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第5話 後日談 「丁寧にご教育させていただいております」
「なぜ同じ城にいるのに会えない?」
アクアは声を上げた。
ヒスイの力により城から救出され、ビワイエのこの城に戻ったのち、敵地に赴いた。
1カ月ぶりに帰国してこの城の門をくぐり、数分後のことである。
問われた侍従長のトリコは微動だにしない。大窓から入る風が彼女の長いスカートをほんの少し揺らめかせただけだ。ぴしりとまとめられた髪と銀の眼鏡、レースのない襟はまるで関係ない、という顔をしているように(アクアには)見えた。
ついでに、隣に立っている弟の顔を見たが、弟はするりと目を逸らした。事情は知っていて、こうなることもわかっていたようにしか見えなかった。
「まずは、お帰りなさいませ。さまざまなご処理、お手続き、お疲れ様でございました。誰もが王に感謝し……」
「どうでもいい。それらは国王として当然のこと。ヒスイはどこだ。その国王を救った者を丁重に扱えないのは国の失態だろう」
トリコは口角を上げてにこりと微笑んだ。
自分の倍以上も生きているこの侍従長に、アクアも頭が上がらない。生まれる前から自分の世話をしてきた女なのだ。実母亡きいま、母にも等しい力を持っていると言わざるを得なかった。
「それはもう、丁寧にご教育させていただいております」と、トリコ。
「教育? なにを? おまえは私の恩人に……」
「ヒスイさまは『保護の魔法』を使われるお方です。第三者を回復させるだけでなく、ご自身の身体も回復させられる。王の手を煩わせることもなく容易く交わることもでき、かつ……」
「トリコ! いい加減にしろ、私は彼をそんな目的で連れてきたのでは──」
「──兄上、まあまあ」
弟が割って入ってきた。
銀色の短髪。彼は、王位を兄に譲ると決めて以来、髪を伸ばさなくなった。
「アルタイト……」
「細かなことは私が確認しております。その説明をしようとしていたのにあなたが城に入るなり駆け出すから。まずは身体を清めてお休みくださいませ。できれば、私もご一緒に食事を」
「細かなことが必要になる意味がわからない」
「お気持ちを鎮めてください。そのお姿で恩人に会うのもなんでしょうから」
それはそうだった。この数日は水さえ浴びていない。
アクアは不機嫌を弟にそのままぶつけるように頷くと、「今夜会えなければすべての客室を襲撃する」と言った。「メイドの部屋も全部だ」と、付け足して。
トリコは「いくらなんでも、ヒスイさまをそんなところに隠したりしませんよ」と呟いてから、いちおうは、というように頷いた。
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