
土星が書いた私自身の紹介してもらうための紙を見せてもらうなど、
演説に向けての準備と調整だったが、
話の終わり際には生徒会に入るメリットを土星に話した。
土星は週1しか会っていなかったのに、
ほぼ毎日会うようになるとは思いもしていなかっただろう。
しかし、嫌な顔をせず真摯に向き合ってくれた。
(勧誘に関しては正直、面倒くさそうにしていたが…)
約束したことは守ってくれるところも相変わらずだった。
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他薦、自薦問わず立候補者募集の締め切り日まで
残り僅かになったので最後の勧誘をしようと思っていた時だった。
土星が、ボソッと呟くように口を開く。
「正直さ、木星のいうメリットは分かったんだけど
メリットより面倒くさいが勝ちそうなんだよね…」
案の定面倒くさいと言われると思っていたので、切り出す。
「…そう言うと思ってました。
なので、今日が最後です」
「え?」
「もう締め切り日も近いので、明日までに返事してください」
「うん…分かった」
同意を得たので、続けて話をする。
「ちなみに最後のメリットとして、生徒会入ってくれたなら
面倒くさいことは全部私がします」
「それ、木星にメリットないじゃん…」
「あります。やり遂げられたらご褒美にお菓子作ってください」
「そんなんでいいの?」
「それがいいです。
別に私だけに作れとは言わないので、余りものでいいので」
「うーん…」
それでも、微妙そうな顔をしている土星に
木星は最終手段の切り札を出すことにした。
「あと、もう一個最後に、話さないといけないことがあります」
「話さないと、いけないこと…?」
これは、勧誘ではないのであまり出したくなかったが、
私は土星に話すことにした。
「実は、土星は風紀委員会として指導対象に入ってました」
「指導、対象…」
後から知ったことなのだが、土星は帰国子女で
中学まで私服での生活だった為
制服に慣れておらず、1年生にしては変に着崩していた。
この学園は、そこまで制服の着方に厳しい方ではないが
緩すぎたり派手だったりすると指導の対象になることもあるのだ。
「はい。家庭科室の使用どうこうの前に、
制服着方やピアスなどのアクセサリーなどが
華美などの理由で、一部の風紀委員に目をつけられています」
「ああ…なるほど」
「よく登校時に校門前で、注意を受けてませんか?」
「そうだね…」
本人にも思い当たる節があったようだ。
「ですよね。でもだからといって
今まで、その為に家庭科室に通っていたわけじゃないです。
そこは誤解しないでください。
私は純粋にあなたが作るお菓子が好きだからです」
「なんか、複雑だけど…ありがとう」
木星は、土星にそんなことを話すために
この話題を出したわけではない。
「いえ。で、話を少し戻しますと、
生徒会は立場上、風紀委員より上の立場にいます」
「…つまり、俺が生徒会に入れば、ガミガミいわれることもないと?」
「まあ、簡単に言えばそうです」
私が言いたいことは伝わっているようだった。
話が早くて助かる。
「…なんか、ますます反感を買いなんだど」
「あと反感買わないように、今ある制度やルールを
ある程度常識範囲内なら変えることもできます。
…もちろん全生徒にアンケートや投票してもらう形にはなりますが」
「なるほどね…」
「なので土星が生徒会に入ることでのデメリットはないです。
逆に入らない方が、今後考えるとデメリットだと思います」
そう伝えると土星は無言で考え込んでしまったが、それでいい。
ここまで強く説得しないと、入ってくれなさそうな気がしたからだ。
勧誘やお願いベースじゃ聞き入ってもらえそうにないし、
これで嫌われたとしても土星がいない生徒会は
意味はないと思う上での発言だった。
「…わかった。やるよ」
土星は観念したかのように、そう告げた。
「いいんですよ?明日までに返事してくれれば」
「いや、明日までに持ち越したら面倒くさくなるから。
今、決めた。生徒会、入る」
溜息はついていたものの、やると決めたら覚悟を決める男であるだろう。
少々強引ではあったが、土星にとって悪い話ではないと思うのだ。
「ありがとうございます!絶対、後悔させません!」
「木星がいるから、良いか…
くらいの気持ちだけど、それでもいいの?」
「大丈夫です!
信頼してくれるなら、さらに嬉しいことこの上ないです!」
「…そう」
少し引かれたような気もするが、今はこれでいい。
あとは実際に土星に話していたような結果になれば、
もうそれで、充分に良いのだ。
「もうすでに、土星のことは紹介の紙を
書いてあるので、安心してください」
「え?もう?…早くない?」
「フフ…早いに越したことないですから」
木星の自信たっぷりに微笑む顔を見て、
土星は驚きつつも、呆れたように話す。
「断れる可能性もあったのに…
というか、そもそも考えてなかったとか?」
「いえ、その時は何も言わずに、ただの紙くずになったことでしょう…!
いや~無意味なものにならなくて本当によかったです!」
事前に準備をしておいて損なことはない。
それは勉強に限らず、こういった部分でもそうだ。
「怖っ…」
「何かいいましたか?」
「なんでもない…」
ボソッと呟いた言葉は、はっきり聞こえていたが、
協力的になってくれた土星を免じて、
今回は見逃してあげることにしよう。
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その後、本番にむけて順調に準備は進んでいった。
そして当日、生徒会立候補者の代表演説は
無事終わり、立会人として互いに紹介も難なく終えた。
結果的に、どちらも当選した。
―――こうして、私と土星は2年生から
生徒会に入ることになったのだった。
あの時、土星に出会わなければ、
きっとそのまま風紀委員としていたことだろう。
それはそれでまた景色が違って見えたかもしれないから
良かったのかもしれないが、
3年で生徒会長になった今、
新たな2年生と共により良い学園生活を考えて
行動できる機会なんて、中々ないのだ。
―――そう思いながら、
資料を見ている土星を尻目に、木星は微笑み、
改めて「生徒会」入りできたことを感謝したのだった。
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