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第21話
翌日になればすっかり蒼太の体調も良くなり、無事仕事にも支障をきたさない程回復した。そして数日が経ち、とある休日の事だった。
珍しく蒼太と藍、二人の休日が重なったのだった。二人の休みが重なることが初めてだった蒼太は、今からウキウキとした気持ちをどう隠そうかと悩んでいた。
「ん」
テレビの前に座っていた藍に手招きされた蒼太は、今しがたコップに汲もうとしていたペットボトルのお茶を一旦置き、藍の元へと足を進めた。
「どうしたの?」
床に膝をついた蒼太は藍に問いかける。
「これ、お前もやるだろ?」
「これって、ゲーム?」
藍が手に持っていたのは、一昔前のゲームハードとカセットだった。そのゲームカセットのパッケージを見た蒼太は懐かしさから学生時代の思い出が一気に思い出されるような気分になる。
「これ高校の時よく二人で遊んでたやつだよね」
「そうだっけ」
淡々とゲームの準備を進めいてる藍の隣で、蒼太はニヤけずにはいられなかった。高校の頃よく二人で遊んでいたゲーム、それをまたやろうと藍が誘ってきたことに、蒼太は心の底から喜びを感じた。数少ない休日を藍とあの頃のように過ごせる、なんて贅沢なのだろうか。
「はい、コントローラー」
「あ、うん、ありがとう」
コントローラーを受け取った蒼太は、緩みきった顔を引きしめて画面に集中した。
それから小一時間二人はゲームに没頭した。ゲームをしている時の藍は、物静かで集中している様子がよく分かる。それでもたまに漏れる声が楽しげで、蒼太は微笑ましい気持ちになる。
昼が過ぎた頃、「腹減った」という藍の言葉と共にゲームを中断した。
「昼冷凍チャーハンでいい?」
「うん、俺はなんでもいいよ」
「ん、ちょっとチンしてくる」
キッチンへ向かう藍の姿を目で追いながら、蒼太は何度目か分からない顔のニヤケをどうにかしようと自分の頬を軽く叩いた。
最近の藍はまるで蒼太に対して抱いていた警戒心が解けたかのように接してくる。この同居生活が始まってから早一ヶ月、明らかに藍の態度は変化していた。それこそ高校時代のような雰囲気に戻りつつあったのだ。
「はい、チャーハン」
二人分の炒飯を持ってきた藍に「ありがとう」と蒼太はお礼を言う。こうして今のように二人で食事をすることも増えた。藍との距離は確実に近づいている気がする。あの時を境に開けた心の距離も縮まっているようで、無表情でツンとした藍の態度もどこか穏やかに見えた。
「もう一ヶ月か、早いな」
唐突に藍がそう口にした。炒飯を食べ進める手を止め「あっという間だよね」と蒼太は答える。
「なぁ、蒼太。俺とお前って友達なのか?」
藍はもぐもぐと静かに咀嚼してゴクリと飲み込むと、視線は正面を向いたまま蒼太に問いかけた。突然すぎる問いかけに、蒼太は少しの間言葉が出てこなかった。
「えっ…?えっ?」
「なんだよその反応」
「藍こそどうしたんだよ、急にそんなこと聞いて」
蒼太が尋ねても、藍はマイペースに食事をする手は止めずにもぐもぐと口を動かしている。蒼太が藍の返答を待っていると「もう一度お前の友達になってもいいのかな」と藍は蒼太の顔を見た。
「そんなの当たり前だろ?!ていうかそれは俺の台詞じゃないの?過ぎたことだとしてもお前の嫌がるような事をした俺が藍の友人を名乗っていいのか…」
「それはもういいよ、許す。だからお前も俺を許せよ」
藍のめちゃくちゃ過ぎる発言に、蒼太は戸惑いながらも「許すも何も俺は怒ってないし…」と返す。
「じゃああの時のことはもうチャラな、お前が変態足舐め野郎だったことも俺がお前を避けたことも全部チャラ」
「変態足舐め野郎って…っそれは語弊があるだろ?!!」
蒼太は断固として否定した。事実として蒼太が変態だとしても、藍からそんなあだ名で呼ばれるほど蒼太のメンタルは強くない。
「んふふ、ほんとお前って面白いよな」
唇を少し広げ、瞳を優しく細めた藍が蒼太を見つめる。
──まただ…またこの笑顔…。
蒼太はゴクリと喉仏を上下させ、唾液を飲み込む。自分に優しく微笑みかけてくる藍の笑顔に、蒼太の心は高揚していくようだった。愛おしい、藍のことが愛おし過ぎて今にも心臓が破裂しそうだ。
最近の藍は蒼太に向けて今のような柔らかい笑みを見せるようになった。蒼太のスマホに残っているあの柔らかな笑顔のような表情、これは学生時代でもなかなか目にすることはなかった藍の笑顔だった。何がきっかけなのかは分からないが、やはり藍の態度が変わったように思える。今までの藍はどこか蒼太を警戒しているような素振りだったのだが、今はその警戒心がなくなったかのように蒼太に接してくる。まるで棘が無くなったような藍の態度に蒼太は動揺を覚えた。もちろん今まで通り刺々しい面もあるのだが、穏やかな表情を見せることが増えたのだった。
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