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地球と火星のお話 第1話

━━━━━━━━━━━━━━━━━ 地球Side ━━━━━━━━━━━━━━━━━ 初対面の時は、たどたどしくて 色んなことに困惑している感じだった。 徐々に慣れていくとそれは落ち着いてきて、 誰かが騒いだりして怒られたりすると、 一歩後ろで苦笑いしている。 いつ見ても、そんな感じだったから、 普段の姿はこんな感じなのだろう。 そして見た目は近寄りがたい感じなのに 考え方は地味で真面目だし、 感情の起伏は激しいほうじゃないから 大して気にも止めていなかった。 そう思っていたのに、最近気づくと 彼を目で追ってしまうのは、 何故だろう―――。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━ 俺は高校から入学したものの、面白いこともないし 人と話すのもそんなに好きでないため 一人でボーっとして過ごしていた。 やることやっていれば教師にも怒られることもないし テストの点数も、悪くなければとやかく言われることもない。 友達付き合いも必要でない限りしない。 もはやクラス内では空気みたいな存在だろう。 それでも別に良かった。干渉される方が面倒くさいし。 生徒会に入ったのも、特段想いがあって入ったわけではない。 後々のことを考えれば、入って良かったのだが、 当時は、なんとなくで生徒会に入ろうと思い、 結果的に生徒会に入れてしまった。 なので、生徒会長である木星が、 初めて2年に会ったときに話した言葉が 個人的には、かなり重く感じた。 (まあ、本来はあの考え方が理想で、模範なんだろうけど) 「なあ~、いつも何考えてんの?」 そんなことをぼんやり考えていると、 生徒会の中でもムードメーカーである、水星が話しかけてきた。 今、生徒会室にいる2年は俺と水星だけ。 火星は部活で、金星は特別講習を受けていると聞いた。 「別に、何も」 「ふーん…?お前たちって何考えてるか、わかんないよな」 「お前?」 「うん、お前と火星」 「…は?火星?」 意外な人物に俺は、疑問符を頭に浮かべる。 元々人に興味ないが、一般的に『何考えているかわからない』と言われる部類は 生徒会副会長である、土星なのではないかとは思う。 「うん!」 そこは土星だろ、と言いそうになったが 話が続きそうなので言おうとした口を止めた。 すると、何も言ってこない俺を見た 水星が話を勝手に続ける。 「だってよ、なんか距離?というか壁を感じない?」 「…誰もが水星のように、フレンドリーなわけないでしょ」 話が終わらなそうだと感じた俺は、 渋々会話を続けてやることにした。 「それは、金星にも同じこと言われたわ!」 ニカっと笑顔になる水星に、 いや褒めたわけじゃないけど、とボソッと吐く。 「え、ひどっ!そこは褒めてよ!!  誰もがそうじゃないのは分かっているけど、  なんか今までに関わったことないタイプなんだよね~、お前たちって」 自分で言うのもなんだが、傍から見れば 俺はかなり変わった部類に見られていて、 話しかけたらいつも驚かれる。 「それで俺たちが同じってこと?」 「同じタイプだとは思っていない!  別に地球には壁を感じないし!」 「あ、そう…」 「そういう反応も金星と同じなんだけど?!  もしかして金星の親族なの?!」 「…いや、お前が馬鹿なだけでしょ」 「ハア~?」 意味が分からない話をされ、はあ?と言いたいのはこっちの方だ。 いつも金星はコイツの相手してんの大変だなと少し同情した。 「こら!!そこ、静かにしろ!!!」 水星は人より声が大きいので、 普段からガミガミとうるさい天王星に 目をつけられて怒られてしまった。 なので話はそこで終了、となった。 しかし、生徒会が終わり帰ろうとしていた俺に 水星は、また話しかけてきた。 「こないださ~、見ちゃったんだよ」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「…何、まだ話すの?」 「当たり前だろ!ちょうどいいところで止められたんだから」 生徒会は雑談する憩いの場だと勘違いしているのか? と思いながらも、早く終わらせて帰りたいので また渋々話を聞くことにした。 「…で、何を見たの」 興味はないが、水星が話したそうにしているから仕方ない。 「火星の笑ってるところ!!!」 でも、聞いた俺が馬鹿だったかもしれない、と思い 呆れてそそくさと帰ろうとした。 「おいおい!まだ終わってねぇよ!!」 「何、しつこいんだけど」 帰ろうとした俺に水星は、静止の言葉を投げかけて さらに大きい声で、問いかける。 「地球は見たことあったのか?!」 「声でか…。ないけど、…別に興味ないし。  というか、よくそんな大事件みたいな感じで話せるね」 仕方なく、帰ろうとしたのを止めて水星の方へ向き直す。 「だってさ~、想像つかないくらい笑ってたんだぜ?  あれが本当だとしたら俺らがみてるのは、隠している姿ってことじゃん」 「…まだ馴染めてないだけじゃないの?」 「え~、だとしたら落ち着きすぎてる気がするんだよな~」 正直俺はそんなことはどうでもいいんだが 水星的には、かなり驚いた出来事だったんだろう。 確かに、火星は黙っていればクールだ。 特にイレギュラーなことがなければ 同世代の方でも、普段は落ち着いている方だと感じる。 しかも小柄で中性的な顔立ちなので、 見た目が少しだけ派手だが、威圧感もない。 いたって普通の男子高校生だと思う。 「水星が、誰に対しても接し方が変わらなすぎなだけでしょ…  むしろ火星が普通なの」 普段の表情や様子に変化があるからといって 興味が沸く水星に、俺は理解できなかった。 「ふ~ん、そういうもんなのかな」 「そういうもんなの」 「でも、地球は変わらないよな~」 水星と同じように俺も、他人に対して接し方を変えたりしないが、 本来は親しい間柄にしか、見せない顔や姿だってあるだろう。 ただ、俺たちを含め、生徒会に対しては まだ信頼関係を構築していないだろうし。 そもそも生徒会に入ってから、まだ2か月しか経っていない。 「とりあえず、火星が何考えているかなんて、  …俺たちには関係ないでしょ」 すぐ他人に心を開けるか、なんて人それぞれなのだ。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━ 翌日。午前の授業が終わり、お昼休み。 移動教室があるので、自身の教室ではなく 近くで弁当と教科書類を持って移動しようと準備していた。 (あれ、箸忘れた…?まじか…) 家から箸を持ってくるのを忘れたようだ。 食堂でお箸をもらうしかないか、と思ったが 移動教室の場所から少し離れているので急がないといけず、 どうしたものか、と一瞬考える。 「仕方ない。今日はなんか買うか」 お昼休みだけ、おばちゃんがパンを売りに来る。 それは昇降口近くで行われ、自分の教室からは離れているが 移動教室の場所からはそんなに離れていない。 せっかく用意してくれた親には申し訳ないが、 弁当は破棄するか持って帰るかして 今日はパンを買ってそのまま近くで食べるか、なんて ぼんやり考えながら購買へ向かっていた。 廊下を早歩きしていると、 「あはははっ」 ―――ふと、笑い声が聞こえる。 いつもなら気にも留めないのだが、 なぜかその時はその声に反応してしまった。 横を向くとちょうどそこには 教室の入り口付近に2~3人いて、 その中に火星がいた。 友達と笑っている、火星。 ただそれだけの光景なのに。 それを見た瞬間、立ち止まってしまった。 いつもと違った笑っている姿に驚いたから、 立ち止まってしまったわけではない。 「…」 ―――笑っている姿に思わず見入ってしまった、 というのが正しかった。 (水星が、大袈裟に言ってると思ってたけど…) 「…あれ、地球…?」 急いでたことなんて忘れてしまうくらい、 気づいたらジッと見つめてしまっていたようだ。 視線に気づいた火星が、俺に気づく。 「!」 話しかけられて、ハッとした。 黙ったまま見つめてきた俺に、不思議に感じたのであろう火星は 少し困惑したような顔で、俺に話しかけている。 「なにか、用事でもあった…?」 「いや、別に…ない……  ごめん、急いでるから、また」 「え、ちょっと…!」 呼び止めようとした火星の声を背に、 急ぎ足で逃げるように立ち去る。 かなり失礼だったが、親しい間柄でもない上に 自分のあの状況を説明することは 今の俺では不可能に近かった。 (というか、水星が余計なこと言うからじゃん…) 自分でも意味が分からない行動に、 あんなことをしてしまったのは水星のせいだ、 と心の中で責任転嫁しながら 本来の目的である場所へ向かった。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━ それからというものの、自然と火星がいるのが分かると 無意識に見つめてしまうようになってしまった。 今まではクラスも離れているため、 そんなに見かけることもなかったのにも関わらず、 すぐに火星がいるのに気付くようになってしまった。 なんとも、不思議なものである。 (火星の行動パターンがあまり変わらず、ほぼ同じだからなのか…?) そして遠い場所で見つめてる分には気づかれることはないのだが、 さすがに近い場所だと視線を感じるらしく、 すぐ火星に気づかれ、 そのたびに俺に対して不思議な表情を浮かべる。 その表情を見た瞬間に、 自分が見つめてたのだと、我に返る。 火星にしてみれば、意味が分からないし 下手したら、かなり不審者だろう。 そのため、生徒会で一緒になったときに、 お詫びも兼ねて一言伝えることにした。 「火星」 「?どうしたの?」 「最近…俺、ちょっとぼんやりしているから  もし視線ぶつかっても気にしないでほしい」 「うん…?? よくわからないけど…、  気にしないでほしいっていうなら…わかったよ」 不審なうえに、よくわからない発言をしても 気持ちを汲んで、了承してくれる火星は優しかった。 「…ありがとう」 「…!」 俺が普段あまりそういうことを 言わなそうだと思われているのだろうか、 感謝の言葉に、火星は少し驚いていた。 そして、そのあと少し不安そうな顔になった。 「何か、…あったの?」 俺が、悩んでいるのとでも思ったのだろうか。 火星は優しいので、こんな意味不明で 不審な行動をしている俺にでも、 心配の言葉をかけてくれるのだ。 「俺もよくわからないけど、  多分、心境の変化、…かな」 (火星に対しての、ね…) 目の前の相手にそう言いかけそうになったけど さすがに、心の中で留めた。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━ ―――そんなこんなで、俺の無意識な行動は 数週間経っても変わらず。 どうしたものか、と自問自答していたある日。 俺は放課後、日直で日誌を提出しに職員室まで行き、 そのまま家に帰るはずが、教室に忘れものがあるのを思い出し、 二度手間だが、Uターンして教室に戻ろうとした。 (最近火星に気を取られているからか、忘れることが増えたな…) こないだのことから、うっかり忘れものや ミスすることが増えたように感じた。 今までこんなに誰かのことで、 普段の生活に支障が出たことがなかった。 最初は時間が経てばこういうことはしなくなるだろう、 とさえ思っていたのに、以前の自分には戻れなくなっていた。 (水星があんなに興味をもっていたことを  小馬鹿にしていたのに、俺も人のこと言えないな…) そんなことをぼんやり考えながら、 自分の教室に戻っていたときだった。 ―――ガタンッ!!! 「~~~いい加減にしろよっ!!!!」 いきなり響いた大きい物音と、 身に覚えのあるような声に立ち止まってしまう。 (あの声、…火星?) そう思った瞬間、気づいたら 物音や声が聞こえた方へ近寄っていた。 「ここって…」 火星が所属している、軽音部の部室だった。 普段は完全に閉められているだと思うが 若干、部室のドアが開いていた。 だから、声や音が漏れたのだろう。 おそるおそる覗くように見ると、 一人の男と火星がその場にいるのがわかった。 そして、火星は目の前にいる男に 腕をつかまれているようだったが、 次の瞬間、バチンッ!と鈍い音が響く。 火星は目の前の男の頬に、平手打ちをしたようだった。 「…っ、俺のこと、裏切ったのに、  …よく、そんなことが言えますね」 (泣いてる…?) あまりにも衝撃的なシーンに頭が追いついていないが、 火星が怒りながら涙をこぼしているのがわかった。 いつも落ち着きがあるし、 余程のことじゃ怒らなそうな、あの火星が。 普段の姿から想像もできないくらい 感情的になり、怒りをあらわにしている。 修羅場のような状況に出くわしてしまい、 第三者の関係のない俺が見てはいけなかったものだと、 一瞬で分かってしまった。 急いでこの場を立ち去らなきゃいけないのだが、 足が言うことを聞いてくれず、動悸が激しくなる。 (動揺、している…のか?) 今までの俺なら修羅場に例え遭遇したとしても 素通りだっただろう。 なのに、今回は相手が知っている人間だったからか、 ―――それとも火星だったからなのか。 どうすればいいのか分からず、立ち尽くしてしまった俺は、 自分の背後に人が立っていたのも気付かなかった。 「あーあ…  見ちゃったね?」 耳元で囁かれて、心臓が止まるかと思うくらいに驚く。 おそるおそる後ろを振り向くと、 そこには、見たことがない男が立っていた。 意地悪い笑みを浮かべ、シーッと言いながら 俺の口元を覆うようにして、話すことを静止される。 「ここじゃあ、場が悪いなぁ。  …場所移動するぞ」 再度耳元で小声で、囁かれてぞっとするが そのおかげで、少し冷静さを取り戻すことができたようだ。 その男は俺についてこいよ、と言い その場を離れるように歩き出した。 (自業自得だけど、とんでもない状況に巻き込まれたな) なんて、どこか客観的に思いながら俺は、 言われるがままに後に続いたのだった。 .

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