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第2話 最強の姉と、可愛すぎる甥と、巨大なベッド

「うわ、重っ……! なあ湊、この段ボール何が入ってんだ?」 「本だよ。医学書とか参考書」 「なるほどな……って、お前本当にあの大学受かったんだな。すげえよ」 都内の一等地にある、新築の2LDKマンション。 春の日差しが差し込む広いリビングで、 成瀬 健人(なるせ けんと・26歳)は額の汗を拭った。 185センチの長身に、学生時代にスポーツで鍛え上げた分厚い胸板と広い肩幅。 父親譲りの無骨でがっしりとした体格を持つ健人は、 現在中堅メーカーで働くしがないサラリーマンだ。 そんな健人の前で、ニコニコと笑いながら荷解きをしているのが、 甥の湊(みなと・19歳)である。 「健ちゃんが手伝ってくれたおかげだよ。一人じゃ無理だったもん」 「俺は段ボール運んでるだけだろ。……しかし、お前本当に姉ちゃんに似たな。その辺の女子より可愛いんじゃないか?」 湊は、健人とは似ても似つかない、中性的で線の細い美形だ。 母親である健人の姉・美智留(みちる)の美しい容姿をそのまま受け継いでおり、 笑うと目元がふわりと下がるのがたまらなく可愛い。 (まさか、またこいつと一緒に暮らすことになるとはな……) 健人は空になった段ボールを畳みながら、これまでの経緯を思い返していた。 健人と姉の美智留は、12歳も年の離れた姉弟だ。 美智留は18歳という若さで湊を産んだが、すぐに旦那に先立たれてしまった。 そこからシングルマザーとして猛勉強し、見事外科医になったという、 文字通りの「努力の人」にして最強の女である。 美智留が勉強に打ち込み、研修医として死に物狂いで働いていた十数年間。 健人は実家に身を寄せた美智留と湊と共に暮らし、 年の近い湊とは「叔父と甥」というよりも「兄弟」のように育ってきた。 健人が大学進学を機に実家を出て就職してからは疎遠になっていたが、 湊は「健ちゃんが実家に帰ってこないなら、僕が健ちゃんのところに行く」と一念発起し、 健人の住む街の超難関大学に見事合格してしまったのだ。 『湊もそっちで一人暮らしになるし、家賃もったいないから二人で住みなさい。2LDKなら広さも十分でしょ。家賃の7割は私が出すから』 数週間前、姉からそんなLINEと共に、 このマンションの賃貸契約書が送られてきた時は冷や汗をかいた。 逆らえるはずがない。 健人にとって、美智留は絶対に頭の上がらない存在であり、 湊は目に入れても痛くないほど可愛い弟だ。 家賃の負担が減るというサラリーマンにとっての特大のメリットもあり、 健人はホイホイとこの「同棲生活」を受け入れてしまったのである。 「なあ、湊。こっちの部屋の荷物は終わったぞ。……お前の部屋、ベッドの搬入業者きてるみたいだけど」 「あ、うん! 今行く!」 湊の個室となる部屋へ向かった健人は、そこで目を丸くした。 「……おい、湊。なんだこれ。でかすぎないか?」 「え? 普通だよ?」 部屋のど真ん中に鎮座していたのは、 部屋の面積の半分を占領するのではないかというほど 巨大な、特注のキングサイズベッドだった。 「普通じゃないだろ! なんで一人暮らしでこんなバカでかいベッド買うんだよ。俺の部屋なんて普通のシングルだぞ」 健人が呆れて笑うと、湊はベッドの端にぴょんと飛び乗り、シーツを撫でた。 「だって、僕寝相悪いから。……それに、ゆくゆくは毎晩、健ちゃんと一緒に寝ることになるかもしれないし? これくらい広くないと、健ちゃんの大きい体、入らないでしょ?」 「ははは! お前、大学生にもなって俺と一緒に寝るつもりかよ。寂しがり屋だなぁ」 健人は豪快に笑いながら、湊の柔らかい髪をガシガシと撫で回した。 小さい頃から「健ちゃん大好き」とくっついて回っていた可愛い甥っ子。 その無邪気さは、19歳になっても変わっていないのだと、健人は疑いもしなかった。 健人の大きな手に撫でられながら、湊はふにゃりと愛らしい笑顔を浮かべる。 「うん。……僕、健ちゃんと一緒に寝るの、すっごく楽しみにしてるんだ」 その笑顔の奥に、獲物を確実に仕留めるための計算高く、 執念深い「雄」の光が宿っていることに、生真面目で素直な叔父が気がつくのは、 もう少し先の話である。 『無理やりはしない。4年間で、健人が自分から落ちるように仕向けること』 母親と交わした密約を胸に秘め、 湊は目の前に立つ「美味そうな叔父」を、 どうやってこの巨大なベッドに沈めてやろうかと、静かに舌舐めずりをした。

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