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余韻24 迂闊

 帰宅した二人を出迎えたのは子爵家からの便りで、早々に長子への叙爵を受ける旨したためた書状を王宮へ届けたとの内容だった。 「相変わらず仕事の早い人だよ」  そう言ったアーネストを、ダートが少し面白そうに眺めて、室長も同じですと微笑んだ。  父譲りらしいせっかちさでダートの唇を塞ぐと、茶器の音が使用人の訪れを報せ、二人は少し顔を離した。 「――家名を戴いても、しばらくはこの家にいてもいいかな」  こぢんまりとしたこの私邸は、ダートとの距離が近くて、気の知れた使用人がいて、アーネストの心安らげる場所だった。  ダートにとっても、そうであるといい。    そう思いながら見つめ返すと、ダートは少し首を傾げて口を開いた。 「もちろんこの家は落ち着きますが――  俺は、室長がおいでなら、どこでも大丈夫です」  ソファで横並びに座る恋人の言葉に、相合が崩れる。 「えへぇ」  姿勢を崩したアーネストの前に、使用人がお茶を出してくれた。 「アーネスト様、熱いお茶がありますからね。お気をつけくださいね」 「大丈夫です。俺がみています」  ……ちょっとだけ、信用のなさを実感した。  早めの食事をいただいて、ダートの興味をかわしながら体を清めて――  少しだけ、何のために、何をしているのかは教えることにした。  話を聞き終わったダートの感極まった様子に、準備を任せる日が来るのも近い予感を抱いた。  あの日――  番いになった日。  もう、ダートのためにここを準備するのが最後になるといいと、そう願ったのが、嘘みたいだった。 「……っぁ、ダート、中、はや……っく」 「っ……、まだ、です」  横向きの体勢で、清潔にした後ろをひたすら指でいじられて――    首を巡らせて懇願すると、肘でのし上がってきたダートが、あやすようなキスをした。  触れて、少し中をなぞって、荒げた息を飲み込まされて、  肩にすがりつくと、体を寄せてくれて。  それでも、ダートの目には理性の光がともっていた。  眉根を寄せたダートの首すじを、汗が一筋つたい落ちる。  求められていないわけでは、ないはずだ。  空いた手で胸の先の尖りをなぞられて、喉の奥がぎゅうっと閉まった。  目の前がくらくらするような、意識が溶け出すような、そんな高みに一人、立たされていた。  ――こうじゃ、ない。    わずかな静寂。  その中で小さく、いて……、と呟いたダートに、思わず叫んだ。 「い、れ……ろって!」  肩を掴んだ指先が白くなるほど力が入って、見開いたダートの目と、目があった。 「優しく……っ、すんな」  肩から背中、うなじへと手を這わせて。  頭を引き寄せ、喰らいつくようにダートの口を塞ぐ。  呼吸のタイミングを奪ったまま、合間に告げた。 「もっと、……もっと、欲しがって」  腰を揺らして催促する。  ダートの顔が歪むのをもっとみたくて、その猛りにも手を伸ばした。 「っしつ、……ちょ」 「あした、……明日立てなくてもいい、……いいから……っ!」  足を曲げて、ダートの腰を挟む。  指が入ったままのそこに、ダートの昂りを導いた。 「おねが…………っ、ぁ、――あ、あ!」    自分が何を言ったのかなんて、もう覚えていない。  ただ、  ――ただ、今は我を忘れて欲しかった。  それだけだ。 「室長……っ」 「室長……、起きられますか……」  優しく頭をなでる大きな手に、じんじんとする身体中を震わせながらアーネストは目を開いた。 「――ぁーと?」 「はい。……ここにいます」  うっすらと開いた目には、薄明るくなってきた室内が映り込んでいた。  寝台の上で足を伸ばそうとして、じんじんと痺れがあるのに気づく。  久しぶりの感覚に、まだ意識がついていかなかった。 「室長。……足、伸ばしますね」  上掛けを剥ぎ取られて、少し冷えた朝の空気に肌が粟立った。  ダート、と呼びかけた声は、掠れて音にならなかった。 「後でお水をお持ちします。……昨日の、覚えていますか……?」 「何……、を――」  顔を覗き込んできたダートの瞳の色に、  全てのことを思い出した。  息を飲み込んだアーネストを見て、ダートが柔らかく微笑む。 「大丈夫です。動けないほどじゃありません、……きっと」  鼻の頭に口付けを落とされて、アーネストは言葉を失ったまま体を震わせた。  これは、  ――自業自得だ。  ダートを散々煽った記憶が。  ある。  ゆっくりと足を伸ばされて、また曲げられる。  抵抗することなく、その動きに従った。 「室長……」  ため息のような呼びかけに、小さく喉を鳴らして応える。 「やっぱり、次の日にお仕事がある日には。  ――優しくさせてください」  ふいとこちらを見たダートの目線に、小さく頷く。 「俺は、本当は、室長の痛いのも、苦しいのも嫌なんです」 「……ダート」  伸ばした足の、膝を揺らされて言葉を仕舞う。 「でも、室長のほしいカタチもきちんと叶えたいんです」  ダートは目を伏せてアーネストの脚を労っていて、大きな手のひらの体温が優しかった。   「俺の休みの前には、……欲しがって、くれるか?」  その声に顔を上げたダートと、目が合う。  体を起こして、下からすくうようにキスをした。 「仕事がある日の前は、……お前の好きなように抱いていいから」  唇を割りいってきたダートの舌に、アーネストの舌がなぞりあげられて、  喉から意図しない声がこぼれた。 「――本当ですか……」 「……うん。だから、ちゃんと――」  言いかけた言葉を、唇を塞がれて飲み込まれた。  しばらくそこで会話して、その後をダートが引き取った。   「します。――不安にさせません」  その言葉に、ほわっと胸の内が温かくなって、  アーネストはダートの首に腕をまわした。 「――――うん」  ただ、それはつまり――  それまではアーネストの休みの前の日にしかしていなかったのを、  そうではない日でも、いつでも求めてかまわない、  そういう許しをダートに与えたことになっていたのだとアーネストが気づくまでには、  ――まだ一日必要だった。    ダートの言葉に目を見開いて、何か言いながらも並んで私邸に帰っていくアーネストを見て、ヘイデンが言った。   「師団長って、フリードのこととなると本当ポンコツですよね」 「……言うなよ。師団長まだ気づいてないんだから」 「言わないっすよ。フリードがやっと報われたのに」  それでも。 「報われたのは……、あの人も一緒だよ」    二人と共に物語は、――続く。

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