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第5話

昨晩、一晩中アレックスと結ばれていたせいで、シーツは二人の汗と精液でひどく汚れていた。カイルに至っては、目覚めたときに軽い脱水症状を覚えるほどだった。  アレックスは野獣のような荒々しさで、ほとんど寝ずにカイルを抱き続けていた。にもかかわらず、日が昇ると同時に、意識の朦朧とするカイルを支えてバスルームへと連れていき、その身体を丁寧に洗い上げた。 ソファまで運ばれ、柔らかなガウンに包まれたカイルが手渡された飲み物を口にしている間に、アレックスは手際よくシーツを洗濯し、朝食まで用意した。 そして、食事を終えたカイルを再び清潔なベッドへと横たえた。 「少し眠れ。俺は仕事に行く。鍵はオートロックだから、退屈になったら好きに出かければいい」  アレックスはカイルの額に優しくキスを落とし、愛おしそうに頬を撫でた。 「それから、俺の番号を携帯に登録しておいた。何かあったらすぐに連絡しろ。お前の番号も、俺のに入れてあるからな」  カイルはぼんやりとした頭で、いつの間に勝手に……と思いながらも、彼に怒る気にはなれなかった。むしろ、その強引さがごく当たり前のことのように感じられた。 「おやすみ、カイル」  カイルは黙って頷くと、抗いようのない睡魔に身を任せ、ゆっくりと目を閉じた。  カイルが目を覚ましたときには、すでに正午を過ぎていた。慌ててベッドから抜け出し、服を着替えていると、タイミングを見計らったかのようにスマートフォンが鳴り響いた。  画面に表示された発信者の名前を見て、カイルは一瞬ためらいながらも、通話ボタンを押した。 「トラヴィス……やあ」 「今、電話しても大丈夫かな?」  トラヴィスの穏やかな声が耳に届く。その優しさに触れるほど、カイルは今自分がアレックスのベッドにいるという事実に、強い後ろめたさを感じた。 「もちろん……大丈夫だよ」 「実は今朝早く、アレックスから連絡があってね。色々、話を聞いたんだ」 「あ……あの……」  トラヴィスの言う「色々」が、一体どこまでを指しているのか。カイルは想像がつかず、動揺して口ごもった。 「慌てなくていいよ。君がアレックスと結ばれたことも、彼の姿を見たことも、すべて知っている。……言っただろう? 君は私たちのものであり、私たちは君のものだ。もうその時が来たんだと思う。君に、真実を話したい。私たち家族のこと、そして、君と私たちのこれからのことを」 「トラヴィス……」 「今日も日中は店の改築に立ち会っているから家にはいないが、夜には戻るよ。その時にゆっくり話そう。ケヴィンに迎えに行かせるから。いいね?」 「……うん」  トラヴィスは最後に「ケヴィンが着くまでゆっくりしていなさい」とだけ言い残し、電話を切った。 午後3時頃、カイルはケヴィンからの「あと3分で着く」というメッセージを受け取り、玄関で待ち構えていた。 その言葉通り、3分後にインターホンが鳴る。カイルがドアを開けると、そこにはまだパークレンジャーの制服を身にまとったケヴィンが立っていた。 「あ、ありがとう。わざわざ迎えに来てくれて」  カイルは改めて、ケヴィンの姿を頭の先から足の先まで眺めた。 カーキベージュのシャツはケヴィンの逞しい体格を際立たせ、ダークグリーンのパンツも引き締まった脚のラインに沿っている。深いブラウンのレンジャーハットは、彼の端正な顔立ちをいっそう引き立てていた。  これほどまでに何の変哲もない制服を格好よく着こなせる人物が、ケヴィンの他にいるだろうか。カイルは心からそう感じた。 「君のためなら、どこへでも行くよ。ところで……俺の制服姿、そんなに格好いいかな?」  カイルの見惚れた視線に気づいたケヴィンは、誇らしげに口角を上げて笑った。 「う、うん。すごく似合ってるよ」 カイルが慌てて答えると、ケヴィンはさらに嬉しそうに白い歯を見せて笑った。  カイルは自分に向けられるケヴィンの無邪気でまっすぐな好意が好きだった。だが同時に、彼と会うと顔も知らないソフィアの影がちらつき、そんな資格もないはずなのに、嫉妬に似た醜い感情が胸の奥で燻るのを感じていた。  ケヴィンは愛車のフォード・ブロンコにカイルを乗せると、運転しながらも落ち着かない様子で、ちらちらと隣のカイルに視線を送った。 「今日は君が来るって聞いたから、早めに仕事を切り上げてきたんだ。なあ、父さんが戻るまでまだ時間があるし、少し森でバードウォッチングでもしながら話さないか?」 「うん、いいよ」 「よかった!」  ケヴィンは心底嬉しそうな声を上げ、森の方へと車を走らせた。  十分ほど走って車を止めると、ケヴィンはラゲッジスペースのギアバッグから、アースブラウンのラバーで塗装された本格的な双眼鏡を二つ取り出した。その片方を「行こうか」と微笑みながらカイルに手渡した。 「もう夕方だから、可愛い鳥たちにはあまり出会えないかもしれないけど、マキバツグミなら可能性はあるよ。それに、この時間帯の森は本当なら危険なんだけど……今日は俺が一緒だから大丈夫だ」  ケヴィンは意味深な微笑みを浮かべ、カイルを見つめた。  その時、口笛のような鳥の鳴き声が響いた。 ケヴィンは「静かに」と囁くと、カイルの背後に回り、肩越しに近くの木を指差した。  不意に背後からぴったりと体を寄せられ、ケヴィンの体温を感じてカイルの心臓が跳ねる。だが、彼は促されるままに目の前の景色へ集中した。 「ほら、あの枝の先を見て。……ツグミがいるよ」  カイルはケヴィンの指す方角へ、ゆっくりと双眼鏡を向けた。  レンズの先には、鮮やかなオレンジ色の腹部が印象的なマキバツグミの姿があった。 「よかった、可愛い鳥を見せられて」 「ありがとう……ケヴィン」  カイルはお礼を言おうと振り返ったが、あまりの距離の近さにすぐさま後悔した。  気まずさに身を引こうとしたカイルを、ケヴィンは逃さず引き留める。逞しい腕が、カイルの体を逃がさないよう強く抱き寄せた。 「逃げないで。僕の可愛い小鳥さん」 「ケヴィン……」 ケヴィンはカイルの頬を優しく包み込み、慈しむような眼差しで彼を見つめた。  その吸い込まれそうなほど美しいブルーの瞳に見入っていると、カイルは彼に婚約者がいることさえ忘れ、そのまま身を委ねてしまいそうになる。 「ちゃんと君に話さなきゃな。……アレックスを見て分かったと思うけど、俺たちは呪われた人狼の一族なんだ」 「……俺たちは、ってことは、君も……そうなの?」  ケヴィンはゆっくりと頷いた。 「君は夢だと思っていたみたいだけど……あの時の白いオオカミは、俺だ」 「ちょっと待って……じゃあ、あれは夢じゃなかったの?」  カイルはあの夜の記憶を呼び起こし、息を呑んだ。 アレックスの変身を目の当たりにした今、あれは夢などではなく、紛れもない現実だったのだという確信が胸を貫く。 「あの日、帰宅した時に君の声を聞いて、我慢できなくなったんだ。父さんがあんな風に君を啼かせるから……。本当にごめん……」  あの時の声を聴かれていた。そう思うだけでカイルの顔は火を噴くように熱くなった。 同時に、あの晩のケヴィンとの情熱的なセックスの記憶が鮮明に蘇り、下半身が熱く脈打つ。 密着しているケヴィンに気づかれないか、カイルは生きた心地がしなかった。 「あの晩は、すごく……正直に言って、素敵すぎたよ。でも……ソフィアのことを考えると、僕は申し訳なくて」  カイルがケヴィンの胸に手を当て、そっと距離を置こうとする。それに気づいたケヴィンは、腰に回した腕に力を込め、逃がさないよう再び強く引き寄せた。 「カイル、そのことなら解決したんだ。実は、彼女にも、実はすでに恋人がいたらしくてね。君と出会った後、彼女と話し合ったんだ。……結局、互いの種族を守るために、俺は彼女に精子だけを提供することになったんだ。両家もそれで納得した。俺はソフィアのものじゃない。……君のものだ」  ケヴィンはそう告げると、カイルの骨盤に自身の中心をぴたりと押し付けた。カイルの膨らみに気づいているのか、それをからかうように腰を揺らしながら、カイルの反応をじっと窺う。 「……それでも、ダメかな?」  布越しに伝わる熱が、カイルの理性をじわじわと侵食していく。 「そんなこと……ない」  カイルがケヴィンを見つめ返して答えた、次の瞬間だった。  ケヴィンは傍らのレッドパインの樹にカイルを押し付け、激しく唇を奪った。  邪魔になったレンジャーハットを地面に投げ捨てると、カイルの尻を猛烈な勢いで揉みしだくと、そのまま抱き上げた。 その獣のような荒々しさに振り落とされないよう、カイルは必死でケヴィンの腰に脚を絡め、嵐のような口づけを受け止める。 その時、ケヴィンの携帯電話が静寂を破って鳴り響いた。 「……くそっ」 ケヴィンは低く呟くと、カイルを支えたままポケットからスマートフォンを取り出し、画面をタップした。 「……父さん? ああ、今から帰るところだ。少し待ってて……うん、分かった」 電話を終えると、ケヴィンはどこか落ち着かない様子でカイルを見つめていたが、やがてその表情を険しくさせた。 「帰らなきゃいけない。……でも、君をこのままにしておくわけにはいかないな」 ケヴィンはそう言うとカイルの前にひざまずき、彼のズボンのボタンを外してジッパーを下ろした。 カイルのグレーの下着の一部は彼自身のプレカムで濃くなっており、ケヴィンは満足げに、生地の上から、カイルのペニスの形を確かめるように指でなぞる。 「俺の為に……こんなに硬くして、濡れてるの?」 ケヴィンは溜息混じりに囁くと、カイルの下着をずらし、勢いよく飛び出したペニスを恍惚とした表情で眺め、下から上へとねっとりと舌を這わせた。 カイルは、ケヴィンの長い指が自分に絡みつきながら優しく扱く様子、そして時々上目遣いで、先端をわざとチュッと音を立てて吸うさまを上から眺め、その鮮烈で官能的な光景に息を飲んだ。 唾液とカイルのプレカムの混じった、とろりとした液体が下の方へと流れ落ちると、ケヴィンはそれを追いかけるように、裏筋に沿って舌を這わせた。一滴も残さぬよう、吸い付くようにしてなめすくう。 「……ああっ……ケヴィン」 ケヴィンはカイルの睾丸を優しく包み込むようにマッサージすると、勢いよく一気にペニスを咥えた。 急な刺激にまるで腰に電気が走ったようにカイルはビクリと震え、崩れ落ちないように必死でケヴィンの腕を掴む。 そんなカイルをさらに煽るように、ケヴィンは窄めた唇でリズミカルに吸い上げ、そのまま一気に根元まで深く飲み込み、カイルを快楽の断崖へと追い詰めていく。 ケヴィンに嘔吐反射がないのをいいことに、彼は無意識のうちに腰を突き出し、その奥を貪るように突き上げていた。 「あっ……ん……イク……」 次の瞬間、カイルはケヴィンの温かく湿った口の中ですべてを解き放った。 ケヴィンはそれを当然のように飲み下すと、肌に残る一滴までも丁寧に舐めとる。 満足げにカイルを見上げた彼は、「気に入った?」と悪戯っぽく、チャーミングにウィンクしてみせた。 いつのまにか陽は落ち、2人のシルエットは闇に紛れ、頭上から聞こえるワシミミズクの鳴き声がカイルの喘ぎ声を掻き消し、広大な自然が2人の情事を覆い隠していた。 だが、そこで放たれる「匂い」は、獣――オオカミにとってはあまりに強烈なものだった。 「あ……、カイル、ちょっとまずいかも」  落ち葉を鳴らす、チタ、チタリ、という獣の足音。それに気づいたケヴィンが慌てて立ち上がり、カイルの乱れた服を手際よく整える。 「……マジかよ」  ケヴィンの視線の先、暗がりに浮かび上がったのは、あの灰褐色のオオカミだった。 「…あれは…」 そのオオカミは、カイルに向かってゆっくりと歩み寄ってきた。  よく見ると灰褐色の毛は徐々に薄く透け、滑らかな人の肌へと変化していく。 近づくにつれて身体はせり上がり、ついには人間の男――トラヴィスの姿へと変わった。 「トラヴィス……!?」 「やっと君に、本当の姿を見せることができた」  トラヴィスはカイルを抱き寄せると、その唇に優しくキスを落とした。慈しむように髪に指を通し、愛おしそうに瞳を見つめる。 「二人ともなかなか帰ってこないから、様子を見に来たんだ。君の匂いを追ってね……。オオカミの姿だと、君の甘い声や匂いは、遠くにいてもすぐにわかるんだよ。ケヴィンは、随分と君を甘やかしたようだね?」  トラヴィスの言葉に、カイルの頬は火を噴くように熱くなった。 思わず視線を伏せたが、そうすることで改めて、目の前のトラヴィスが「全裸」であることを意識してしまい、余計に身体中が熱を帯びた。  「責めているわけじゃない。ただ、こんな年齢になっても嫉妬という感情が残っていたことに、自分でも驚いているんだ。それだけ君に夢中なんだよ……」 トラヴィスは指の背で優しくカイルの頬を撫でると、鼻梁、唇と順番になぞり、最後に顎を持ち上げて再び唇を重ねた。それは先ほどの紳士的なものとは違い、所有欲の籠もった、奪うような情熱的な口づけだった。 唇を離したあと、銀の糸を引く唾液がその激しさを物語っていた。  カイルはうっとりとした表情でトラヴィスを見つめ、愛おしげにその名を呼ぶ。 「トラヴィス……」  その時、トラヴィスとカイルの戯れに我慢できなくなったケヴィンが口を開いた。 「父さん……俺の前でやめろよ。早く変身して家に戻ってくれ! 俺もすぐにカイルを連れて帰るから」 ケヴィンは父親の全裸から顔を背け、手で追い払うような仕草を見せた。 「……わかったよ。すぐに来るんだぞ」  トラヴィスは短く応じると、再びオオカミの姿へと戻り、森の奥へと姿を消した。  ケヴィンはため息をつき、地面に落としたレンジャーハットを拾って被り直すと、カイルに向かって手を差し出した。 「さて、行こうか」  カイルは当たり前のようにその手を握り、二人は車に向かって歩き出した。  ケヴィンの隣を歩きながら、カイルはふと思う。もし自分もオオカミだったなら、彼らと一緒にこの森を駆け抜け、家まで帰ることができるのに、と。 ウォーカー家に戻ると、そこにはトラヴィスだけでなくアレックスの姿もあった。 ウォーカー家の男たちが全員揃ったことに、カイルは深い安堵を覚えるとともに、やはりこここそが自分の居場所なのだと確信した。 「カイル……今夜は、俺たち一族のことをきちんと君に話そう」  トラヴィスに促されるまま、カイルはリビングのソファに腰を下ろした。 トラヴィスがその隣に座り、反対側からはケヴィンがカイルを挟むようにして身体を寄せる。アレックスは、そんな三人を見据えるように正面の壁に寄りかかり、いつものように腕を組んで立っていた。 トラヴィスはカイルの方へわずかに身を乗り出し、その手をそっと握った。 「すでに君は、それぞれのオオカミの姿を目にしたとは思うが……私たちは人狼の一族だ。この国だけでなく、世界中に人狼の一族は存在している。だいぶ数は減ってしまったが、一部の人間の協力のもとで保護され、繁殖し、この血脈を絶やさないよう努めている。それが人狼としての、種族の定めなんだ」  カイルはここ数日の間に何度も耳にした、まだ馴染みの薄い「種族」という言葉を反芻した。 「繁殖し、絶やさないようにする、か……。ケヴィンの結婚も、そのためのものなの?」  カイルは隣に座るケヴィンに視線を向けた。 「そういうこと。この種族には、ある群れの末子の雄と、別の群れの最年長の雌を番わせるっていう古くからのしきたりがあってね。運悪く、今回は俺がその役目に当たったってわけさ」  ケヴィンはわざとらしい笑顔を作り、おどけた調子で肩をすくめてみせた。 「それで…どんな感じなの…その、自分でコントロールしてるわけでしょ?変身、するのを。オオカミの時の意識は人間としてあるの?喋れないだけ?」 カイルが三人を交互に見ながら訪ねると、アレックスが答えた。 「そうだな。子犬の頃は本能が8割、人としての知能が2割といったところだが、成長と共にその割合は逆転していく。成犬になる頃には、姿は狼でも中身の8割は人間だ。たまに2割の本能が顔を出すこともあるが、理性を失うほどじゃない」 カイルは「なるほど……」と唸るように呟いた。頭の中で情報を整理しているうちに、胸の奥に仕舞い込んでいた疑問が首をもたげる。 「そうだ……トラヴィス、聞きたかったことがあったんだ」 「ああ、なんだい?」 「あなたは、僕の父さんとどれくらい親しかったの?……父さんは、どこまで知っていたの?」 トラヴィスは少し間を置いてから、静かに言葉を返した。 「……そうだな。出会った時にも言ったと思うが、君の父親であるニックには、色々と世話になったんだ。知っての通り、彼はただの犬を診ていたわけじゃない。アレックスやケヴィンが傷を負ったとき、オオカミだとわかっていて密かに治療をしてくれていたんだ」 「うん、あなたがアレックスを連れてきた日の事、はっきりと思い出したよ…」 トラヴィスが懐かしむように目を細める。 「あの時はケヴィンが……親イノシシを挑発して返り討ちに遭ったところを、アレックスが助けに入ったんだ。また別の日には、ケヴィンが町の子の飼っているウサギを噛んでしまって――」 「おい、俺がトラブルメーカーみたいな話ばかりするのはやめてくれよ」 ケヴィンがしかめっ面で言葉を遮った。トラヴィスは苦笑しながらも話を続ける。 「……とにかく、他にも玩具を誤飲した時にも助けてもらったし、本当に彼にはよく世話になった。さっきも言った通り、幼い頃はオオカミの本能が強すぎて変身を制御できなくて、怪我や事故が絶えなかったんだよ」 頷きながら聞いていたカイルは、ふと視線を鋭くした。 「……それで。父さんは君たちが『犬』じゃないって気づいた後どうしたの?」 「もちろん、ニックはプロだからな。すぐに私たちの正体に気づいたよ。この町ではオオカミの飼育が禁じられているから、かなり問い詰められたものだ。ケヴィンのウサギの件もあって、オオカミが人里に降りてくることを危惧していたんだろう。……だから私は、これからのことを考えて彼にすべてを打ち明けた。私たち一族の真実をね。君が今日まで何も知らなかったということは、彼は最後まで私たちとの約束を守り通してくれたということだ」 「……父さんが、まさか……全部知っていたなんて」 「だからこそ、バーで君に声を掛けられた時……俺は本当に、運命を感じたんだよ」 「もっと早く……こういうことを、父さんと話せていたらよかったのに……」  カイルの瞳が潤み始めたのに気づくと、トラヴィスはすかさずその肩を抱き寄せた。ケヴィンもまた、カイルの膝に手を置き、慰めるように優しく撫でた。 カイルは父が死ぬまで彼らとの秘密を守り抜いたことに敬意と感謝を抱いたが、狼のことも自分自身のことも、父と「真実」を分かち合えなかった落胆は大きい。しかし最終的には、これほど壮大な秘密を、時代を超えて共有しているという事実にカイルは激しく心を震わせた。

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