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こういう時の樹は僕よりずっと大人で声も言葉も何処か淫靡でどきまぎしてしまう。
「そんなこと……ない」
「ない?」
樹が僕のに柔らかく触れた。
「ん……」
実を言えば恥ずかしいと思う気持ちとは裏腹にさっきからだいぶ気持ち良くなってしまっていた。反応し始めているのもわかっている。
「ほらな……ね、ちょっとだけ触らせて?」
「いっくんっ」
抗議の言葉だけが虚しく浴室内に響く。結局いつも樹に流されてしまうんだ。
樹の手に顎を捉えられ、やや後ろに向かされる。顔が近づいてきて唇が重なり合う。何度も甘く吸われ開き加減の唇から舌が入り込んできた。
「っん……ふ……」
口づけは長く激しく…………。
**
気がついたらベッドの上だった。
「あれ」
「ナナ」
樹が上から覗き込んでいて、ほっとした顔をしていた。僕はのそっと起き上がる。水のペットボトルがすっと差しだされた。それを受け取ってごくごく飲むと自分が酷く喉が渇いていたことに気づいた。
「えっと、僕」
「のぼせたんだよ、キスしてる間にぐったりしちゃって。悪かったな、無理させて」
(そういえば……)
身体も心も熱くて熱くて、キスされながらだんだんぼうっとしてきたことを思い出した。
「ほんとだよ、いっくん。何もしないって言ったのにっひどいよ」
僕はわざとぷんと怒ってみせた。
「まじ、ごめん」
樹がめちゃめちゃ申し訳なさそうに頭を下げるので自分のほうがすごく悪いことをしてしまったような気持ちになった。
「うん、許す」
にこっと笑って樹の首に腕を回すと、ちゅっと唇に軽くキスをした。
(これだけでも恥ずかしいんだけどっ)
こんな軽いことも自分からあまりすることがないせいか、樹は一転してめちゃめちゃ嬉しそうな笑顔になった。
その笑顔にきゅんとする。
「今日はもう寝るか」
「うん」
僕が再びベッドに潜り込むと樹も隣に滑り込んできた。
もともと樹が一人で住んでいた部屋だ。それほど広くはない部屋に大きいベッドは置けず、この一年間シングルのベッドにきゅうきゅうになって一緒に寝ていた。僕は床で寝てもいいよと言ったけど、これは絶対に譲れないと樹は答えた。
「お金貯まったらもう少し広い部屋に引っ越そうか……そのうちに家を買って……ずっとナナと一緒に住む……じいさんになってもずっとずっと……」
柔らかい口調で樹が語る未来。僕らは向かいあってお互いを柔らかく包み込んでいた。
樹の肩越しに赤い薔薇が見えた。僕が意識を失っている間にテーブルの薔薇を寝室のローチェストに置いてくれたのだろう。
僕は百八本の赤い薔薇の花言葉を心の中でもう一度唱えた。
『結婚してください』
『永遠の愛を誓う』
(僕もだよ、いっくん……僕も誓うよ)
(まぁ結局、百八本ではなかったんだけどね、あは)
「いっくん……ずっとずっと一緒にいようね」
僕はそう言って目を閉じた。
♡♡ おしまい ♡♡
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