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第5話

朝からカアカアとカラスの鳴き声が聞こえる。 ベッドから起き上がり自室のカーテンを開けると、妙にカラスがたくさん空を飛んでいるのが見えた。 午前の休み時間、俺と一色(いっしき)四十万(しじま)の携帯端末が同時に鳴った。   「出動要請か!?これ、どうしたらいいんだ!?」 初めてのことで何もわからない俺は、端末の音に焦ってしまった。 「端末に地図と怪人の居場所を表すマークが表示されていますから、現場へ向かいましょう」 四十万が冷静に教えてくれた。 街では大量のカラスから人々が逃げ惑っていた。 「ここは俺が止める!」 一色の異能の念力でカラスが空中で一時的に静止したが、一色の顔には焦りの色が見える。 「長くは保たねぇ……!柊、四十万!親玉の怪人を探してくれ!」 端末の地図にマークが表示された場所で辺りを見回すと、ビルの上に怪人が仁王立ちをしていた。 頭がカラスで、黒い羽毛に覆われてはいるけど人間のような体型だった。 (からす)の怪人とでも呼ぼうか。 烏の怪人は異様な姿だったが、それよりも驚いたのは隣に立っている人物が藻沼(もぬま)潜流(もぐる)だったことだ。 青緑色の髪は目立つし、白衣が幽霊のように風に靡いていて遠目にも彼だとわかる。   カラスを食い止めている一色を残して、俺と四十万はビルに入りエレベーターで屋上へ向かった。 俺たちしか乗っていないエレベーターの中は時間が止まっているかのように静かだった。四十万は腕組みをして屋上に着くのを待っている。 あの人と戦うことになるのか……? こんなに早く再会するなんて予想外だ。 今は四十万も一緒にいるのだから、怪人退治学園の生徒として俺だけ戦わないわけにはいかないだろう。   エレベーターが屋上に着いた。 仕込み傘を抜刀して、俺たちは気付かれないように烏の怪人と潜流に近付こうとした。 「カアーッ」 忍び足のつもりだったが、烏の怪人に気付かれてしまった。烏の怪人はカアカア鳴きながら両手をバタバタと羽ばたくように動かしている。 そこにヘリコプターが飛んできて縄ハシゴを下ろすと、潜流が縄ハシゴを登って怪盗みたいに逃げようとしている。 「待て、潜流!」 俺は思わず名前を叫んだ。 「玻璃彦(はりひこ)、久しぶりだね。ゆっくり話すヒマが無くて残念だよ」 潜流は敵だから本来なら警戒しなければならない相手だけど、顔を見て声を聞いただけでフワフワした不思議な気持ちになる。 潜流は薄い唇でニヤリと笑うと、ヘリコプターにサッと乗り込んで逃げてしまった。 ここに一色がいればヘリコプターを止められるんだろうけど、今の一色は路上でカラスの群れに対処しているから仕方ない。 屋上にもカラスの群れが飛んできた。 烏の怪人が異能でカラスを操っているんだろう。 俺と四十万は刃で飛びかかってくるカラスを払いのけながら烏の怪人に近付こうとする。 烏の怪人は飛べないようだけど敏捷な動きで俺たちの攻撃を避けている。 「カアッ!?」 四十万の両手から生えている刃がやっとこさ烏の怪人の腹に擦り傷を付けたが、それだけでは倒せない……はずだった。 烏の怪人の擦り傷の周りが淡く光り、その直後。擦り傷がじわじわと伸びるように広がり、血を噴射した。 俺は仕込み傘の鞘=傘の部分で血飛沫を防いだが、四十万は血飛沫をちょっと浴びてしまった。 烏の怪人が倒れると、暴れるように飛びかかってきていたカラスたちが急におとなしくなって、ビルのフチに並んで止まっている。   「……勝った」 「私たちの勝ちです!今のは柊さんの異能ですか?」 四十万に聞かれたけど、自分でも何が起きたのかよくわからない。 「傷が広がったように見えました。柊さんには、傷を治すだけではなく増悪(ぞうあく)をさせる力もあるんじゃないですか?傷を自由に操る力っていうか……」 「ぞ、増悪……」 とんでもない力を使えるようになってしまった。 「一色さんに知らせに行きましょう」 「そうだな。一色がまだカラスを頑張って止めてるかもしれないし」 俺たちは急いで烏の怪人を倒したことを一色に知らせに行った。 四十万と一色にとってはいつもの戦いでも、俺にとっては初陣だったからどっと疲れた。 寝る時間になって自室のベッドに倒れ込むと、なぜか今日会った潜流の声が脳裏に再生された。 確か、ゆっくり話すヒマが無くて残念って言ってたよな。 これはゆっくり話したいってことでは? 話し合いの可能性があるなら、争わないで済むかもしれない。 もしかして、俺個人に興味があるとか……!? でも、適当に言っただけで深い意味なんか無いのかもしれないし……。 潜流のことをごちゃごちゃと考えながら寝てしまった。 次の日も、その次の日も出動要請。 人狼みたいな狼の怪人とか、頭が蛙になっている蛙の怪人とか、インゴットを吐き出す金の怪人とか、とにかくしょーもない雑魚怪人との戦いが続いた。 一色と四十万とは共闘することが多く、他の生徒と一緒に行動する機会は少ないから、いつのまにか三人組みたいになっている。 出動要請はいつ来るかわからないから、決まった休日ってもんは怪人退治学園の生徒には無い。 四月があっという間に終わってしまった。

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