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第6話
清々しい朝。
ベッドから起き上がってスマホを見た俺は、クレーンゲームのプライズ入荷情報のウェブサイトでかわいいシマエナガぬいぐるみを発見した。
「シマエナガ……」
緑が生い茂り、太陽の明るい光が降り注ぐ初夏。
怪人退治学園の生徒はゴールデンウィークも学校の寮で過ごしている。とはいえ、門限を守りさえすれば外出も許されているから今日は出かけることにした。
クレーンゲームの新しい景品であるシマエナガぬいぐるみを探して、俺はショッピングセンターを訪れていた。
シマエナガぬいぐるみ、どこだ?
ゲームセンターに入りクレーンゲームを探してキョロキョロしていると、喧騒の中でもラッパのようにはっきりと聞こえる気取ったイケボが俺の名を呼んだ。
「玻璃彦 」
振り返るとそこには、ヴィジュアル系な私服姿の藻沼 潜流 が立っていた。
「え……!?」
いきなり思考をシマエナガから敵のイケメン怪人に切り替えなければならなくなり、感情がジェットコースターになる。
容姿の美しさに加えて、妖しい悪人オーラを放っている潜流には独特な存在感がある。
いつもの白衣とは違う、原宿で買ったみたいな奇抜な服が青緑色の髪によく似合っていてかっこいい。
って、感心してどうする。
この人は敵なんだ。敵!と俺は自分に言い聞かせた。
警戒モードON!
たくさんの買い物客がいるショッピングセンターに秘密結社の怪人がいるということは、事件を起こそうと企んでいるかもしれない。
「そんなに警戒しなくていいよ。僕の異能は戦闘向きじゃないし、ここで事を構える気は無いから」
潜流はチェシャ猫みたいにニヤニヤ笑っている。
「ほんとかよ……」
「君がやるっていうなら、やるけど」
異能が戦闘向きじゃないのに戦う準備があるということは武器を持っているということだ。
仕込み傘は持ってきているけど、ここで戦ったら一般市民が巻き添えを食うかもしれないから戦闘は避けたい。
「お前が何もしないなら俺も何もしない」
「今日はプライベートなんだよね。君もそうだろ?せっかくゲームセンターに来たんだから格闘ゲームで対戦しない?」
俺はゲームはRPGとADVばかりやって、格闘ゲームは最低限の操作が出来る程度。
でも、すいません俺RPGゲーマーなんで……格ゲーはちょっと無理っすね〜なんてクソダサいセリフを吐いて逃げるわけにはいかない。
負けるとわかっていても戦わなければならない時があるんだ。
「受けて立つぞ!」
威勢よく言って、筐体の前に座ってコイン入れたところまではキリッとしていた。
しかし、俺が操作するキャラはお手玉みたいにフルボッコにされて、ほとんど何も出来ないまま負けてしまった。
「楽しかったよ!こんなにストレス発散したのは久しぶりだな」
……なんとなく小馬鹿にされている気がする。
「そりゃ楽しかっただろうな、お前が圧勝したんだから。俺はクレーンゲームのシマエナガぬいぐるみ目当てで来たんだよ。じゃあな」
別にこんなことではプライズは傷ついていないという虚勢を張った。
もう席を立って、シマエナガを探す旅に出よう。
ここ2階はビデオゲームだけのゲームセンターで、間違えて入ってしまった。
クレーンゲームは1階のゲームセンターだった。
わかりにくい場所にあったからショッピングセンターに入った直後は気づかなかったんだ。
やっとクレーンゲームに辿り着いた俺はシマエナガぬいぐるみの捕獲を試みた。
ところが、アームがぬいぐるみの体を滑っていくばかりで一向に取れない。
何回も失敗してついに小銭を使い切ってしまった。
意気消沈して振り返ると、また潜流が立っていた。
「取れなかったんだね」
潜流は相変わらずニヤニヤ笑っているけど、声色にはぬいぐるみを取り損ねた俺に対する同情が含まれているように聞こえる。
後ろからついてきて、失敗する様子をずっと見ていたのか……。
潜流の行動にツッコミを入れたい気持ちはあるけど、失敗を見られた恥ずかしさのほうが上回っている。
穴があったら入りたい。
俺が落ち込んでいる間に潜流が小銭をクレーンゲームの筐体に入れた。
そして、シマエナガぬいぐるみの体と翼の隙間にアームを差し込んで上手いこと取っていた。
クレーンゲームでも負けたことに呆然としていると、半笑いを浮かべた潜流からぬいぐるみを差し出された。
「これあげるよ。欲しかったんだろ」
明らかに馬鹿にされている。
「あ、ありがとう」
思わずぬいぐるみを受け取ると、潜流は右手をヒラヒラと振りながら去っていった。
ぬいぐるみは手に入れたけどプライドはズタボロだ。
俺は呆然として潜流の後ろ姿を見送り、姿が見えなくなってからつぶらな瞳のぬいぐるみと顔を見合わせた。
学校の寮に帰ると、廊下で一色に出くわした。一色はぬいぐるみを物珍しげにジロジロ見た。
「おっ、鳥だ!玻璃彦が鳥のぬいぐるみ持ってる!」
「クレーンゲームのぬいぐるみなんだ」
「取ってきたのか!?お前、クレーンゲーム上手いんだな」
「俺が取れなかったから、知り合いに取ってもらったんだよ」
「へぇー。そいつ、いい奴だな!」
一色はそう言って無邪気に笑った。
ぬいぐるみは自室のベッドの枕の隣に飾ることにした。
「かっこいいところ見せたかったな……」
寝る前にぬいぐるみに顔を向けてそんなことを言っても、返事が返ってくるはずがなかった。
それからというもの、ぬいぐるみと目が合うたびに潜流のことを思い出すようになった。
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