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第6話 後日談 「つまみ食いされる王」
久しぶりにまともな料理を目の前にし、アクアもアルタイトも無言でそれらを頬張った。柔らかなパンに、中まで火が通った生臭さのない肉。新鮮なフルーツ。
ただ、10分も持たない。
「説明は?」とアクアは弟を睨んだ。
弟も恩人と言えば恩人であるが、弟なのでどうしようもない。遠慮が吹き飛ぶ。
「兄上が自分で招いた初めての客でしょう、ヒスイは。初めてであり、最後になるかもしれず」
「まあ、それは……」
「ちょこちょこ男にも女にもつまみ食されていたのは知っていますが」
そう言いながら、赤ワインを飲み干す。
「つまみ食いされていた……ほかに言い方はないのか」
「ないでしょう? 兄上は来るもの拒まずで、自分から本気で食いにいくことなどなかった」
「勇気を奮い立たせてベッドに入ってくるんだ。そういう緊張は伝わってくる。最低限お相手くらいしなければ失礼だろう」
「ベッドに入りにくるかなり前から気付いて解除するものを解除しなければ、ベッドどころか城に入ることさえできないはずですが」
「…………」
「優しく接待してくれる国王として裏で有名ですね。どれほどを最低限としているのか知りたいくらいです」
敵意には敵意を。しかし、好意には好意を。
それは、アクアの個人的なスタンスであり、かつ、政治においても同様だった。
だからこそ隙を衝かれたのだと言われたら文句は言えないが、とりあえず、ベッドが絡む夜の小さな政治においては失敗したことがない。その関係限りで終わっている。
ただ、正式に城に迎え入れたいほど焦がれた相手はいなかった。相手もそれを察してか、幾度か交わしたあとにはそっと姿を消していく。
「つまり、恐れ多くも王をつまみ食うような者たちとヒスイは異なるということです」
「それはわかる」
「で、ございましょう。正式にお迎えするのならそれなりに整える必要がある」
「ヒスイにその話をしていない」
ただ、自分と一緒に来てくれるか、と尋ねただけだ。
彼はにこりと微笑んで頷いてくれた。それだけ。
「作法や言葉の教育はヒスイ自身が願い出たことです」
「──ヒスイが?」
「はい。トリコは遠慮して言いませんでしたが、それらが完了するまで会わないと言ったのも彼です」
アクアが黙り込んで考え始めると、アルタイトは役目を終えたとばかりに2本目のワインの瓶を持ってこさせた。それは林檎の香りが強いもので、アクアは否応なしにヒスイから受け取った林檎と、その林檎を渡してくれた細い腕と、指のことを考えた。
とりあえず、満足に食べ、温かなベッドで眠り、自分の手の届く場所にいてくれたらいい。
……と、そのようには思うが。
「それはそれとして、やはり襲撃はする。ヒスイに会いたい」
「ああ、言い忘れていましたが」
「なんだ」
「彼は今夜、兄上の寝室に参るそうですよ」
アクアが空っぽになったグラスを物理でアルタイトに投げつけると、グラスはアルタイトにぶつかる数ミリ前でぴたりと宙に留まり、その真下に問題なく着地した。
アルタイトは「これからますます忙しくなるでしょうね」と、口元をナプキンで拭いながら言った。
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