2 / 4

第2話

002 (まただ……この熱に、絡め取られる……) 逃げ場など、初めから用意されていない。 引き寄せられた腰の裏に、晃の強靭な腕が回る。躊躇いを知らぬ指先が、龍馬の柔らかな体温をなぞり、侵食していく。 「な、なんで……俺なんですか」 掠れた声は、密室の静寂に虚しく溶けた。 問いに意味がないことなど、この唇に触れる熱い吐息が一番よく知っている。 「龍馬」 鼓膜を震わせる低い音。名を呼ばれただけで、龍馬の背筋には氷の礫が走るような戦慄と、抗いがたい熱が同時に駆け抜けた。 晃の指先が、慈しむように、あるいは壊すべき玩具の強度を確かめるように、執拗に這い回る。 (……やめて、くれ。これ以上は……) 拒絶を叫ぶはずの心とは裏腹に、身体はただただ無力に弛んでいく。浅くなる呼吸。肺に溜まるのは、主の威圧的なまでの存在感。 「もう……よろしい、でしょうか」 せめてもの抵抗として絞り出した言葉は、震えてひどく幼かった。 「何を言っている。まだ……始まりに過ぎない」 地を這うような低い声が返される。退路を断つその響きに、龍馬は絶望を噛み締めた。 その時だった。 不意に、微熱を帯びた空気が揺れ、鼻腔を甘い香りが掠める。 (――バニラ……?) いつもの香りだ。晃が好んで纏う、硬質な軍服には不釣り合いなほどの甘い芳香。 けれど、何かが違う。龍馬の知っているそれよりも、ずっと粘りつくような、卑俗な甘さ。 (……誰か、別の……) 思考が、冷たい水に浸されたように一瞬止まる。 その甘美な香りの奥底に潜んでいたのは、化粧品と、そして――見知らぬ女の残り香。 (女、を……抱いてきたのか) 喉の奥が、焼け付くように乾く。 それなのに、晃の手は止まらない。龍馬を組み敷き、弄ぶその手つきには、露ほどの迷いも、後ろめたさもありはしない。 まるで、最初から龍馬に「心」など存在しないと決めつけているかのように、主の指先はさらに深く、残酷な愛撫を刻み込んでいった。

ともだちにシェアしよう!