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第2話
002
(まただ……この熱に、絡め取られる……)
逃げ場など、初めから用意されていない。
引き寄せられた腰の裏に、晃の強靭な腕が回る。躊躇いを知らぬ指先が、龍馬の柔らかな体温をなぞり、侵食していく。
「な、なんで……俺なんですか」
掠れた声は、密室の静寂に虚しく溶けた。
問いに意味がないことなど、この唇に触れる熱い吐息が一番よく知っている。
「龍馬」
鼓膜を震わせる低い音。名を呼ばれただけで、龍馬の背筋には氷の礫が走るような戦慄と、抗いがたい熱が同時に駆け抜けた。
晃の指先が、慈しむように、あるいは壊すべき玩具の強度を確かめるように、執拗に這い回る。
(……やめて、くれ。これ以上は……)
拒絶を叫ぶはずの心とは裏腹に、身体はただただ無力に弛んでいく。浅くなる呼吸。肺に溜まるのは、主の威圧的なまでの存在感。
「もう……よろしい、でしょうか」
せめてもの抵抗として絞り出した言葉は、震えてひどく幼かった。
「何を言っている。まだ……始まりに過ぎない」
地を這うような低い声が返される。退路を断つその響きに、龍馬は絶望を噛み締めた。
その時だった。
不意に、微熱を帯びた空気が揺れ、鼻腔を甘い香りが掠める。
(――バニラ……?)
いつもの香りだ。晃が好んで纏う、硬質な軍服には不釣り合いなほどの甘い芳香。
けれど、何かが違う。龍馬の知っているそれよりも、ずっと粘りつくような、卑俗な甘さ。
(……誰か、別の……)
思考が、冷たい水に浸されたように一瞬止まる。
その甘美な香りの奥底に潜んでいたのは、化粧品と、そして――見知らぬ女の残り香。
(女、を……抱いてきたのか)
喉の奥が、焼け付くように乾く。
それなのに、晃の手は止まらない。龍馬を組み敷き、弄ぶその手つきには、露ほどの迷いも、後ろめたさもありはしない。
まるで、最初から龍馬に「心」など存在しないと決めつけているかのように、主の指先はさらに深く、残酷な愛撫を刻み込んでいった。
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