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第7話 後日談 初夜を迎える儀式の衣装

トリコと数名のメイドたちに連れられてやってきたアクアは、漆黒の肌の色が透けて見えるほど薄い衣装を身に纏い、耳や首、腕に黄金の飾りを下げていた。 それは、「初夜を迎える儀式」の衣装だ。 トリコは政治にかかわる立場ではないが、アクアが「生涯、誰かを娶ることはない」と宣言していたのを当然知っている。 だが、それはアクアの一存でどうにでも撤回できることも知っていた。 彼女は自分が「そのつもり」であると勘違いしているのだ、とアクアは眉をひそめた。 「ヒスイ、そんな格好は……」 「陛下、お久しぶりでございます」 「──なんだその喋り方は? いつも通りでいい。いいんだ、君はそのままで」 アクアは思わず立ち上がり、ヒスイの元に駆け寄り、膝をついた。 塔で出会った時よりも、ほんの少し頬に丸みがある。 いまはそれどころではないが、「可愛らしい」と思ってしまうほどの幼い頬。 彼の手を取る。長らく触れられなかった彼の手。 「でも」 ヒスイが困惑する。ちらりと、頭を下げたままのトリコのほうを見た。 「トリコを気にすることはない。トリコだけじゃない、他の誰も気にしなくていい。この城のなかでは、私がいいと言ったらなんでもいいんだよ」 「アクアが、『殿下』で、『おうさま』だから?」 「……そう。そうだ」 普段はむしろ強調しないようにしていることなので、若干の違和感はあるが。 「……うん。わかった。それなら、」 (アクアとふたりきりになったら、そうする だって、せっかくトリコが教えてくれたからね) アクアだけに聞こえる小さな声がささやく。 奴隷の化粧のない、素顔のヒスイ。 香水は使っていないようだが、とてもいい香りがした。 トリコたちが無言で去ると、寝室の巨大な扉は、左右同じスピードでゆったりと閉まった。 ヒスイだけがそこに残された。 「……ヒスイ、イヤなことはされていないか? 食事は問題なくできたか? トリコは厳しすぎなかったか?」 とりあえず、確認したいことを確認しておく。 「うん。イヤなことはないよ。ビワイエの食べ物は全部おいしくて、懐かしかった。勉強はすごく楽しかった。たくさんビワイエの言葉を思い出した」 「それなら、……よかった」 詳しい事情はまだ聞けていないままだが、ヒスイが答えるのをそのまま理解するのなら、やはり彼はもともとビワイエで暮らしていたということだ。 どうして敵国にいたのか。 自ら移動したのか、あるいは連れ去られたのか。 聞きたいことは山のようにあるが、ヒスイのゆったり、ゆったりした話し方を邪魔したくもない。 「お作法の練習は、胸がどきどきしたよ」 アクアの心配をよそに、ヒスイは興奮気味のようだ。 どきどきした? 「……それは、緊張したということかな?」 「うん。アクアに会えたから、もう、していい?」 「いいが、なにを……」 ヒスイはぱたぱたと走り、天蓋のついたベッドにぽん、と勢いよく座った。 ヒスイが乗ると、ただでさえ大きなベッドがさらに大きなものに見える。 彼が「アクア、アクア、来て」と呼ぶから、アクアもベッドに座った。リラックスしているのか、人懐こい子猫のように無邪気な彼に、アクアもにこにこしてしまう。 アクアが傍に座ると、ヒスイはためらいもなく自分の衣装の腰紐をするりと引っ張った。 「ヒスイ……? そんなことをしたら……、衣装が脱げて……」 「……うん……次は……、これ。これが2番目」 それだけではとどまらず、彼は肩に掛かっていた布を落とそうとした。 「──いや、待ちなさい。待ちなさいヒスイ」 「でも、これを取らないと、脱げないから。練習したんだよ」 「練習、とは」 「『脱いでから、言う』。そういう順番だよ。だから、脱がないと」 アクアが手をどけると、ヒスイは本当に衣装を脱いでしまった。磨き上げられた漆黒の肌が丸見えだ。 細い紐に繋がった小さな布だけが、かろうじて股間を隠している。 アクアは思わず息を呑んだ。 ヒスイが小さく微笑む。 「何度も練習したのに、まだどきどきするね……」 少しばかり緊張にこわばった小さな手が、そっと頬を包んでくれた。 触れ合う場所から感じられる、彼の力。 彼の魔力は、アクアほどの使い手であっても「目に見える種類」のものではない。しかし、「ただそこにある」という、独特な存在感があって、わかるというだけだ。 手をかざしても燃えない火のような、触れても触れられない湯のような。それが、彼の両手から感じられた。 長い旅で失われていた体力や魔力、気力までもがじわじわと満ちていく。 満たされていくのがわかる。 あのとき渡された林檎よりも、明確に。 トリコが「保護の力」と呼んでいた魔力。 これこそが、自分の命を助けた、ヒスイの力なのだ。 なにかに酔ったような、ふんわりとした意識のなかで、アクアはただ、じっとヒスイの瞳を見つめていた。 やがて、アクアが言った。 「 『どうか、私を抱いてくださいませ。……陛下』 」

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