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第10話
そろそろ終わったかと湊の方を見ると、ポロポロと涙を溢していた。
突然の出来事に思考が止まる。
何か泣く様な要素があっただろうか。
寧ろ自分から見せ付ける様にしてきたのに、全く予想外の出来事すぎて意味が分からない。
「…なさい」
「え?」
小さな声に何と言ったのか確かめる為に思わず湊に近づいた。
湊は中腰のまま、上半身を丸めトイレのタンクに置いていた手に顔埋めて泣いている。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
「え!謝る必要なんて無いんですよ!」
小さな声で謝罪をはじめた湊に、意味が分からなかったがとりあえず中腰の体勢をやめさせる為に肩に手を置いた。
私の動きに湊がまた尻の肉を左右に割り開いて孔を広げて見せる。
ひくひくと収縮する孔を見せ付けられながら、毎回これかと謎の怒りがこみ上げてきてしまった。
怒りに任せて湊の手を取りリビングに戻る。
足元のコップを倒さない様にサイドテーブルに上げてソファーに隣あって座り、向い合わせになると湊の手を握りつつ顔を覗き込んだ。
「何がごめんなさいなんですか?生理現象は仕方がないでしょう?」
「あの…」
「何でも言ってください。ただ泣かれても意味が分からないので、私が困ってしまいます」
「ごめんなさい」
極力優しく聞こえる様に声をかけたが、少し言葉尻に怒気が混じってしまって湊が恐縮してしまった。
それにもふぅとため息が出て、湊はそれにも怯える。
握っている湊の手の甲を親指で撫で、なんとか怒りを押さえ込みつつもう一度湊の顔を覗き込んだ。
「あ、あの…きょかなく…」
「許可?」
「あう。きょかななくおしっこしてごめんなさい」
「へ?」
「ここにきたときもかってにおしっこしてごめんなさい」
私の顔を見ながら謝罪してくる湊に、最初は何を言っているのか分からなくて首を傾げてしまったがまたしても予想外の言葉に眉間に皺がよってしまうのが自分でも分かる。
そんな私の様子に、湊も一瞬身体を揺らしたがそれでも謝罪が続く。
「きょかなくおしっこすると…おしおきなの」
「いや…あー。それは私が分かってなかったみたいで…申し訳ない」
湊の言葉に“彼”の言葉を思い出す。
排泄すら許可制だったと言っていたのに、その事実が現実味がなく湊の行動と結び付いていなかった。
今それを目の当たりにして、私の配慮の足りなさに情けなくなる。
確かに、この家に来てすぐから湊は私の目の前でしか排泄はしなかった。
しかし、私はその行動原理が分からず困惑しているだけだった。
私が許可していないと言うことは、湊は我慢して我慢して我慢できずに私に“お仕置き”される事を毎回覚悟した上でペットシーツでしていたのだろう。
何がペットシーツでしかしないだ。
湊なりに私の顔色を伺いつつの行動だったのだろう。
自分の不甲斐なさに数日前の自分を殴ってやりたい衝動に駆られる。
「お仕置きは何をされるんですか?」
湊の言葉に私も“お仕置き”をすると思われていたなら心外だ。
一応確認をしておこうと、今度こそ優しく語りかけてやる。
湊は困った様に口を開いたり閉じたりしている。
手をきゅっと握ってやると、位を決した様に頷く。
「おしおき…は…なぐられるのはまだやさしい」
「それで優しい?」
「みさきはなぐられたあとにわるいこだってちくびにはりさされてたくさんちがでてた。それかきもちよくなるおくすりのんでせっくすする」
“彼”も中々酷い仕打ちを受けていた様だ。
憶測に過ぎないが、わざと“彼”に対して暴力をふるって湊に罪悪感を植え付けていたのだろう。
湊の“彼”を守らなければいけないという考えはそこから来てるのかもしれない。
「薬はよく使われてたんですか?」
「したのうら?においておけっていわれる。きがついたらおくすりなくなってる」
「舌下薬 ですか」
舌下薬は舌の裏側の粘膜から有効成分を直接血管に吸収させる薬の事で、肝臓や小腸での分解を受けないため、飲んで吸収される薬に比べて効果が早く現れるという特徴がある。
舌の裏側には太い血管が無数に通っていて、舌下薬は主に狭心症やアレルギー薬などの効能を早く出す必要のある薬が多い。
効能的には使える薬は限られてくる筈だが、どんな薬を投与していたのかは分からないものの話を聞く限りでは何かの治療目的の代物ではなく違法性の高い代物であるのは確かだ。
「その薬を使うとどうなるんですか?」
「さわられるといたい?」
「痛い?」
「けがしたところをさわったみたいになる」
「感覚が過敏になるのか…」
湊の様子を見る限り、長年の監禁による心身の衰弱は見られるがその“お仕置き”とやらで使っていた薬の依存性は少ない様に感じる。
その証拠に手を握っていても痛がる様子がない。
正確な事は血液検査をしてみない事にははじまらないが、現在薬物依存の症状は手をかきむしる以外にはなさそうだ。
「感覚過敏だと…洋服は嫌ですか?着るの嫌いとか?」
「そとにでるときいがいはくびわしかつけちゃだめだよ」
「外に出る時は着るんですか?」
「みなとはいたずらしやすいようにすかーとはいてなさいっていわれる」
そういえば下半身には何も身に付けていなかったのだと思い、事あるごとに着ている物を脱ごうとしていたので洋服が嫌いなのかと聞いてみた。
世の中には家の中では裸族という人種が一定数存在しているので、それの類いなのかと聞いてみたがやはり斜め上の返答が返ってくる。
もう湊から話を聞くのが怖くなってきた。
家の中では首輪しか着けてはいけないと言うことは、家の中では全裸に首輪という格好だったということでそりゃ家に帰ってきてすぐに服を脱ぎ出そうとするわけでだ。
湊の意思ではなくこれも“ご主人様”の方針だったのだろう。
しかも、外出時は湊にはスカートを履かせていたらしい。
“彼”に比べて栄養が足りておらず、ホルモンの関係だろう中性的な印象の湊がその格好で外に居ても違和感は無かっただろう。
髪型も髪の切られ方を見るにツインテールやポニーテールなどをさせていたのだろうからマスクなどで口元や喉元が見えなけれはもっと違和感は無かったのかもしれない。
持って帰ってきたボストンバッグの中身がパッと見スカートしか入っていなかったのにも納得がいく。
しかもイタズラしやすい様にということは当然の様に外でも辱しめを受けていたということになる。
“ご主人様”とやらは本当に性欲が旺盛で、遠いとはいえそんな人物と親族だとは思いたくなかった。
さぞ母親は対応に困っていたのだろうという事がよく分かる。
「そといくときにふくはきないこともある」
「え?」
「みさきといっしょにおさんぽにいくときはきない」
「散歩ですか?」
「ごしゅじんさまとそとでするときはふくじゃまだから」
何処から指摘していいのか分からないが、とりあえず湊の“ご主人様”は何をしてるんだと言いたい。
私も航くんの露出プレイや変態プレイの手伝いはしたことがある。
航くんを発展場で有名な公園の駐車場から公衆トイレまで裸で歩かせたり、毎日オナニーの動画を撮らせたりしていた。
しかし、それは航くんに被虐的な趣味があったからであり何より航くんは私が命令したという事を免罪符にして私が気が付いていないとでも思っていたのかプレイを楽しんでいたのだから元々の本質的に違う。
私は“ご主人様”みたいな非人道的な行いはしていない筈だ。
そう考えるも、本当にそうだったのかと思考が逸れてしまう。
「そう…でしたか。私は洋服を着ていてもらえるとありがたいです。一応洋服を預かって来たんですが…着るものがあるか見てみましょうか」
なんとか言葉を絞り出してソファーから立ち上がる。
部屋の隅に置いてあったボストンバッグを持ち上げ、キッチンからごみ袋を持ってソファーに戻った。
ごみ袋を広げソファーの下に置きつつ自分と湊の間にバッグを置いてファスナーを開ける。
湊と向かい合った状態で一番上の服を取り出し広げてみるが、私はすぐにそれをゴミ袋の中に放り込む。
紺色の短いプリーツスカートの間には黒いチューブトップが挟んであった。
次に広げた服は地雷系といわれる様なフリフリとした服だったのでこれもごみ袋に入れる。
次は丈の短いデニムスカートに淡い色で謎のキャラクターが描かれた小さめのTシャツ、淡い色の子供が着る様なワンピースや胸に大きな穴が空いている水着や明らかにそういった目的で使う服が次々と出てきた。
洋服は全部きちんと上下でセットになって綺麗に畳まれていたが、出てくる服を次々とごみ袋に放り込みつつもうバッグの中身を見るのが嫌になってくる。
「はぁ。やっとここからは普通の服ですかね?」
やっと普通のパーカーやスラックスや下着類が出てきた。
どれもこれもタグがついている。
無地のTシャツやスウェットなど使いやすそうな物が多い。
下の方は彼が用意した物だろうか。
ここまで気が使えるなら全部普通の服にして欲しかったと思ってしまうが何か事情があったのだろうから文句も言えない。
とりあえず下着とスウェットを湊に渡す。
「1人で着られますか?」
「ようふくきてもいいの?」
「私としては外に行く時以外も着てて欲しいですね。慣れない間は好きな格好で居てもいいですが、なるべく服に慣れていきましょうね」
お行儀が悪いが手でタグを切ってそのタグを見るとレディースと書いてあった。
体型的には確かにレディースサイズの方が合うかもしれない。
変に感心しつつ、もたもたと下着を身に付ける湊を見守る。
上着も着替えさせたほうがいいだろうか。
「上着も変えましょう。この家に来てからずっとその服ですからね」
誉の病院でもそのままだった上着のファスナーを開ける為に湊の前にしゃがむ。
下着を身に付けるのを手伝いつつスウェットも履かせてやる。
ついに上着も脱がせると再び乳首が目に入った。
数日後には検査でもう一度病院へ行くのでピアスも外した方がいいだろう。
「ピアスも外しますよ?」
湊が頷いたのを確認してリングタイプのピアスを外す為にピアスの端を持つが、これはどうやって外すのだろう。
ピアスなども詳しくないので外し方が分からない。
湊も私をじぃと見つめているが、お互いに見つめあったまま時間だけが流れる。
これは一体どういう状況なんだろうか。
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