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2.生徒会に入るきっかけ①

━━━━━━━━━━━━━━━━━ 木星side ※過去story ━━━━━━━━━━━━━━━━━ これは私が、生徒会に入る2年前―――。 私は当時、風紀委員として活動していた。 当初は、このまま風紀委員として活動し 3年になったら風紀委員長でも悪くないな、など思いながら そのまま活動することを視野に考えていた。 しかし、転機は風紀委員として、学園内を見回りしていたときに 突然訪れることになる―――。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━ ある日の放課後。 部活動に励むものや、委員会の活動をしているもの、 自習室や図書室などで残り勉強しているもの…など様々であった。 現状は平和な学園ではあるが、時折問題行動を起こす輩もいるため、 学園内や付近で風紀委員が見回りをするのが活動の一環となっていた。 本来は二人1組で見回りをするのだが、 この日に限っては組む相手がおやすみで、 一人で見回りをしなくてはならなかった。 …といったものの、特に問題なければ、 委員長に報告後そのまま帰宅できるし、 別に一人で行動するのは嫌というわけではない。 とっとと終わらせて、帰宅して勉強でもしようと考えつつ、 学園内を見回りをしていたのだった。 「(…ん?)」 その時、ふいに香りが鼻にまとう。 甘いような、けれども、何だかあたたかくなるような―――。 そんな香りだった。 「(この匂い…)」 突然降りかかってきた香りに誘惑され、自分の意志とは関係なく 足は無意識に香りがする方へ自然と進んでいた。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「家庭科室…」 香りがなる場所は、調理をしている場所。 つまり誰かが、何かを作っていてその匂いが 自分のところまで来ていた、といったようだった。 夕飯時に住宅街を歩くとご飯を作るとき、もしくは出来立ての料理の匂いが 香る瞬間があると思うが、まさにそんな感覚だった。 ただ、少し違うとすれば甘い匂い、だということ。 「(お菓子を、作っている…?)」 部活動でお菓子作りをしているだけかもしれない。 ―――でも、それにしては話し声などが聞こえない。 そもそもこの学園は最近共学になったばかりで、 元男子校だったのもあり、男子の割合が非常に多い。 数少ないとはいえ、女子がいたら話し声が聞こえてきても おかしくはないし、たとえもし男子だけだろうとしても 複数人数がいる気配も感じ取れない。 「(こんな沈黙の中で、調理するのはなんか変じゃないか?)」 木星は見回り中なのも忘れて、家庭科室のドアの前でふと考えてしまう。 「(もし、部活動でないとしたら、いったい誰が…?)」 今思えば、仮に将来パティシエや製菓系の分野に進みたいと 思っている生徒がいたとして、練習がてら調理していただけかもしれない。 …そう考えても良かったのかもしれないが、 (だとしても、自分の家でやっているのが大半だと思うが) その時私は、一人でお菓子作りをしているであろう人間は、 いったいどんな人間なのだろう―――? と、深く事情も考えず、次第に興味を持ってしまっていた。 そして一度興味をもったら、 正体を知りたくなるのは当然の感情だった。 普段ならこれから起こりえそうな現象を考えて行動するので、 今までの自分であれば、突発的な感情で行動することなんて 到底あり得ないことだった。 しかし―――気づけば、 家庭科室のドアを開けていたのだった。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━ ゆっくりドアを開けてみると、白い無地の三角巾をして 目の前の調理したであろうケーキを 真剣にカットしていた人間が立っていた。 調理台の下はドア付近からだとよく見えないが、 体格からして男性だということが何となくわかった。 男は自分のことに気づいていないほど集中しており、 木星が近くまで歩み寄っても、気づいていないようだった。 ゴホンッ、とわざとらしく咳払いをすると 男はやっと気づいたのか、顔を上げた。 「…えっと…何?」 「何?は、こちらのセリフです。一人でここで何しているのですか?」 ドアを開ける前から気になっていたが、 やはり他の人間はおらず、 この男一人で調理していたようだった。 「ケーキ作り、だけど…」 「それは見たらわかります。  何の目的のために、それをしているのか聞いています」 明らか部活動の一環ではないのはわかるが、 どんな事情があり、どんな目的なのか、 見つけてしまった以上確認しなくてはいけなかった。 ことによっては、報告もしなくてはならない。 「え…?別に目的とか、ないけど…」 「そしたら、この家庭科室を利用する意味はないですよね?  見た限り部活動ではないようですし」 詰め寄る木星に、男は歯切れ悪く話す。 「まあ…一応部員だけど、確かに今日は部活動の日じゃないね…」 「なら尚更です。そもそも顧問か他の先生が使用許可したのですか?」 一番の疑問はそこだった。部活動でもない日に、 家庭科室の使用許可が下りたのは何故なのか? 純粋な疑問だったので、聞いてみる。 「普通にお菓子作りしたいから、  家庭科室借りたいって顧問の先生に言ったら、  普通に鍵借りれたけど…」 「…はい?」 一瞬、言っている意味が分からなかった。 そもそも個人利用のために家庭科室を使用できるわけない、 と思っていた自分が間違いだったのか、 はたまた、この学園の教師が放任で緩いのか、 …どちらにせよ理解が追い付かず、把握に少し時間がかかった。 その間に男は、私が話しかけた影響で止まっていた手を再び動かし、 カットできていないケーキに慎重に包丁をいれる。 「…とにかく、使用許可が下りているとはいえ、  部活動でないのであれば、申請書を書いておいてください」 「…?」 「…知らないみたいですね。ということは1年生ですか?」 「うん」 本来は鍵をこの男に渡した教師が、その事実を伝えるのであるのが 当然なのだが、渡した顧問教師も新任なのだろうか? 木星は深くため息をついて、後に続けた。 「今回は見逃しますが…次回、  ちゃんと申請書記載していなければ報告しますから」 「…?うん」 このまま話をしても、埒が明かないと判断し 今回は初回で分からなかった、という事で見逃すことにした。 「書かないと、次回以降、家庭科室使えないですよ」 「え、それは困る…」 本来やることをやっていれば、風紀委員も別に干渉することはない。 そもそも事前に使用許可申請書を記載して、提出していたのであれば ここまで話すどころか、興味すらなかったであろう。 木星はとんだ無駄足だったと思い、 興味本位で自分が衝動に駆られたことを後悔しつつ、 帰ろうとした―――その時だった。 ぐぅ~~~~… 気づいたときにはすでに遅し。 木星のお腹の音が、室内に響いたのだった。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「…失礼しました」 急な生理現象に、驚きと恥ずかしい気持ちが入り交じり これ以上、失態をおかさないようにと、 木星はそそくさとドアの方へ歩み寄り帰ろうとした。 そんな姿を見ても特に表情も変えず、見つめていた男だったが ふと思いついたように、木星にこう告げた。 「あ、これ食べる?」 男からの思わぬ提案に、さらに驚く木星だったが、 確かに目の前のケーキはとても美味しそうに見えて、 さらにはとても良い匂いを放っているため、 『食べてみたい』という欲求が生まれるのは そう不思議なことではなかった。 たまに実家でも母親がお菓子やケーキなどを作っていて 食べていたこともあってか、そこまで甘党ではないものの、 甘いものは嫌いというわけではなかった。 「ご自身で食べないのですか?」 「俺、作るのは好きなんだけど食べないんだよね。  アレルギーとか嫌いじゃなければ、食べてくれると嬉しい」 男は先ほどの歯切れ悪く話していたのが まるで別人だったかのように淡々と話した。 元々はこうして話すのが、彼なのだろうと思いつつも、 せっかく美味しそうにできたケーキを食べないなんて 勿体ない、と木星は感じていた。 「じゃあ、…お言葉に甘えて、  頂くことにします…」 次に歯切れ悪くなったのは、木星のほうだった。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━ 男は木星に適当に座るように伝え、 お皿やフォークなど食べるものを用意してくれた。 その後カットしたケーキも皿に綺麗に盛り付け、 崩れないように木星の前に差し出した。 「ありがとうございます。…いただきます」 綺麗に盛り付けくれたにケーキを 出来るだけ崩さないよう丁寧にフォークで切り、 恐る恐る口元へ運ぶ。 「…美味しい」 見た目からしても美味しそうであったが、 上部の焦がしキャラメルと二層のチョコレートムースとバニラムース、 下層部のアーモンドの生地がそれぞれ口内を駆け巡る。 病みつきになるような触感と、なめらかな口当たり、 それに甘すぎない上品な味に虜になるのは時間の問題だった。 気づけば、目の前にあったケーキはいつの間にか無くなっており、 自分は夢中でケーキを食していたのだとわかった。 「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」 パティスリーなどに売っていても、 不思議ではないくらいに美味しいと感じた。 「このケーキは、なんていう名前のケーキなのですか?」 「これは、【サンマルク】っていうケーキだね。  …気に入ったなら、残り持って帰る?」 「…他の方にあげる用ではなかったのですか?」 自分では食べないと聞いていたので、 誰かにあげるものだと思ってはいたものの、 そもそも自分が食べてよかったのか? と、木星は食べた後に少し罪悪感を感じた。 「ああ、普段はクラスメイトとか寮のルームメイトとかにあげているけど、  別に約束してたわけじゃないし、気まぐれで作っているから大丈夫」 「そうなのですね…」 誰かにプレゼントとして渡す用ではなく、 自分も食べていいものだったと分かり、木星は安堵した。 「食べきれなそうなら少しだけでもいいし、  もう、いらないならそのまま持って帰っちゃうけど。どうする?」 実家ならまだしも自分も寮にいる身だったので 全部は持って帰っても食べきれないし、 寮の部屋の冷蔵庫は飲み物しか入らない小さいもので、 手作りの日持ちしないケーキを腐らせてしまったら それこそ罪悪感しかない、と木星は思った。 だとしたら、食べたいと思う人たちに 渡してあげた方が良いだろう。 ただ、正直のところ『もう一度食べたい』 と思うほどには美味しかった。 「それなら、一切れだけ…持って帰っても良いですか?」 「うん、いいよ」 「…ありがとうございます」 男は事前に用意していたのであろう、ケーキを入れる箱に 慣れた手つきで入れ、袋までつけて渡してくれた。 「はい、どうぞ。日持ちしないから早めに食べてね」 「ありがとうございます。あの、今更ですが…」 「うん?何?」 木星は、不思議そうにみてくる男の顔を見て、話す。 「名前を、聞いてもよかったですか?  あ、私は1年A組の木星です」 「…俺は、C組の土星」 ケーキを食べさせてもらい、さらにはお土産までもらった以上、 名前も聞かずに立ち去ることはできなかったため、 咄嗟に聞いてしまったが、反応的に嫌だっただろうか? そう思いつつも、木星はそれと同時に 目の前の男―――土星に、 再び興味を持ってしまっていた。 「土星くんは、ちなみに普段飲むとしたら  コーヒー派ですか?紅茶派ですか?」 「同い年だから、別に呼び捨てでいいよ。  うーん、別に甘くなければどっちでも飲めるけど…なんで?」 木星の唐突な質問に、土星は何でいきなりそんなこと聞いたのか? といった顔つきで首を傾げる。 「分かりました。そうしたら、  土星がまたここでお菓子作りするとき、  邪魔はしないので、また食べに来てもいいですか?」 木星は土星の問いには答えず、さらに尋ねる。 「!…うん、いいよ」 土星は、木星の問いかけに少し驚きつつも 断る理由もなかったようなので承諾をしてくれた。 「ありがとうございます。  ただ次回以降、部活以外で使うときは  申請書だけ、…忘れずにお願いしますね?」 渡されたケーキの袋を片手にドアの方へ歩んだ後、 本来の目的を忘れそうになった木星は、 最後に振り返り土星に釘をさした。 「うん、分かった」 その言葉を確実に聞いた後、 木星は家庭科室をあとにしたのだった。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━

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