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第25話

学園から借りている携帯端末はバッテリーが切れている。だからもう助けを呼べない。 仕込み刀は折れているし、今ってわりかし良くない状況だと思う。 マルチバース移動装置は支部にもあるらしく、俺は潜流(もぐる)に手を引かれて廊下を歩いている。 潜流のもう片方の手には、例のスイカ包みと同じ物を持っている。 またモヌマサウルスの卵を持っていくつもりか。 孵化なんかさせてはいけないし、これは隙を見て壊さなければならない。 潜流が気に入らない宇宙を壊すなどという身勝手な目的で作られて殺されるというのも可哀想な話だけど…全ては潜流の倫理観の無さが元凶なんだ。 じゃあその倫理観が無い男を好きな俺はどうなんだという話になるわけで。 そこでせめてもの罪滅ぼしに潜流の悪行を阻止しようとはしているんだけど。 装置が置いてある殺風景な部屋に入ると、潜流は機械を操作して装置を起動させた。 機械に囲まれた真ん中の空間には渦潮のような穴が空中に浮かんでいる。 以前に見たものと同じ異様な光景だった。 「さあ行くぞ!」 「潜流、ちょっと待ってくれ」 「何?」 「潜流が探している理想郷ってどんなところなんだ?ここよりマシな宇宙ってのは前にも聞いたけどさ、具体的にどんなものがここより優れていればいいんだ?」 潜流は目線を斜め上に逸らして考え込んだ。 「この宇宙には無い、僕が興味を持てるような何かがあれば良いね。例えば……魔法とか幽霊とか」 潜流と一緒に穴の中へ飛び込んで、辿り着いた先は廃墟だらけの滅亡した街だった。 しばらく探索したが、人の気配は無い。 「なあ、潜流。ここってさ……滅ぼすまでもなく滅びてるんじゃないか?」 「ここにある資源は再利用が出来そうだけど僕が求める理想郷って感じではないね。帰るよ」 二人で元の宇宙に帰った。 「あー疲れた。今日はここまでだ」 「この宇宙ガチャって明日もするつもりか?」 「当然だよ」 「潜流、あのさ……興味が持てるような何かがあれば良いってことは、俺じゃダメか?」 潜流はキョトンとしている。 「君は珍しい異能を持つ貴重な被験者ではある。でも、怪人化した人間っていうのはこの宇宙においては既存の存在だろ」 「この宇宙にも、お前が知らなさそうな未知のことはあるよ……恋とか!!前に言っていただろ、いい相手がいれば考えなくもないって。だったら、俺と付き合ってみるのはどうかな!?理想郷って、好きな人がいる宇宙のことだと思う」 言ってしまった……。 好きなのに伝えないでいるのも辛いし。潜流に任せていたら小難しい話ばかりでちっともロマンチックな雰囲気にならないし。 言うのは構わない。 言うタイミングが正しいかどうかが心配だった。 「明日、13時にこの部屋に来てくれ」 潜流から言われたのはそれだけだった。 俺は怪人がいない宇宙から帰ってきた時に目を覚ましたベッドのある部屋へ戻った。 今日はここで泊まるしかないらしい。 隣にバスルームもあるし、冷蔵庫の中には食べ物と飲み物がある。生活の心配は無さそうだけど、そういう問題じゃない。 秘密結社ダークムーンのアメリカ支部に捕まっているというとんでもない状況で愛の告白をしてしまった。 告白の返事って、YESかNOしか無いもんだと思っていた。 これでは明日まで気が気でない。 寝る時間になって、ベッドの中でも当然なかなか眠れない。 今頃は俺が行方不明になったとニュースで流れていたりするんだろうか。 両親や四十万(しじま)はどうしているだろうか。 考えても仕方ないことを考えてしまう。 明日のことだって、もし返事がNOならその場で殺されるかも……いや、俺のことを貴重な被験者だって言っていたんだし。 生かす価値はあると思われているだろうから、いきなり殺されることは無いと思いたいけど。 YESだって決して安全じゃない。 彼が誰かを傷つけようとしたら止めなきゃならないし、俺にどんな人体実験をするつもりかわからない。 俺が恋をしているのはそういう男だ。 でも、もしかしたら。 告白が成功したら改心してこの宇宙で穏やかに真っ当な科学者として暮らしてくれるかも……。 次の日。 「結論から言うと付き合うのは有りだよ」 ……と言われたので、嬉しくて抱きついて何度も潜流の薄い唇にキスした。 その後で言われたのがこれである。 「でも理想郷探しはやめない。好きな人がいる宇宙が理想郷だとか、そういうロマンチックな話じゃないからさ」 好きな人がいる宇宙が理想郷説、即・却下! 期待した俺が馬鹿だった。 「ムードが無いヤツだな!」 そして潜流は今日もあれ(モヌマサウルスの卵が入ったスイカ包み)を持ってきている。 どうやらこれからも宇宙の平和を守らなければならないようだ。 潜流は俺の手を取った……ロマンチックな意味も少しはあってほしいけど、おそらく他の宇宙に連れて行くために。 これからは恋人と付き合うのと、恋人による宇宙の破壊を阻止するのをどっちもやらなきゃならなくなった。 移動先が潜流の理想郷で、穏やかに過ごしてくれる可能性も無いわけではない。 でも潜流が気に入らない宇宙だったら、また一悶着だ。 いつまで繰り返すのか。 ある意味、この恋はヒーローとヴィランの戦いだ。 俺と潜流はマルチバースを繋ぐ穴に飛び込んだ。

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