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第0話 プロローグ

 いつも通り、講義室の後方、出来るだけ邪魔にならないところに席を確保する。  他の生徒たちが、次の講師についてうわさ話をしていた。 「講師って、ディッカーの師団長だろ」 「師団長!すげえ人くるな」  今日の講義内容は、魔法騎士の中でも特別な資質を持つ英雄的な騎士、ディッカーの心得。  ダートは心中ため息をつく。  魔法騎士になれるかどうかもあやしい自分には、関係のない話だった。 「諸君、ごきげんよう。昼飯後の眠たくなる頃合いで申し訳ないが、僕の講義は一年通してこの一回しかないんだ。  ぜひ全員の耳に届けたいので、ちょっと頑張って聞いておいてほしい」  講師は部屋に入るなりそう言って、にこやかに生徒たちを見回した。 「もちろん、眠たくなる退屈な話をしないようにも努力しよう。  ――僕は特殊師団、師団長のアーネスト・ブリュージュ。  ここの卒院生で、君らと同じ魔法騎士科の出身だ。  こんなふうに教鞭を取る日が来るとは思ってもなかったなあ」  快活な声でそう言う講師は、師団長という肩書きの割にかなり若く見える人だった。 「それから、ここの寮監を二人体制にしたのは僕だよ。  この中に寮監を勤めている者がいれば、感謝してくれていい」  その言葉に、室内の空気がぐっと和らいで、数名から笑い声もこぼれた。  どんな人が来るのかと思っていたが、思ったよりも、ずいぶんと親しみやすそうな人だ。    ディッカーや師団長という肩書きはあっても、この人も人間なんだな。  なぜか、そんな場違いな感想を抱いた。 「――つまり。ディッカーの資質は、生まれつき決まるものじゃない。努力の先で開く可能性のあるものだ。  でも、ウルラの資質は違う。彼らの資質は生まれ持った稀有な能力で」  講義の終わりぎわ、講師――師団長は、それまでのにこやかな笑顔を少しおさめてから、室内をぐるりと見渡して言った。 「彼らの資質がなければ、どれだけ魔法が上手かろうと、魔力が多かろうと、誰一人ディッカーとしての能力を獲得することはできない」  室内の空気が一気に変わったことを、ダートは肌で感じた。 「ウルラは、ディッカーの魔力をその身に溜めて、またいつでもディッカーに使わせることができる。  逆を言えば、ディッカーはウルラに魔力を溜められるから大きな魔法を行使できるし、人並外れたスタミナも持てる」  昼下がりの穏やかな光差し込む教室の中、師団長の髪の毛がちらちらと陽光を跳ね返している。 「君らがディッカーになりたいと思うなら、そのウルラから、君らに信を、――誇りを預けて良いと思ってもらえるための努力が必要だ」  努力。  苦いものが喉の奥を流れた。  自分の努力は、魔法の技術にはほとんど反映されていない。  それでも、せめて騎士として一人前になれるよう、体を鍛え、体術を磨いてきた。  だけど―― 「――つまり。ディッカーの最も大切な資質とは、誰に恥じない騎士であることだと、十分に理解してほしい」  誰に恥じない騎士になれるための努力など、してきたことはあっただろうか。  室内を見渡した師団長と、一瞬だけ目があった気がした。  騎士として。  誰に恥じない自分であろう。  そう心に誓って、その目を見返した。  

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