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第1話

カイルは、生まれ育った町に帰ることは二度とないだろうと思っていた。故郷そのものが嫌いなわけではない。原因は、父親との関係にあった。 獣医師である父ニックは、家族よりも仕事を優先する不愛想で保守的な男だった。町の人々は彼を名医として敬っていたが、カイルにとっては、ただ自分を養っているだけの、血の繋がった他人も同然の男だった。 それは、カイルが高校を卒業する直前のことだった。 家を出て自立するにあたり、彼は父と、当時はまだ元気だった母にカミングアウトした。 母のジョディは「どんなあなたであっても、大切な息子であることに変わりはない」とニック抱きしめてくれた。しかし、父のニックは拒絶するでも歓迎するでもなく、ただ無関心だった。 それこそが、二人の関係を象徴していた。 母とは違い、父は褒めることも咎めることもない、常にただの傍観者だった。 カイルが何を成し遂げようと、あるいは傷つこうと、ニックが口を開くことはなかった。そんな父の背中を見ながら、カイルは確信に近い思いを抱いていた。 この男は、息子である自分よりも、言葉の通じない動物たちの方を深く愛しているのだと。 カイルが二十歳の秋、母親のジョディが急逝して以来ニックとカイルの距離はますます遠ざかった。 高校卒業後も母のために定期的に帰省していたカイルだったが、彼女の死を境に、一度も故郷の土を踏むことはなくなった。つまり、カイルがこの町へ戻るのは、あの日以来6年ぶりのことだった。そしてその目的は、決して父と再会するためではなく、父の葬儀に参列するためだった。  カイルが生まれ育った町「グレートフォーク」は豊かな自然に恵まれ、野生動物と人間が共生する場所だった。 ハイカーやキャンパーなど、外からの観光客も絶えない。もし父との関係さえ良好であれば、カイルはこの地に骨を埋めたいとさえ思っていた。 6年ぶりに見た故郷の景色その気持ちを再び思い起こさせ、カイルの心を千々に乱した。 「この町が恋しかっただろう?」 実家のウッドデッキから遠くの森を眺めていたカイルに、背後から声が掛かった。 叔父のジョーが、大きな段ボール箱を抱えながら現れたのだ。 「…もちろん。それは叔父さんが一番よく知っているだろう?本当は、ずっとここにいたかったよ……」 ジョーは足元にニックの私物が入った段ボール箱を下ろすと、カイルの隣に並んだ。同じように森を眺めたあと、彼はどこか神妙な面持ちでカイルを見た。 「そうだな……。お前の気持ちはよく知ってる。だがニックは……いや、今日はよそう。お前に話さなきゃいけないことは山ほどあるが、今はその時じゃなさそうだ」 「いいよ、叔父さん。そんなに気を使わなくて。父さんとのことは、もう自分の中で決着がついてるから」 ジョーはニックとは対照的にリベラルな男だった。 カイルがカミングアウトした時も、母と同じように温かく受け入れてくれた。 家を出る際の手続きや引越しも手伝い、カイルが町を離れた後も定期的に連絡をとりあう仲だった。 カイルにとって、ジョーは年の離れた兄のようであり、また父のような存在でもあった。実際、彼が自分の本当の父親だったらいいのにと、カイルは何度も願ったものだった。 「……俺は当事者じゃないから、偉そうなことは言えない。だがな、とにかくお前は天涯孤独じゃない。それだけは忘れるな。これからも、何でも相談してくれ」 ジョーはカイルの肩を軽く引き寄せてハグを交わすと、再び足元の段ボール箱を持ち上げ、カイルに微笑みかけた。  「家の片付けはほぼ終わっているし、長旅の疲れもあるだろう。葬儀も無事に済んだことだし、権利書の名義変更や細々とした手続きは、これからゆっくり進めればいい。今日はもう、ゆっくり休むんだ」 「叔父さん……本当にありがとう。色々と助けてくれて、感謝してもしきれないよ」 「お安い御用さ」 そう言い残すと、ジョーは一人ウッドデッキに佇むカイルを残し、家の中へと去っていった。 カイルは改めて、自分の部屋を見渡した。そして、足を踏み入れた瞬間に感じた違和感の正体に気づく。 驚くほど、何も変わっていないのだ。そこには、6年前の母の葬儀で戻った時と寸分違わぬ光景があった。しかし、それは決して放置されていたことを意味しない。隅々まで埃ひとつなく、誰かが定期的に、丁寧に清掃していたことは明らかだった。 「……まさか、父さんが?」 ぽつりと呟いた瞬間、急激な居心地の悪さがカイルを襲った。今夜この部屋に泊まると決めたのは間違いだったのかもしれない。そう思うと、彼はたまらず、後先考えずに家を飛び出した。 あてもなく夜の街を歩いていると、見覚えのあるバーの灯りが目に入った。 昔からある店だ。だが、高校を卒業してすぐに町を出たカイルはこのバーに一度も入ったことは無かった。 この小さな町には娯楽が少なく、父をはじめとする大人たちがよくここでたむろしていた。幼い頃の彼は、自分もいつか大人になればここへ通うことになるのだろうかと漠然と考えていたが、結局、その未来が訪れることはなかった。 父の知人や、顔を合わせたくない同級生がいるかもしれない。そんな不安がよぎったが、他に行く当てもなかった。カイルは今の煩わしい感情をアルコールで誤魔化すためだけに、そのバーで時間を潰すことに決めた。 一人で静かに飲んでいれば、目立つことも、誰かに気づかれることもないだろう。そんな気楽な、やり過ごすためだけの選択だった。 この店で、まさか自分の運命を揺るがすような出会いが待ち受けているとは、カイルは微塵も思っていなかった。 バーへ足を踏み入れたカイルの視線は、真っ先にカウンターの中に立つ男に釘付けになった。 年齢は40代後半から50代前半。ダークブラウンの髪に銀色の白髪が混じり、精悍な顔立ちをしたハンサムな男だった。 身長は185センチほどだろうか。恵まれた体格の持ち主だが、それはトレーニングで誇示するために鍛え上げた筋肉ではない。日々の労働と節制によって形作られた、ごく自然でしなやかな筋肉のラインが、身体にフィットしたシャツ越しにも鮮明に見て取れた。 カイルは頭の中でその男の服を脱がし、適度に肉の乗った腹筋と下半身に向かう罪深いVラインを想像していたが、すぐに奇妙な感覚に気づいた。 その男に、見覚えがあったのだ。 といっても、今の彼の姿を知っているわけではない。カイルの脳裏に浮かんだのは、もっと若かりし頃の彼の面影だった。 考えれば考えるほど、若い頃の彼と自分の父ニックが、深刻な表情で話している映像が鮮明にちらつき始める。カイルは抗えない衝動に駆られ、吸い寄せられるようにカウンターへ歩み寄ると、その男の正面に陣取った。 「あの……人違いだったら、すみません。もしかして、以前どこかでお会いしたことはありませんか?」 目の前の男は驚いたように目を見開いたあと、どこか含みのある笑みを浮かべてカイルを見つめた。 「君がそれを、純粋な質問として聞いているのか……それとも『誘い』の文句として言っているのか、どっちかな?」 「……両方だと言ったら?」 口にした瞬間、カイルは激しく後悔した。 目の前の男があまりに魅力的すぎて、ろくに考えもせず危険な賭けに出てしまったことに気づいたのだ。 この町は保守的なことで知られているし、なにより彼はあまりに年上だ。左手に指輪はないが、既婚者である可能性も捨てきれない。ここはゲイバーでもないというのに、自分はいったい何を考えているのか――。 カイルは急に恥ずかしくなり、思わず視線を伏せて、気まずさを誤魔化すように咳払いをした。 しかし、そんなカイルの懸念をよそに、男は低く笑った。 「それは……嬉しいね。実は、君が声をかけてくれなかったら、私の方から話しかけようと思っていたんだ。私はトラヴィス。このバーのオーナーだ。よろしく」 トラヴィスは魅力的な微笑みをたたえ、カイルに手を差し出した。 「僕はカイル……よろしく。……その、ここは保守的な町だから、てっきり『店から出て行け』とでも言われるかと思ってた」  カイルは、トラヴィスの肉厚で温かな手のひらと、ゴツゴツとした太い指に強く惹きつけられた。その手が自分の身体をなぞる様子を不埒にも想像したが、初対面の、しかも父親ほども年の離れた男を翻弄する技術も勇気も、今の自分にはない。 カイルは頭に浮かんだ卑猥な雑念を振り払った。 「……確かにここは保守的だ。だが、少なくとも俺は違うよ」 トラヴィスの答えに、カイルは何かが始まる予感に胸を騒がせた。しかし、あまりに爽やかで屈託のない笑顔を向けられると、それが本心なのか、単なる客へのリップサービスなのか測りかねる。 二人の間に流れた一瞬の緊張を誤魔化すように、カイルは慌てて「ジントニックを」と注文した。 「……実を言うと、君の親父さんの葬儀に参列していたんだ。君はその時に私を見たのかもしれないな」 トラヴィスの言葉に、カイルははっと息を呑んだ。  「もしかして、父さんと知り合いだったの?」 「ああ。昔、私の犬が怪我をしたときに、君の親父さんに診てもらったんだ。それがきっかけで、彼が引退するまで、うちの犬たちはすべて彼に任せていたんだよ」 トラヴィスのその言葉で、カイルの昔の記憶がさらに鮮明になった。 まだ子供だった頃、父の診療所の前で見かけた男。彼と、彼が連れていた黒い子犬の姿を。 「ああ……あの時の、黒い子犬の飼い主の……」 「そうだな、それはきっとうちの子だ」 トラヴィスは懐かしむように微笑んだ。 「……実は、君と親父さん……ニックが疎遠になっていたことは、なんとなく知っていたよ。家庭の事情に口を出すつもりはないが。……それでもニックは、君の話をよくしていたんだ」 「……へぇ……」 カイルは短く吐き出した。父が自分の話をしていたなんて、にわかには信じがたかった。 父が一体どんな話をしていたのか。聞くつもりがなかったと言えば嘘になるが、少なくとも今、この瞬間にそれを受け入れる心の準備はできていなかった。 「ところでカイル、ここにはどれくらい滞在するんだい? 今はどこに住んでいるの? 仕事はしばらく休めるのかい?……もしかして君も、ニックと同じ道に進んだとか。おっと、すまない。質問攻めにしてしまったね」 そう言って照れ臭そうに笑うトラヴィスの、目元の小皺がたまらなくセクシーだった。カイルは抗うこともできず、その表情に釘付けになった。 「ええと、とりあえず一週間休みをもらったから、しばらくはここにいるよ。隣の州だし、一時間もあれば帰れる距離なんだけどね。仕事は……まあ、父さんと似たようなものかな。獣医じゃないけど。やっぱり動物が好きなのは、血筋なのかもしれないね……」 実際のところ、カイルの中に「獣医師としての父」の記憶はほとんどない。診療所に出入りしたこともなければ、成長してからは関わりたいとも思わなかった。 だが、何の因果か、カイルは現在、獣医助手として働いている。 「そうか。色々大変だろうけど、ここで少しでもゆっくりできるといいな。それで、宿はどこに取ってるんだい?」 「……実は、実家に泊まるつもりだったんだ。でも、あの家にいると余計なことばかり考えちゃって。気づいたらここに来てた。あと一週間もあそこにいなきゃいけないのに、初日からこれじゃ先が思いやられるよね」 「……今夜はこの後、どうする? 君がまだここで休みたいなら、閉店時間を延ばしてもいい。それとも、もし君が嫌でなければだが……私の家でゆっくり飲み直さないか」 トラヴィスのその言葉が現実なのか、それともアルコールが見せた幻聴なのか、カイルには判別がつかなかった。だが、もしこれが夢だとしても、ひどい二日酔いとともに目覚めるだけのことだ。 仮にこの男が同性愛嫌悪の殺人鬼で、今日が自分の命日になるのだとしても構わない――。カイルの思考はそれほどまでに投げやりで、ひどく昂っていた。 トラヴィスは手際よく閉店作業を終えると、カウンターで待っていたカイルに「行こうか」と声をかけた。 店の裏手に停めてあったトラヴィスのタンドラに乗り込むと、カイルはこれが紛れもない現実であることを自覚し始める。それと同時に、心地よかった酔いが少しずつ醒めていくのを感じた。 誰かと夜を共にするのは久しぶりのことだ。期待と興奮、そして気恥ずかしさが入り混じり、カイルは落ち着かない。さらに、父と同じ年頃の男と過ごすことへの背徳感が追い打ちをかけ、助手席に座る間、彼は無意識に拳を握りしめて肩を強張らせていた。 そんなカイルの様子に気づいたトラヴィスは、そっとその拳を包み込むように触れ、優しくさすった。 「……このまま君の家へ送っていくこともできる。本当のことを言えば、私は君のことをもっとよく知りたい。だが、ただでさえ君は今、困難な状況にいる。そんな君を利用するような真似はしたくないんだ。今日は……」 「ちょっと緊張してるだけだよ……。それに、こんな状況だからこそ、今夜は独りでいたくないんだ」 トラヴィスの言葉を遮るように、カイルは慌てて言った。まるで自分が、この男に抱いてほしくてたまらないのだと白状しているようで、彼は恥ずかしさに耐えかねて俯き、黙り込んだ。 「わかった。ただ、たとえ君が私を一晩限りの相手だと思っていたとしても、私はそう思っていないことだけは知っておいてほしい」 「……トラヴィス」 「初対面の老人がこんなことを言うなんて、理解し難いだろうが。私は君と、真剣な関係を築きたいんだ。この先、長く続くような……」 「……それなら、なおさら今夜はあなたの家に行かなきゃ」 トラヴィスの車は町の中心部を離れ、深い森の中へと入っていった。カイルは幼い頃からこの森に数軒の家が点在していることは知っていたが、まさかトラヴィスがその住人の一人だとは思ってもみなかった。 この森には古くから多くの野生動物が生息し、何十年もの間、町の人々と動物たちは互いの領域を尊重し合いながら共生してきた。 時代の移り変わりとともに人々は利便性の高い町へと移り住んだが、動物たちは人知れず命を繋ぎ、今も安定した生態系を保っている。 「こんな所に住んでるなんて、自然や動物と結婚した人か、よっぽどの変人かのどちらかだね」 ハンドルを握るトラヴィスの逞しい前腕を横目で見ながら、カイルは言った。 トラヴィスは前を見据えたまま、「あるいは、その両方だな」とクスリと笑い、静かに語り始めた。 「実際、今ここに住んでいるのは俺たちだけだ。この森の奥が野生動物の保護区になっていることもあって、普段ここに来るのは行政の調査員か、ビジターセンターに寄る観光客、あとは狩猟解禁時期のハンターくらいだな」 「……どうしてこんな森の中に住もうと思ったの?」 「実は、先祖代々この町で……この森で暮らしてきたんだ。確かに若い頃は都会に憧れてあちこち渡り歩いたが、結局はここに戻ってきてしまう。私にはここの景色や空気が、一番しっくりくるんだよ。DNAに刻み込まれているのかもしれないな」 感慨深げに話すトラヴィスの、精悍ながらも穏やかな横顔。 カイルはそこから目を離すことができず、彼の美しい茶色の瞳に自分だけを映してほしい、などとぼんやり考えていた。  すると、不意にトラヴィスがこちらをチラリと見たので、カイルの心臓は大きく跳ねた。 「カイル、なぜ君はこの町を出ていったんだ? やはり都会に憧れたのかい?」 「……僕は、この町が好きだったよ。でも、父と同じ場所にはいたくなかったんだ」 カイルは無意識のうちに、自分の膝を強く握りしめていた。それに気づいたトラヴィスは、大きな手でカイルの拳を包み込むと、宥めるように優しくさすった。 「そうか……そうだったな。すまない、無神経だった」 「大丈夫だよ、気にしないで……」 その後もトラヴィスの手はカイルの手から離れず、時折その指先が触れるたびに、カイルの身体の奥には熱い痺れのような感覚が広がっていった。 「……さあ、入ってくれ」 トラヴィスはドアを開けてカイルを中へ招き入れると、彼の背中を見つめながら、落ち着いたトーンで切り出した。 「なあ、カイル。バーでも言ったが、今日こうして君を家に連れてくるのは、あまりに性急で失礼なことなんじゃないかと思っている。…もちろん君はすごく魅力的で…」 カイルはすぐに振りかえり、トラヴィスの言葉をキスで遮った。 少しの間固まっていたトラヴィスがゆっくりと口を開けたのを合図にカイルは彼の口内に舌を潜り込ませた。 それをトラヴィスはしっかりと捕まえ、絡ませては吸い、カイルの唾液を甘い蜜のように舐め取り、時折唇を甘噛みする。 2人のキスはますます激しくなり、カイルは無意識のうちに股間をトラヴィスに擦りつけ、トラヴィスもまたカイルの腰を掴む手を尻の方へ回し、小さな双丘を力強く揉み始めた。 だが、その時カイルが急にキスを止め、少し離れたのでトラヴィスは不安げな表情で「やっぱり急ぎすぎたかな?」と囁き、自分の鼻先をカイルの鼻先に擦りつけ、赦しをこうような瞳でカイルを見つめた。 「違うの……今夜は、難しい事は何も考えたくないだけ」 「わかってるよ」 トラヴィスは目の前のカイルのふっくらとした魅力的な唇の誘惑に負け、またそれを味わう為に唇をゆっくりと近づけたが、カイルの指がそれを制した。 「カイル……?」 「だけど……あなたとの関係を今夜限りにしたいわけじゃない。あなたを利用してるわけじゃないって、わかってくれる?」 「もちろん……」 そして二人はキスを再開させた。 トラヴィスはカイルの口の奥まで探るように舌を押し込み、上顎の皺をなぞり、思う存分年下の男の口内を舐めまわすと、今度は彼をクールダウンさせるかのように優しく唇を甘噛みしはじめた。 唾液がカイルの口の端から流れ落ちると、トラヴィスはそれを舐めとり再び柔らかな唇にかぶり付く。 トラヴィスとのキスに腰の力が抜けたカイルは、しがみつくように彼の首に腕を回した。まるでトラヴィスの口から酸素を分け与えられているかのように、その唇を必死で追いかける。そんなカイルの様子を目の当たりにし、トラヴィスはわずかに唇を離すと、征服感に満ちたセクシーな笑みを浮かべた。 「カイル……必死になって、可愛いな」 「……必死なのは僕だけなの?」 「まさか、私もそうだよ」 そう言うとトラヴィスはカイルの手を取り、自分のジーンズの前部の膨らみに導いた。 カイルは恥ずかしさと嬉しさで一瞬目を伏せたが、すぐにまたトラヴィスの唇を求めて身を乗り出した。 トラヴィスの昂りに反応するかのように、みるみるうちにカイルのものも硬度を増し、激しく唇を吸い合いながら互いに骨盤をぶつけ合う。 カイルは2人の隙間を完全に無くす為に、必死でトラヴィスを引き寄せ、火照った身体を密着させた。 トラヴィスはそんなカイルを愛おしく感じ、彼の双丘に手を回すとそのまま軽々と持ち上げ、ベッドルームまで運んだ。 カイルはトラヴィスの腰に足を回したままの状態でベッドに寝かされ、のしかかる心地よい重みと、成熟した雄の匂いにすっかり酔いしれていた。 「こんなにも、誰かを求めるのは久しぶりなんだ」 トラヴィスに耳元で甘く囁かれ、カイルは一刻も早くこの男を自分の中に感じたいと、体の芯が疼くのを感じた。 「トラヴィス……僕も同じだよ」 交わした言葉は、紛れもない真実だった。たとえそれが、この場を凌ぐための優しい嘘であったとしても、今の自分には構わない。今この瞬間、目の前の男が自分だけのものであれば、それで良かった。 互いに恋人がいるのか、あるいは家庭があるのか。正確な年齢さえ知らない。それでも二人は、まるで幾年も連れ添った恋人同士のように見つめ合っていた。 トラヴィスが優しく口づけしながらカイルのシャツのボタンをひとつずつ外すと、カイルも待ちきれないといった様子でトラヴィスのシャツを捲し上げる。 互いに脱がせた服をベッドの脇に放り投げ、二人はあらためて抱き合い、互いの体温を直に感じると、さらなる熱を求めて、カイルは自分のズボンのジッパーフライに手を伸ばし、トラヴィスもベルトを外して床に投げ捨てた。 カイルは完全にズボンと下着を脱いだトラヴィスを見て、彼の大きさに少しの不安を感じたが、今さら彼をあきらめることなどできなかった。 トラヴィスもまた、ベッドで横たわる美しい青年の滑らかな素肌を目の当たりにし、自分たちの歳の差をあらためて突き付けられ、一瞬躊躇したが、今さら止めることなどできなかった。 トラヴィスの怒張したペニスをゆっくりと自分のものに擦り付けられ、カイルはそれだけですでに果ててしまいそうだったが、この濃密な時間を一秒でも長く堪能したくて、意識を飛ばしそうになりながらも、必死に絶頂の波をやり過ごしていた。 震えながら堪えるカイルを見て、トラヴィスはカイルの耳元で低い声で囁いた。 「君がイきたい時にイけばいい。何回でも気持ちよくさせてやる」 トラヴィスはすでにプレカムで滴っているカイルのペニスを優しく握ると、ゆるゆると上下に動かし始める。時々手首をひねらせ、指先で先端部分を優しく愛撫し、あらゆる方向から絶え間なく刺激を与えた。 「ああ……トラヴィス…」 トラヴィスはカイルの甘ったるい声に満足げに微笑むと、自分のものと、カイルのものも纏めて一緒に激しく握り擦り始めた。 立派な熟れた太い幹が、自分の竿を制圧するかのように力強く押し付けられ、ぬめりでぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながらグロテスクに光っている。 カイルはその聴覚的、視覚的な刺激に圧倒され、頭の中が真っ白になり、思わずぎゅっと瞑ってしまう。 「ほら、目を開いて。君がイくときに私を見ていてほしい」 トラヴィスは愛情に満ちた目でカイルを見つめると、二本のペニスを握る手を素早く動かしはじめる。カイルはもう限界だった。 「さあ……イけ」 トラヴィスのその一言でカイルは完全に散った。 まだ呼吸の荒いカイルの唇に、トラヴィスは優しくキスを落とすと「いい子だ」と囁き、すぐにカイルの双丘の割れ目へと指を滑らせ、隠された入り口を撫で始めた。 カイルは急にトラヴィスの大きさを思い出し、思わず彼を抱きしめる手に力が入る。 「……君が嫌なら止めるよ?」 カイルの不安げな様子に気付いたトラヴィスは、彼のこめかみや頬に優しくキスをしながら問いかける。 「大丈夫……やめないで……」 カイルの切実な声にトラヴィスは頷き、再び愛撫を開始する。 縁を優しく撫でるように彷徨っていた指は、いつのまにか潤滑際代わりになっていた精液のおかげでスムーズにカイルの中へと侵入した。 カイルはトラヴィスの男らしいゴツゴツとした太い指を思い出し、それが今、自分の中にいるという事実に興奮した。 だが、興奮しているのはトラヴィスも同じだった。 「クソッ……早く、君のなかに入りたいよ……」 トラヴィスの切羽詰まった声が、荒い呼吸とともに耳元で聞こえ、カイルも一刻も早く彼を中で感じたいと思った。 「……僕も……君がほしい……」 トラヴィスはその言葉を合図にカイルの入り口に先端を押し当て、カイルを見つめながらゆっくりと押し込んだ。 「……あ……っ」 カイルが痛みを感じていないか、慎重に様子を伺いながらもトラヴィスは奥へと進んでいく。 「ベイビー、大丈夫か?……ほら、見てごらん、もうここまで入ったよ」 トラヴィスは入り口の結合部をいやらしく撫でながら、それをカイルに見せつける。 「ああ……すごい」 トラヴィスの楔は、ほぼすべてカイルの中に埋められ、カイルはトラヴィスの手に重ねるようにして一緒にその結合部を撫でた。 「トラヴィス……でも……もっと奥まで……」 「うーん、悪い子だ……」 トラヴィスはそう言ってカイルの足を持ち上げると、一気に最奥まで突き込んだ。 「君は……なんて子だ……すごく、きついな」 トラヴィスは押し寄せる快感と、想像以上の締め付けに眉間に皺を寄せながら、ゆっくりと前後に腰を動かす。 「ああ……トラヴィス……」 カイルは今まで感じた事のない圧迫感に眩暈を覚えながらも、襞のすべてでトラヴィスの熱を感じようと必死に抱きしめた。その血管一本一本を撫でるような感覚に、トラヴィスは我慢できず徐々にスピードを上げる。 「あっ!……っそこ……!」 「ここが好きかい?」 カイルを試す様に、トラヴィスが何度もスイートスポットに熱い楔を擦り付け始めたので、カイルのペニスは再びぴくぴくと動きだし、徐々に硬度を増していった。 「あ……っあ……あ……」 トラヴィスはリズミカルに腰を動かすと、的確な角度で確実に何度もそこを付き、カイルに嬌声を上げさせた。 「カイル、ベイビー、今度は一緒にいこうじゃないか」 「う、うん……!」 トラヴィスは身をかがめると、カイルを力いっぱい抱きしめて体を密着させ、愛欲にまみれた深く激しいキスをした。 カイルは潜り込んできたトラヴィスの肉厚の舌を思う存分味わい、彼の唾液を甘い蜜のように求め、下の穴だけではなく上の穴まで彼自身でいっぱいになる悦びに震えた。 トラヴィスは唾液でべたべたになったカイルの唇を甘噛みすると、今度はカイルの胸を優しく撫ではじめ、硬くなった突起を指先で突いたり摘まんだりし始めた。 「あ、だめ、……いっちゃう」 「私もだ……もう我慢できそうにない……」 トラヴィスもカイル同様、自分の熱の放出を切に願い、息を吸うのも忘れる程、必死で腰を突き動かす。 激しい打ち付けの中、トラヴィスの汗がぽたりとぽたりとカイルの滑らかな肌の上に落ちる。 「…さあ、ベイビー、君はどこに欲しいんだい?」 トラヴィスの野獣のような呻き声に、カイルは恥ずかしげもなく大きな声で叫んでいた。 「あ……トラヴィス…!中…中に…」 「ああ…カイル……クソッ」 「あ……っ…」 カイルは自分の奥にトラヴィスの熱いものが流れるのを感じ、その猛々しい脈動を味わいながら、いつのまにか自分も果てていたことに気付く。 「カイル……素晴らしかったよ……大丈夫かい?」 「うん……大丈夫……」 トラヴィスはまだカイルの中におさまったまま、慈愛に満ちた表情で彼を見つめると、優しく抱きしめ、顔中に貞淑なキスを降らせた。 「さあ、君を綺麗にしてあげよう。少し待ってて……」 そう言って、トラヴィスはゆっくりとカイルから己を引き抜く。それと同時に彼の濃厚でねっとりとした精液がどろりとカイルの穴から流れ落ちた。 その量の多さと何とも言えない感触に、カイルは再び身体が熱くなった。 だが、今の自分に、トラヴィスをさらに求める権利はないような気がして、ただ、ベッドから降りるトラヴィスの背中を、やりきれない気持ちで見つめていた。 所詮トラヴィスと自分は、バーで出会って初めて身体を重ねただけの間柄なのだ。

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