1 / 1
第1話
「3番テーブルのお客様、急いでほしいとおっしゃっておられます!」
「ちょっと待て!今やってるから!」
そんな声が響く厨房。
午後七時、都心に構えられたイタリアンレストラン『Trattoria Segreto(トラットリア・セグレット)』は、今晩も活気づいている。
店がオープンしたのは二年前だ。
ホール専属スタッフ二名と厨房が五名。
そしてシェフの桜木愛斗と、マネージャー柳田雄志がいる。
愛斗は国内最高峰の料理コンテストで準優勝となる腕前。
レストランはSNSでも話題となり、瞬く間に人気店となった。
愛斗の実力も去ることながら、柳田のマネージメント力も人気の秘密だろう。
また、カジュアル路線という手軽さも受けているのかもしれない。
『はぁ……今日も素敵すぎる……』
作業をするべき愛斗の視線は、とある方向へと向いていた。
『あ……いけない……またやっちゃった……料理に集中しなきゃな』
愛斗はまた気を引き締め直し、盛り付けをしていた手を再び動かす。
それでも彼の心はほんのりと温かくなった。
愛斗が盛り付けを再開すると、既に出来上がった料理が運ばれていないことに気付く。
「ホール、3番まだか!?」
彼の声に反応したのは、スタイル抜群で美麗なルックスをしたマネージャーの柳田だ。
「今出します!厨房こそ遅れてるのでは!?」
「今やってる!すぐ出来るから!」
こんなやり取りは日常茶飯事ではあるが、二人は互いにいつも視線を送り合っていた。
ただ、そのことに双方ともに気付いてはいない。
柳田が答えたことに内心で少し驚いた愛斗だったが、それを悟られまいと気を付けて返事する。
盛り付けを終えた愛斗は、すかさず食欲をそそる香りを漂わすパスタをデシャップ(出来上がった料理を載せる場所)に載せた。
マネージャーは業務の種類が多岐にわたるが、柳田は敏腕であり愛斗は店の運営を彼に任せている。
この店で働くようになる前の柳田は、別の店でホールを担当していたらしい。
柳田と店をやってきて、この店の経営は順調だし有能ぶりは舌を巻くほど。
『ホント、いつみてもカッコよすぎ…。あの人と店がやれて良かったよな』
そんなことを考えながら、愛斗は場所を移動してフライパンを手にした。
ともだちにシェアしよう!

