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第6話
カイルの一週間にわたる休暇も、明日で終わろうとしていた。
叔父の助けもあり、すべての書類は郡書記官(カウンティ・クラーク)の事務所で滞りなく受理され、正式に手続きを終えた。
最終的に、自宅と裏手の診療所を含む土地一帯は叔父が相続し、銀行の預金や株式、そして父の遺品などはすべてカイルが引き継ぐことになった。
カイルは当初「家も土地もすべて売却して構わない」と叔父に訴えていた。しかし叔父は、何かあった時にいつでもカイルが戻ってこられる場所を残しておきたいと考え、維持管理のためにあえて自分が相続すると申し出てくれたのだ。
「ひとまず、俺が死んだらお前に渡るように手続きはしておく。最終的にはすべてお前のものになるんだ。その時にまた、どうするか考えればいいさ」
叔父はそう言って、相続がカイルの重荷にならないよう、細やかな配慮を見せてくれた。
役場からの帰り道、車内は静まり返っていた。
ウォーカー家の件で気まずくなって以来、カイルが叔父と会話を交わすことはほとんどなかった。言葉を交わしたとしても、二人はあえてあの話題を避けていた。
だが、カイルはこのまま彼らとのことを叔父に何も告げずに立ち去るのは、どこか間違っていると感じていた。
「叔父さん、大事な話があるんだ。……今から、一緒に森に行ってもいいかな?」
ジョーはカイルの案内に従い、森を抜ける手前で路肩に車を止めた。そこから二、三分ほど歩いたところで、カイルは前方にある野池を指差し、ジョーを振り返った。
「知ってた? ここに、こんな池があったこと」
そこは、カイルがかつてトラヴィスと共に訪れたあの野池だった。
「いや……俺も知らなかったな」
カイルが池のほとりにある倒木に腰を下ろすと、ジョーもその隣へ、ゆっくりと腰掛けた。
「僕は、この森のことも父さんのことも、何ひとつ知らなかった。もちろん父さんだって、僕のことをすべて分かっていたわけじゃないけれど」
ジョーはただ黙って、カイルの横顔を見つめていた。
幼い頃から知っているこの甥っ子は、人一倍感受性が強く、他人との衝突を避けるように目立たず生きてきた。
控えめで大人しく、自らの意見を強く主張するようなタイプではなかったはずだ。
自身のセクシャリティと向き合い、父との不仲に悩み、唯一の理解者だった母を亡くし……彼の人生は、決して平穏なものではなかった。
だが、今のカイルの横顔はどうだろうか。
何かを決意したようなその眼差しを見て、ジョーは彼がもう、自分の知っている「繊細で危うい子供」ではないような気がした。
「ずっと孤独だった。誰といても、どこにいても。……でも、ここに帰ってきて、そうじゃないんだって生まれて初めて感じられたんだ」
「それは……ウォーカーのおかげなのか?」
カイルはジョーの方を向き、穏やかに微笑んだ。
「……正確には、ウォーカー家の人たち、かな」
その返答を聞いてもなお、ジョーが彼らを完全に信用したわけではなかった。
かつてニックが言っていた通り、彼らがオオカミを不法に飼育し、この町のトラブルの火種になりかねないという危惧を、ジョーははっきりと覚えていた。
事実、ジョー自身も最近この森でオオカミのものらしき遠吠えを何度か耳にしている。すぐ側の動物保護区にオオカミは生息していない。
もしここにいるのなら、どこかから流れてきた新たな群れか、さもなくばウォーカーが密かに飼っているかのどちらかだ。
それに、もしかしたら彼はあのオオカミたちを繁殖させているのではないか――
ジョーはそう考えていた。
「お前は、この数日でそこまでウォーカーと親しくなったのか?」
「うん……そうだね。いろんな話を聞いたよ。オオカミのことも……叔父さんが言っていた、黒いオオカミと白いオオカミのことも」
「……本当か?」
カイルは黙って頷くと、倒木のベンチから立ち上がった。
「僕は叔父さんを信じているし、この世界で一番、僕のことを分かってくれていると思っている。だから、僕と父さんの秘密を叔父さんとも分かち合いたいんだ。巻き込みたくない気持ちもあるけれど、僕と一緒に彼らの理解者であり、保護者になってほしい。彼らが困ったときに、助けてあげてほしいんだ」
「一体なんの話をしているんだ、カイル……。彼ら、だと?」
ジョーも立ち上がり、カイルの両肩を掴んで甥の顔を覗き込んだ。
その時。
すぐ近くから、空を震わせるようなオオカミの遠吠えが響き渡った。
ジョーは顔色を変えてあたりを見渡す。すると、その声に応じるようにもう一頭の遠吠えが重なり、さらに三頭目の遠吠えもそれに加わった。
白昼に三頭もの遠吠えを聞くなど、この森では前代未聞のことだ。ジョーは言い知れぬ胸騒ぎを覚え、「ここから離れたほうがいい」とカイルを促そうとした。
だが、当のカイルは落ち着き払った様子で、「彼らを見て……」と、野池の対岸を指さした。
「あれは……」
そこには灰褐色のオオカミと、黒いオオカミ、そして白いオオカミが3頭、静かに並んで佇んでいた。
「あの子たちが、父さんの診ていたオオカミたちだよ」
「……いや、そんなはずはない。あれからもう二十年以上は経っているんだ。あんな風に、若々しいままの姿でいられるわけがない」
「彼らは普通のオオカミじゃないんだ」
「どういう意味だ?」
ジョーはいら立ちを含んだ声で問い詰めたが、カイルはただ、静かに再びオオカミたちを指さした。
「……嘘だろう」
数十メートル先にいた三頭は、ジョーの目の前で徐々にその輪郭を崩し、人の姿へと形を変えていった。
「あれが、ウォーカー家の人たちなんだ、叔父さん。父さんはそれを知っていた。彼らのためにずっと秘密を隠し通し、影で支え続けていたんだよ」
「そうか……。だから、あいつは……」
ジョーは、ある時期を境に、ニックがウォーカー家やオオカミに関する話題を一切口にしなくなったことを思い出した。兄は厄介事に関わりたくなくて彼らを避けていたのではなかった。彼らの正体を知った上で、その平穏を守るために、あえて「何も知らない」ふりをして沈黙を貫いていたのだ。
ジョーはその真意を、今初めて理解した。
「お前は……奴らに、人狼に魅入られたってことか?」
「まあ、そういうことになるのかな」
「これからどうするつもりだ。まさか、仕事を辞めてずっと彼らの傍で暮らすわけじゃないだろう? 明日からは仕事に戻るんだろう?」
「そうだよ。……でも、週末には必ずここに戻ってくる。彼らに会うためにね。ここが僕の居場所だから」
「そうか……」
「だから、僕がいない間、彼らの力になってあげてほしいんだ。父さんがそうしたように。彼らの存在が守られるように。ウォーカー家のためだけじゃなく、僕や父さんのためにも」
「……わかったよ。ニックとお前の頼みなら……そうするしかないな」
照れくさそうに笑うカイルを、ジョーは力強く引き寄せ、抱きしめた。
「本当に明日帰っちゃうんだね」
カイルがバスルームから出たのと、ケヴィンが背後でドアを閉めたのは、ほぼ同時だった。
「ごめん、ノックしたんだけど返事がなかったから心配になって……」
「大丈夫。ちょっと待って、今着替えるから」
バスタオル一枚だけのカイルは、慌ててベッドの上の着替えに手を伸ばした。
「……ケヴィン?」
だが、その腕をケヴィンに掴まれ、そのままベッドに押し倒された。
ケヴィンはカイルに覆い被さり、身体をぴったりと密着させる。首元に熱い吐息を吹きかけ、絞り出すような声で言った。
「今夜が、最後の夜だなんて……」
カイルはケヴィンの垂れた前髪を優しく梳き上げると、慰めるように囁いた。
「……最後じゃないよ。また来週、会えるよ。ちゃんとここに帰ってくるから」
「……じゃあ、しばらく会えない分、今夜は君の中に俺をたっぷり残していくよ」
ケヴィンはそう告げると、カイルに口づけをした。
口づけはどんどん深くなり、ケヴィンが力強く舌を吸うたびにカイルのペニスがピクピクと反応して、腰に巻いたままのタオルにじわりと染みが広がる。
「はぁ……ケヴィン……」
ケヴィンは愛しい恋人に熱っぽく名前を呼ばれて、性急にカイルの腰のタオルを剥ぎ取る。
完全に立ち上がりプレカムで妖しく光るカイルのペニスにそっと手を添えると「君がそうやってすぐ俺に反応してくれるのが嬉しいよ」と、自信に満ちた笑みを浮かべた。
ケヴィンはカイルのものを巧みに扱きながら、彼の首筋に強く吸い付き、跡を残す。そして、鎖骨を甘噛みしながら徐々に胸の突起へと愛撫の範囲を広げていく。
服に擦れて、すでに敏感になっていたカイルの乳首を舌先で軽く突くと、中心をさけ乳輪に円を描くように舐めはじめた。
「ん……っ」
焦ったいその舌の動きにカイルは思わず腰を捩らせると、ケヴィンはニヤリと笑って陰茎を上下に擦る手の動きを早めた。
「大丈夫、ちゃんとイかせてあげる」
そう言うとケヴィンは素早く乳首に吸い付き、口内で転がし始めた。大きく音を立てて、まるで乳を求める赤子のように必死で食らいつきながらも、一瞬たりともペニスへの愛撫も緩めない。
絶え間なく続く過剰な刺激に、カイルの視界は白くかすみがかっていく。
「はぁ……っあ……いっちゃう……」
ケヴィンが乳首を激しく吸い上げ、ポンと音を立てて離した瞬間、カイルは自分の腹部にドロドロとした熱を勢いよく吐き出した。
「……うーん、君は本当に綺麗にイくね……」
ケヴィンは低く唸るように呟くと、素早く自分の服と下着を脱ぎ捨て、再びカイルに覆い被さった。
完全に起立している自分のものに、先ほどカイルが放った精液を擦り付けると、そのまま穴の方へとずらし、入り口に先端を押し付けて、ゆっくりとカイルの中へと侵入した。
「……アッ……ケヴィン!」
先端だけとはいえ、よく慣らされていないそこに感じる痛みは強烈で、カイルの呼吸は浅くなり、無意識にケヴィンの太ももを強く掴んだ。
「……ごめん……カイル……今日はもう我慢できなくて……」
ケヴィンの熱い吐息を耳元に感じた次の瞬間、カイルは一気に奥まで貫かれた。
「………っ!……あ!」
「……カイル、ああ……君の中は……本当に熱くて、せまくて……ああ……すごいよ」
ケヴィンはうっとりと囁きながらカイルの瞼やこめかみや額、頬と顔中にキスを落とし、カイルの表情を伺い、彼を労わりながら、少しずつ腰を動かしはじめた。
「……カイル、大丈夫かい?」
ケヴィンの大きさに順応し始めたカイルは、痛みのせいで固く閉じていた瞼を開け、目のまえの高く澄んだ空の色をした、美しい瞳を見つめた。
「ん、大丈夫……」
ケヴィンは柔らかく微笑み、カイルの唇に触れるだけのキスをし、額と額を合わせると色っぽく囁いた。
「……僕のチンポが君の中でどうなってるのか……教えて?」
ケヴィンのいやらしい問いにカイルはカッと頬が熱くなり、口をパクパクしながらケヴィンを見つめたが、ケヴィンが何度も「ちゃんと言って」とか「このチンポが好きなの?」などと聞いてくるので、カイルはとうとう興奮が羞恥心を上回り、大きな声で叫びながらケヴィンにしがみついた。
「……ああ、すごく……硬くて、あ……奥まで、すごく気持ちい……ケヴィンのチンポが、好き……!」
「んー……やばい……クソっ!そんないやらしい君も、すごくセクシーだ……」
カイルに煽られたケヴィンは、すっかり覚えたカイルのスイートスポットを集中的に責め始めた。灼熱の炉で蕩けそうになりながらも、ケヴィンはカイルの悦びを優先させようと、達しないように必死で耐えていた。
「アッ……あー……」
ケヴィンはカイルの襞が吸い付いて自分を抱きしめる心地よさに、だらしなく口を半開きにしながら、狂ったように腰を打ちつける。
「……うーん、もう我慢できない……ごめん、早く、君の中でイきたい……」
カイルは自分の上で、ハンサムな顔が快楽で歪むのを見て、なんとも言えない甘美な征服感に身を震わせた。昂った彼はたまらずケヴィンを引き寄せ、貪るようなキスをした。
ケヴィンは、いつのまにか再び硬くなっていたカイルのペニスを熱心に扱き始めると、まるでその手の動きと連動させるように、腰を激しく突き動した。
「……んー…っ」
その時、カイルはケヴィンの甘く濃厚な欲望のクリームが、自分の中を白く染め上げるのを感じ、すぐ後を追うように、ケヴィンの手に激しく射精した。
ケヴィンはカイルにキスし続けたまま、さらに奥へと押し込むように数回腰を押し付ける。まるで大事な子種が流れ落ちてしまわないように、あるはずのない子宮に、直接注ぎ込むように。
ケヴィンの力強い雄の生命力と、揺るぎない深い愛情を感じ、カイルは身体も心も満たされて、多幸感に包まれていた。
「……カイル、愛してるよ」
「……僕も、愛してる」
しばらくの間、抱き合いながら余韻に浸っていると、激しくドアを叩く音に二人は弾かれたように起き上がった。
「クソッ……たぶん、俺に用だ。ちょっと行ってくる。君はそのままゆっくりしてて」
そう言い残し、ケヴィンはベッドを抜け出して部屋を出ていった。
なぜ彼が自分への用件だと確信したのか、訝しみながらも、カイルは一人の間に手早く身体を拭き、ベッドサイドにあるペットボトルの水で乾いた喉を潤した。
やがて、ドアが開く気配がして、カイルはケヴィンが戻って来たと思い、振り返った。
「……アレックス?」
そこには、アレックス、正確に言うと黒いオオカミの姿のアレックスがいた。
「アレックス、どうして……オオカミの姿なの?」
カイルはアレックスに近寄ると、いつもスイフトにしていたように、頭を両手で撫でまわし、耳の後ろをガシガシと揉みほぐした。
動物好きの性ゆえか、フサフサとした毛の生き物を前にすると、どうしても構わずにはいられない。
カイルは自分が全裸であることを忘れ、黒オオカミを抱きしめて、その首元に顔をうずめた。
カイルはアレックスの額にチュッと音を立ててキスすると、マズルを優しく撫でて、頬の部分をマッサージした。それから鼻先を互いに寄せ合い、吸い込まれるように美しい黄金色の瞳をじっと見つめる。
黒オオカミはカイルにされるがまま、静かに身を委ねていた。その従順な姿が、人間の姿の時とのギャップを感じさせ、カイルの胸にはさらなる情愛が込み上げる。
再びカイルが黒オオカミをぎゅうと抱きしめた次の瞬間だった。
腕の中の柔らかな毛並みの感触が消えていき、馴染みのある温かで滑らかな手触りに変化し、つい先ほどまで抱きしめていた愛らしい生き物は、瞬く間に、190センチの大男へと姿を変えてしまった。
カイルはつい、もう少し撫でていたかったと思ったが、そんな気持ちを見透かすように、アレックスは目を細めてカイルを睨んだ。
「……やっぱりお前は、人間の俺よりオオカミの俺の方が好きなんじゃないか?」
「……えっ……ど、どっちも、好きだよ……」
たどたどしく答えた次の瞬間、カイルはアレックスによって壁に押さえつけられた。
自分だって決して小柄な方ではない。それなのに、剥き出しの熱を帯びた大男に捕らえられると本能的な恐怖が生まれ、まるで自分が無力な存在のように感じる。
だが、それと同時に圧倒的な安心感にも包まれる。
アレックスは低く喉を鳴らすと、カイルの尻に手を添えて軽々と抱え上げ、飢えた獣のように食らいつくようなキスをした。
カイルは反射的にアレックスの腰に脚を絡みつかせ、両腕でアレックスの頭を抱きしめる。壁と厚い胸板に挟まれ、押しつぶされそうになりながらも、カイルは必死でアレックスの激しい口づけに応える。
また、すでに完全に硬くなっている互いの熱は、さらなる摩擦を求め、まるでペニス同士が口づけをするように、プレカムを混ぜ合いながら絡み合う。
しばらくしてようやく唇が離れると、アレックスは低く掠れた声で「オオカミは……こんな風にできない」と呟いた。
「……え?」
アレックスは、ケヴィンによって既に解されたカイルの窄まりに、怒張した熱い塊を押し当てると、一息に最奥まで突き進んだ。
「……あっ……アレックス!」
痛みは微かだったが、カイルはこれまでにない圧迫感に呼吸を乱し、必死でアレックスの背にしがみついた。
「……アッ……ん……」
アレックスは、カイルの双丘をしっかりと掴むと執拗に腰を突き立て始めた。
「……オオカミの姿では、お前をこんな風には抱けない……」
その言葉は、まるでアレックスがもう一人の自分に嫉妬しているかのようだった。
子供じみた執着が愛おしくて、カイルは激しい喘ぎの合間に、ふふっと柔らかな笑みを漏らした。
「なんだ?余裕だな」
アレックスは不敵に片眉を上げると、カイルをベッドの上に放り投げた。弾むような衝撃に、カイルは危うく床まで転げ落ちそうになるが、強い力で足首を掴まれ、易々と引き寄せられた。
羽毛のように軽々と扱われ、駅弁スタイルも造作もなくこなしてしまうアレックスに、嫌というほど圧倒的な体格差を見せつけられる。
荒々しいのは嫌いではなかったが、そのあまりに乱雑な扱いに、カイルは皮肉っぽく囁いた。
「……オオカミの時とは、本当に別人だね。あっちの君は、あんなに大人しくてお利口さんなのに」
瞬間、カイルはアレックのスヘーゼルの奥にある金色の瞳が燃え上がるのを見て、予期せぬスイッチを押してしまったことに気付く。
アレックスはカイルの足を肩にかけ、再び熱くて濡れた塊を突き込むと、まるで折り畳むように体重を前にかけ、その最奥を容赦なく抉る。
「俺は悪い子か? ……なあ。お前をこんなに気持ちよくさせてるっていうのに」
未開の地を暴かれるような感覚に、カイルの視界は火花が散ったように明滅し始めていた。
「……んッ、アレックス……っ」
アレックスのペニスの血管の一本一本が、カイルの襞とディープキスをするかのように吸い付く。竿の全身で柔らかな肉癖を愛撫し、カイルの一番敏感な場所を何度も集中的に刺激する。
「……これじゃ、だめか?……俺はお前に相応しくないか?」
巧みな腰使いとは裏腹に、アレックスがこぼした珍しく弱気な言葉。
カイルは激しくかぶりを振ってそれを否定した。二人の結合部へと手を伸ばし、愛おしむようにそこへ触れる。もう片方の手でアレックスの頬を優しく撫で、その不安を溶かすように見つめ返した。
「……いい子、アレックスは……いい子だよ、すごく、上手に僕をファックしてくれる……」
カイルがアレックスの髪を指で梳き、オオカミの時にそうするように耳の後ろを優しく撫でる。その瞬間、アレックスは目を見開き、一心不乱だった腰の動きを止めた。
「アレックス……?」
カイルの不安げな上目遣いに、アレックスは「クソ……っ」と低く吐き捨てると、抑えきれない衝動をぶつけるように、彼は再びカイルを激しく突き上げ始めた。
カイル以上に呼吸は乱れ、アレックスは完全に、自分の快楽を求める為だけに腰を振る。狭くて熱い、カイルの蕩けるようなオーブンの中で、アレックスは目も眩むような天国を見た。
「クソ、クソっクソっ……!カイル!お前、お前だけが……俺をイカせるんだ!」
普段の冷静さをかなぐり捨て、我を失ったアレックスの必死な姿に当てられ、カイルは激しい快楽の波に身を委ねると、限界まで沸騰した熱を、堰を切ったように吐き出す。
「アレックスっ!……あ……っ」
触れられることもなくカイルが果てたその様子に、アレックスも限界を迎える。
後を追うようにして、カイルの奥深くへと灼熱の奔流を解き放った。
「クソッ……」
果てた後もしばらく繋がったまま、アレックスはカイルを力強く抱きしめ、時折ゆるゆると腰を動かした。その熱量と心地よい重みに、カイルは思わず「ん……っ」と甘い吐息を漏らす。だが、その声を聞いた瞬間、アレックスは弾かれたようにペニスを引き抜き、苦々しく吐き捨て、顔を覆う。
「……ああ、クソっ!ダメだ、このままじゃ、またお前を……」
一方のカイルは、突然突き放された感覚に、「……?」と困惑したように首を傾げ、自分から離れてベッドを降りるアレックスの背中をただ見つめるだけだった。
「カイル、お前は少し休め。あとで身体を拭いてやる」
「……うん」
アレックスはそう言い残し、バスルームへと消えていった。
しばらくすると、扉の向こうから彼の荒々しい吐息と、低く艶めかしい喘ぎ声が漏れ聞こえてくる。カイルは、彼がそこで独り、昂ぶりを鎮めているのだと悟った。
しばらくしてカイルは急激な眠気に襲われ、ぼんやりとした思考の中で、「それも全部、僕の中に注いでくれたらよかったのに……。ああ、もったいない……」などと、不埒な考えを巡らせながら、いつの間にか深い眠りに落ちていった。
数時間後、背中に確かな熱を感じてカイルは意識を浮上させた。
ゆっくりと振り返ると、慈しむような、それでいてどこか射抜くような眼差しで自分を見つめるトラヴィスと目が合った。
「起こしてしまったかな?」
「……トラヴィス、あなたは、いつからここに……今は何時?」
「うちの困った息子たち。あいつらは君を、時間がわからなくなるまで抱いたんだな」
揶揄うような、けれど微かに独占欲を滲ませたその言葉に、カイルはケヴィンとアレックスとの濃密な時間を思い出し、たまらず視線を逸らした。
だが、すぐに温かい手が顎を掬い上げ、再びその瞳に捕らえられる。
「カイル、君はとても私たちにぴったりなんだ……知ってるかい?私たちのみんな、誰も君なしじゃもう無理なんだ。必ず、戻ってきてくれ……」
「……トラヴィス。もちろん、すぐに帰ってくるよ」
トラヴィスの顔がゆっくりと近づき、カイルは静かに瞼を閉じた。
優しく慈愛に満ちたキスは少しずつ激しくなり、トラヴィスはカイルの上に覆い被さる。
その時、カイルはトラヴィスの熱い塊を太ももに直接感じ、彼もまた何も身につけていないことを知る。
カイルはごく自然な流れのように、下の方へと手を伸ばし、トラヴィスと自分のペニスを一緒に握ると、ゆるゆると扱きだした。
「……ああ、そんな風に刺激しないでくれ。疲れている君に、無理をさせるつもりはないんだ」
トラヴィスはカイルの額に自らの額を擦りつけ、切なげに囁いた。
だが、カイルはその慈しみ深い気遣いさえ、今はもどかしい。
制止を振り切るようにさらに激しく手を動かし、互いの先端から溢れ出た情欲の滴を、二人のペニスにたっぷりと擦りつけていく。
身体の疲労は限界に近かったが、次の週末まで彼に会えないという事実が頭をよぎった瞬間、カイルの中に抑えきれない渇望が沸き上がった。
今はただ、目の前のこの男を自身のすべてで感じていたかったのだ。
「トラヴィス、僕は……あなたが欲しいの」
カイルは再びキスをし、彼を抱きしめたまま勢いよく位置を入れ替え、その上に跨がった。トラヴィスのそそり立つ熱の塊を自分の双丘の谷間に擦り付けながら腰を揺らし、甘いため息を漏らす。
「……ああ、カイル。そんな風に積極的な君も、本当に素敵だ……」
「……ん……っ」
カイルはトラヴィスのペニスの先端を自身の窄みにあてがうと、ゆっくりとその上に体重を落とす。
「……クソっ……君は本当に、熱くて、キツいな……」
トラヴィスはカイルに包まれ、その心地よい圧迫感と溢れるほどの熱にうっとりと目を閉じた。
「トラヴィス……ああ……」
カイルは自分の最も好きな場所にトラヴィスの先端が当たる様に必死に腰をくねらせ、トラヴィスの厚い胸板に手を置いて必死に身体を支えながら、ゆっくりと身体を上下させた。
「なんてことだ……。君は、なんて……ふしだらで、セクシーなんだ……」
トラヴィスは低く喉を鳴らすと、カイルの太ももを愛おしげに撫でさすった。
カイルが沈み込んでくるストロークに合わせ、突き上げるように自身の腰を跳ね上げ、より深く、彼を貫く。
「あっ……」
突然の強烈な刺激にカイルは嬌声をあげ、トラヴィスの上から崩れ落ちそうになったが、すぐにトラヴィスの両腕がカイルの身体を力強く固定する。
主導権はいつしかトラヴィスへと移り、その激しい突き上げに、カイルはまともに座っていられなくなり、力なくトラヴィスの胸に倒れ込む。
「ああ、カイル……ほら、パパが君を支えてあげるよ」
その背徳的な囁きに、カイルの興奮もピークに達し、ペニスは痛いほど張り詰めていた。
「ああ……っ」
トラヴィスは目の前のカイルの胸を撫でさすり、親指で乳首を愛撫すると、片方を口に含み、いやらしく音を立てながら吸い始めた。
上下両方からの刺激にカイルは切なく喘ぎ、トラヴィスにしがみつきながら、その逞しい腕に爪を立てた。
「ああ……んっ、もう、だめ……」
「ん、どうした?私の可愛い息子はパパのミルクが欲しいのか?」
トラヴィスの熱い吐息が耳にかかり、その低く掠れたいやらしい囁きにカイルの羞恥心は完全に消え去った。
「……ああ、欲しい……パパのミルクを、中に……欲しいの……」
「いい子だね、今すぐ……あげるよ……」
そして、数回の強い突き上げの後、トラヴィスはねっとりとした濃厚なクリームをカイルの中に溢れる程に注ぎ込んだ。
「クソっ……っああ、カイル……あああ」
充足と安堵が混じり合ったトラヴィスの嗚咽にも似た喘ぎ。その切実な響きはカイルを激しく打ちのめし、耐えきれずに、触れられることなく果てた。
「あああ……」
射精後の余韻に浸るカイルをしっかりと抱き締め、トラヴィスは彼の昂りが完全に収まり自然に抜け落ちるまで、彼はカイルを上に乗せたまま、慈しむように、そして離したくないと願うように、いつまでも抱きしめ続けていた。
「愛してるよ、カイル」
カイルも同じように「愛している」と告げたかったが、身体はすでに限界を迎えていた。トラヴィスの甘い囁きを子守唄代わりに聞きながら、彼は抗うことなく穏やかに意識を手放した。
出発の日の朝、カイルは実家で自分の荷物を最終チェックした。
すっかり整理され、がらんとした父の書斎を見渡すと、「また来るよ、父さん」と小さく呟いて部屋を後にした。
一階へ降りると、ジョーが玄関先で待っていた。彼は土産物や食べ物の詰まった袋を、カイルに手渡した。
「途中で食べるといい。気をつけて帰れよ」
「ありがとう。……僕からも、渡したいものがあるんだ」
カイルはジーンズの尻ポケットから、あの写真――ウォーカー家と父が写った一枚を取り出し、叔父に差し出した。
「これは……」
「すごくいい写真だから、しまっておくのは勿体ないと思って。……飾っておいてくれる?」
「……わかったよ」
ジョーはそう答えると、カイルを力強く抱きしめた。
「じゃあ、また戻ってきたら顔を見せるから」
「どうせ、真っ先にウォーカー家のところへ行くんだろ?」
ジョーは溜息混じりに言いながら、車に乗り込むカイルへと手を振った
カイルは、名残惜しさに引かれるようにして森の入り口まで車を走らせた。
最後にウォーカー家に寄ろうかとも思ったが、アレックスもケヴィンももうすぐ出勤する時間だとわかっていたし、トラヴィスも今日はバーのリニューアルオープンのパーティーで忙しいはずだ。
悲しくはない、だってまたすぐに戻ってくる――そう自分に言い聞かせると、森の空気を肺の奥まで吸い込もうと車の窓を下げた。
すると、遠くからオオカミの遠吠えが聞こえた。
呼応するように二匹目、さらに間を置かず三匹目が続く。
三匹のオオカミ…ウォーカー家の三人ははまるでカイルがここにいる事を知っていて、彼に別れの挨拶をしているようだった。
胸の奥が熱くなり、カイルは迷わず口元に手を添えた。
恥ずかしさなど微塵もなく、ただ彼らと同じように、仲間として応えたかった。
「ワオーーーン――」
カイルは喉を震わせ、彼なりの遠吠えを森の奥へと返した。
終
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